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神になった悪役令嬢
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「歌うのが好きなのかい?」
おんぼろの馬車に揺られていると、老婆が尋ねてきた。
「……好きよ。すごく好き。こうしてないと、気が狂っちゃうの」
思えば人と話すのは久しぶりだ。ずっと牢獄に囚われていた。
「綺麗な歌声だよ……。あなたみたいな子が、どうして……」
老婆はそこで、口を閉じた。
どうして……。何?
どうして両親を、殺したのかって?
そんなの、私が訊きたいくらい。どうしたら、あんな素晴らしい両親を殺すことができるの?
父は私に、何でも買い与えてくれた。
母は私に、愛を教えてくれた。
「ららら~」
歌っていると、涙がこぼれない。むしろ笑顔になる。
だけど奴隷は嫌だなぁ……。
しばらく馬車に揺られていると、大きな門が見えてきた。
身体はとっくにバキバキで、早く布団の上に戻りたいと思うほど。
……奴隷に布団なんて、用意されるわけないのに。
「着いたよ……。頑張っておいで」
老婆が優しく髪を撫でてくれた。
「ありがとう。頑張らないけど」
私の返した言葉が気に食わなかったのだろう。老婆はすぐに帰って行った。
「おい貴様。こっちだ」
「いっ……」
いきなり兵士が現れて、私の頭を掴み、壁に体を押し付けてきた。
そして、動けない私に、手錠や足枷を付けていく。
「……絆の端に、あるという」
「は?」
「愛の兆しが~。あるという~」
「貴様、俺をなめているのか?」
「んがっ!?」
思いっきり顔を殴られた。口の中で血の味がする。
「ららっ……」
「隊長。老婆の話によると、精神を病んでいるのだとか……」
「なにぃ?そうか……。だとすると、性奴隷としては使えないな……。ちっ。せっかくそこそこ売れそうな女なのによ」
「瞳を~」
「うるせぇ!」
次は叩かれなかった。おそらく精神的に障害のある奴隷は、肉体労働をさせたいから、怪我を負わせたくないんだと思う。動けなかったら、使い物にならいないから。
足枷は外してくれた。あぁもうこれは……。一日十九時間労働の奴隷、確定かな。
兵士たちに引っ張られ、工場のようなところへ連れていかれた。
「いいか?そこにある斧を持って、あの壁を壊す。それだけだ」
「ふふふ~」
「返事をしろ」
「……はい」
怒られたくなかったから、従った。こうやって奴隷は、恐怖を植え付けられていく。
私が壊すことを命じられた壁は、おそらくこの国に昔住んでいた、原住民が作ったものだと思う。
……あの兵士たちが追い出して、土地を奪ったんだ。
壁を壊して砕けた石を、別の奴隷が運んでいく。そして、工場の中へ持って行き、高熱で溶かす……。
「あぁ~。君がその腕で~」
歌いながら、斧を振り下ろす。壁を砕く。腰が痛い。すぐにへばる。
「貴様、休んでおるのか?」
「あヴっ!」
少しでも体を止めると、体に電気を流される。この手錠に仕組まれているのだ。
「動きが遅い!もっと早く砕け!」
手錠をはめられ、それでも斧を早く振ることができる人がいれば……。それはきっと天才だ。
一方向にしか動かすことのできない腕で、壁を砕き続ける。
それでも私は、笑顔を絶やさなかった。
「ははは~。大好きなあなたに送る空~」
他の奴隷が、私に困ったような視線を向ける。あなたたちは、仲間でしょう?どうしてそんな顔をするの?
「……あぁ我慢ならん!」
一時間程度、作業を続けていたところ、急に見張りの兵士が立ち上がって、私のところに向かってきた。
「お前は出て行け!もはや奴隷として、生かしておくことすら馬鹿らしい!」
頭を思いっきり殴られた。一発じゃない。二発。三発……。あれ、次は何発目……。
数えられなくなったところで、意識が飛んでしまった。
「あがぁっ!」
激痛で目が覚めた。何か、馬車のようなものから振り落とされたような……。
馬の足音が聞こえる。
あぁそうか……。私、森の奥地に、捨てられたんだ。
痛みで体が動かない。頭も働かない。
ここでこのまま、死を待つだけだ。
でも……。父と母の元へ行けるのなら、それも悪くない。
私は静かに、目を閉じた……。
「……え?」
はずだったが、いきなり目の前に強い光を感じた私は、反射的に、目を開けてしまった。
これだけ強い光なのに、眩しさを感じない。よくわからない感覚だ。
光っているのは……。石?
右手でそれを掴もうとしたが、どうやら折れてしまっているらしくて、動かない。
痛みに耐えながら、必死で左腕を伸ばして、石を掴む。
――その瞬間。
身体に、力が宿ったことを感じ取った。
「なにこれ……」
痛みが和らいでいく、見る見るうちに、ぼやけていた視界がクリアに。
「……ふふん、ふん」
思わず鼻歌を口ずさんでしまう。この状況は一体……。
「ららら~!愛を叫びます!」
肋骨が折れていないので、お腹の底から声が出せる!
って、あれ。
目の前の木が、なぎ倒されてる……。私がやったの?
……まさか、今の大声のせい?
