偽物聖女を愛した国は滅びて当然です。

冬吹せいら

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聖女の条件

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ダントレイは貧しい国ではあるが、文化的には、隣国を凌ぐほど、豊かであった。

街にはいつも、笑顔が溢れていたし、魔法を使用した空中アートや、古くなった家具を塗装しておしゃれに変身させるなど、様々に工夫し、限られた資産、能力で、日々を明るく彩っている。

そんな文化に明るいダントレイであるから、王宮の地下には、大きな書庫があった。

私はそこで、聖女についての研究を日々重ねている。どうすれば、少しでも聖女に近づくことができるのか。田畑を潤し、この国に光をもたらすことができるのか……。

「精が出ますね。サンダルシア様」
「リル……。いえ、これくらいのことは、当たり前ですから」
「いいえ。あなたほど努力している聖女は珍しい。その思いがあれば……。きっと田畑も、答えてくれる日がくるでしょう」

リルの笑顔を見ると、申し訳なくて、泣きそうになる。私は何の能力も無い、ただの農民なのに、リルを……。民を期待させているのだ。もし神がいるならば、私を裁くだろう。大罪人として、はりつけにされても、文句は言えない。

「そういえば、このような話を聞いたことがあります。ある日聖女様の祈りが、急に途絶えた国がありました。聖女様は困惑し、いくつか方法を試しましたが、どうにもうまくいかない……。彼女は、どのようにして、解決したと思いますか?」
「えっ……」

質問されると思っていなかった私は、言葉に詰まってしまった。そんな自分を情けなく思っていたら、リルがやさしく微笑んで、頭を撫でてくれた。

「すいません。いきなり訊かれても困りますよね。実は、この聖女様は……。自分の大切な、一番守りたいものを、思い浮かべたんだそうです」
「一番守りたいもの、ですか?」
「はい。聖女様の祈りは、国を救う素晴らしい力ですが、それには必ず、元となる思いが必要になるんだそうです。彼女の場合は、それが……。夫への、愛だったのだとか」

リルが、少し照れながら言った。

「あまり国のことを考えすぎると、元の思いが弱まってしまう。サンダルシア様は、祖国で聖女にお目覚めになったのですから、一番最初に、大事に思ったことを、思い出してみてください」

……私は、聖女ではない。

けれど、もし今、目覚められる可能性があるのだとしたら。

――この王子を、幸せにしたい。

「おっと。そろそろ、昼の祈りの時間ですね。終わりましたら、一緒に食事をしましょう。今日はとっても油の乗った魚が釣れたそうですよ!楽しみですね!」
「ふふ……。そうですね」

リルを思って、祈りを捧げてみよう。

私はそう思いながら、彼の後に続いて、書庫を出た。
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