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第四話
「サチコ、待たせてごめん。……サチコ?」
「ディランお願い、今すぐ帰ろう?もうここには居たくない、帰りたいの」
必死の面持ちで訴える私を見て何か感じたのだろう、ディランシーズはすぐさま馬車を呼び寄せると私を連れて屋敷へと向かった。
帰りの道中、馬車の中で泣きじゃくる私に彼は理由を聞いて来たけれど、なんと答えればいいのか分からずひたすら泣くだけだった。
不安に押しつぶされそうで、私はこの晩、彼に抱かれることを望んだ。優しい愛撫を仕掛けてくる彼に、私は激しく抱いてとせがむ。
「めちゃくちゃにして。何もかも忘れたいの」
「……サチコ……」
噛み付くようなキスをされ、引き裂くようにドレスを脱がされた。
愛撫もそこそこに私の膝を掴んで大きく開いたディランシーズは、腰を進めると硬い昂りで一気に貫いた。
「ぁぁああっ!」
「くっ、サチコ……もっと……緩めて……っ!」
「無理ぃっ!」
ガンガン突かれ、シーツを掴み背を反らせて耐えようと思うけど、快楽の波が次から次へと押し寄せて達したまま戻れない。口からは絶えず意味のない言葉が溢れて突かれる度に潮を撒き散らして彼のものを締めつけた。
「サチコ、愛してる……ごめんよ、本当にごめん。……それでも愛してるんだ!」
何に対する謝罪なのか、彼は私を抱きながらひたすら謝り続けた。そんな彼の言葉を遮るように、私は首に腕を回すとキスで唇を塞いだ。
絡み合う舌に、次第に強くなる抽送。激しい口づけに呼吸もままならず、思考が曖昧になってゆく。
気持ちい……気持ちいの。何も考えたくない。かつてあなたが通り過ぎていった女の影など私には関係ない。分かってる、私だって貴方と出会った時、処女じゃなかった。あなたは悪くない。
「ああ、もうすぐイクよ……」
「あ、あ、あぁっ!ディラン……愛してる……あなたの全部、私にちょうだい!」
「いいよ、僕の全ては君のものだ……出すよ……中に、いいね?」
こくりと頷く。彼の子供が欲しかった。そうすればきっと安心できるだろうから。
抽送が一層早くなり、交わる水音が高くなって部屋の中に響き渡った。情交の果てはもうすぐそこまで迫っていた。
「クッ……!!」
彼の射精は力強く、雄々しくて濃厚だった。ビクビクと痙攣する膣内にドロリとした白濁が子宮目掛けて流れ込む。
「ふう……、かなり強引だったけど、体は大丈夫?」
未だ甘い空気が漂う中、私の体を気遣ってくれる夫の優しさが心に沁みた。
伝えるべきだろうか。あなたの過去が、後ろ暗い影となって私に付き纏っていることを。
でもどうやって?
過去は変えられない。私に彼を責める資格なんてない。大切なのは今をどう生きるかだ。
もう元の世界に帰れるとは思っていない。何より彼と出会ってしまった今、帰りたいとは思えなくなってしまった。私のいる場所はここにある……そう思うことで私は納得することにした。
この件があって以降、私は舞踏会など公のものに出ることを一切拒んだ。唯一、茶会には親しくなった婦人が参加する時だけ、出席するようにしている。
「お招きありがとう、メルローズ」
「こちらこそ、久しぶりにサチコと会えて嬉しいわ」
とある茶会で知り合ったメルローズは、私たちと同時期に結婚したカップルで、爵位も同じということもあって意気投合したのだった。腹の探り合いのような関係ばかりの貴族社会だが、唯一彼女とはそういった壁を取っ払った話ができる貴重な人物だった。
「それで、割り切ることはできそう?」
「……いいえ、やっぱり私には無理」
「そう……」
貴族にとっての結婚とは、紙面上の契約である。それは金銭的援助であったり事業拡大の足掛かりであったり、家名を存続させるための繋がりであったりと様々だ。そこに愛があるケースはほとんどない。
子供の時に決められたパートナーと成人したら、結婚という名の契約をし、子を一人二人産めばお役目御免。晴れて自由の身とまではいかずとも、愛人を囲って優雅に暮らすことが出来る。
夫のことで悩む私に、メルローズはもっと合理的に考えてみてはと薦めてくれたのだった。けれど、こことは全く違う世界で生まれ育った私にそんな理屈が立つわけがなく、彼女には申し訳ないが納得することは出来なかった。
「それはそうよね、私だって幼い頃は恋愛結婚に憧れたわ。愛し愛されて、幸せに暮らすの。今になって思えば夢物語だわ」
メルローズはカップを置くと、ホウッとため息を吐いた。彼女もまた大きな悩みを抱えていた。夫には既に愛人がいて、身籠ったかも知れないというのだ。
この時、私たちは結婚して約二年が経とうとしていた。
公の場には一切姿を出さなくなったものの、夫婦関係は良好で夜の営みも続いていた。以前どこかで、夫婦生活を一年以上続けて妊娠しなかった場合、不妊の可能性があると聞いたことがあった。
ーー異世界人との妊娠率は通常よりも低いのだろうか。
そんな考えが頭をよぎる。
「義母がね、最近陰で私のことを石女って呼んでいるらしいの」
メルローズが呟く。石女とは、子が産めない女という侮辱を込めた言葉だ。貴族の女性にとって、子を産む、つまり跡取りを産むのはとても重要なことだった。それが出来ない場合、離縁されても文句は言えないという。そして出戻り娘に残された道といえば、年寄りの後妻か修道院送りだった。
「ひどい話よね。こんなことになるって知ってたら、好きな人と駆け落ちでもしていたのに」
そう言って悲しげに微笑む彼女。貴族籍を持つ女性の、悲しい現実を垣間見た瞬間だった。
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