「慈しみは光となりて……」
それでも、歌っていないと、やっぱりあの映像が蘇るから。
「らんらんらん」
とりあえず、このまま森を出よう。
おんぼろの馬車に揺られていると、老婆が尋ねてきた。
「……好きよ。すごく好き。こうしてないと、気が狂っちゃうの」
思えば人と話すのは久しぶりだ。ずっと牢獄に囚われていた。
「綺麗な歌声だよ……。あなたみたいな子が、どうして……」
老婆はそこで、口を閉じた。
どうして……。何?
どうして両親を、殺したのかって?
そんなの、私が訊きたいくらい。どうしたら、あんな素晴らしい両親を殺すことができるの?
父は私に、何でも買い与えてくれた。
母は私に、愛を教えてくれた。
「ららら~」
歌っていると、涙がこぼれない。むしろ笑顔になる。
だけど奴隷は嫌だなぁ……。
しばらく馬車に揺られていると、大きな門が見えてきた。
身体はとっくにバキバキで、早く布団の上に戻りたいと思うほど。
……奴隷に布団なんて、用意されるわけないのに。
「着いたよ……。頑張っておいで」
老婆が優しく髪を撫でてくれた。
「ありがとう。頑張らないけど」
私の返した言葉が気に食わなかったのだろう。老婆はすぐに帰って行った。
「おい貴様。こっちだ」
「いっ……」
いきなり兵士が現れて、私の頭を掴み、壁に体を押し付けてきた。
そして、動けない私に、手錠や足枷を付けていく。
「……絆の端に、あるという」
「は?」
「愛の兆しが~。あるという~」
「貴様、俺をなめているのか?」
「んがっ!?」
思いっきり顔を殴られた。口の中で血の味がする。
「ららっ……」
「隊長。老婆の話によると、精神を病んでいるのだとか……」
「なにぃ?そうか……。だとすると、性奴隷としては使えないな……。ちっ。せっかくそこそこ売れそうな女なのによ」
「瞳を~」
「うるせぇ!」
次は叩かれなかった。おそらく精神的に障害のある奴隷は、肉体労働をさせたいから、怪我を負わせたくないんだと思う。動けなかったら、使い物にならいないから。
足枷は外してくれた。あぁもうこれは……。一日十九時間労働の奴隷、確定かな。
兵士たちに引っ張られ、工場のようなところへ連れていかれた。
「いいか?そこにある斧を持って、あの壁を壊す。それだけだ」
「ふふふ~」
「返事をしろ」
「……はい」
怒られたくなかったから、従った。こうやって奴隷は、恐怖を植え付けられていく。
私が壊すことを命じられた壁は、おそらくこの国に昔住んでいた、原住民が作ったものだと思う。
……あの兵士たちが追い出して、土地を奪ったんだ。
壁を壊して砕けた石を、別の奴隷が運んでいく。そして、工場の中へ持って行き、高熱で溶かす……。
「あぁ~。君がその腕で~」
歌いながら、斧を振り下ろす。壁を砕く。腰が痛い。すぐにへばる。
「貴様、休んでおるのか?」
「あヴっ!」
少しでも体を止めると、体に電気を流される。この手錠に仕組まれているのだ。
「動きが遅い!もっと早く砕け!」
手錠をはめられ、それでも斧を早く振ることができる人がいれば……。それはきっと天才だ。
一方向にしか動かすことのできない腕で、壁を砕き続ける。
それでも私は、笑顔を絶やさなかった。
「ははは~。大好きなあなたに送る空~」
他の奴隷が、私に困ったような視線を向ける。あなたたちは、仲間でしょう?どうしてそんな顔をするの?
「……あぁ我慢ならん!」
一時間程度、作業を続けていたところ、急に見張りの兵士が立ち上がって、私のところに向かってきた。
「お前は出て行け!もはや奴隷として、生かしておくことすら馬鹿らしい!」
頭を思いっきり殴られた。一発じゃない。二発。三発……。あれ、次は何発目……。
数えられなくなったところで、意識が飛んでしまった。
「あがぁっ!」
激痛で目が覚めた。何か、馬車のようなものから振り落とされたような……。
馬の足音が聞こえる。
あぁそうか……。私、森の奥地に、捨てられたんだ。
痛みで体が動かない。頭も働かない。
ここでこのまま、死を待つだけだ。
でも……。父と母の元へ行けるのなら、それも悪くない。
私は静かに、目を閉じた……。
「……え?」
はずだったが、いきなり目の前に強い光を感じた私は、反射的に、目を開けてしまった。
これだけ強い光なのに、眩しさを感じない。よくわからない感覚だ。
光っているのは……。石?
右手でそれを掴もうとしたが、どうやら折れてしまっているらしくて、動かない。
痛みに耐えながら、必死で左腕を伸ばして、石を掴む。
――その瞬間。
身体に、力が宿ったことを感じ取った。
「なにこれ……」
痛みが和らいでいく、見る見るうちに、ぼやけていた視界がクリアに。
「……ふふん、ふん」
思わず鼻歌を口ずさんでしまう。この状況は一体……。
「ららら~!愛を叫びます!」
肋骨が折れていないので、お腹の底から声が出せる!
って、あれ。
目の前の木が、なぎ倒されてる……。私がやったの?
……まさか、今の大声のせい?
「慈しみは光となりて……」
それでも、歌っていないと、やっぱりあの映像が蘇るから。
「らんらんらん」
とりあえず、このまま森を出よう。
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