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第四話
しおりを挟むこうして、エドムンドさんのお陰で迷うことなくギルドに着くことができた。レンガでできた二階建ての建物は、周囲が木造の家ばかりなのですごく目立った。
さて、道案内も済んだことだし彼とはここでお別れだ。と思ったら、手続きも手伝ってくれると言うので、私は彼について中に入った。
「うわぁ~、凄い!」
広々とした屋内にはたくさんの冒険者たちがいて、受付カウンターや掲示板なんかがまさにラノベに出てくる風景そのものだった。剣を腰に刺している人や鎧を着た人もいる。私の他にも全身を隠すローブを着ている人がちらほらいたので、変に目立つこともなく済んでホッとした。
「こっちだ、ユミ。まずはカウンターで登録するんだ」
彼に言われて左端の窓口に行くと、優しそうなお姉さんがいて必要書類を渡された。用紙には氏名と拠点地、魔法の種類や数値などを記入する欄があった。名前は由美と書く。するとあ~ら不思議、こっちの文字で書くことが出来ました!なるほど、これがチートってやつね。それから苗字だけど、やっぱり書かないことにした。
次に年齢の欄があったので二十七と記入した。すると、それを見たエドムンドがギョッと驚いて私を二度見していた。おいこら、一体いくつだと思ったんだ?
そして、拠点地だ。エドムンドが言うには、活動のベースになる地名を記入するらしい。
「あのぅ、ここって何て名前の町でしたっけ」
「はぁ?ニルスの町だろうが。お前、頭大丈夫か!?」
えへへ、ど忘れしちゃった、と笑って誤魔化す。ふ~ん、ニルスっていうんだ。私はそそくさと紙にそう書き込んだ。
「魔法の適正種類と……数値?」
「こちらに計測器がありますので測ってみましょう。では、この石板に手を乗せてください」
私は言われた通り黒い板に手を乗せた。すると、しばらくして石板が光だす。ボワンと赤と青の優しい光が石板から放たれた。
「はい、ありがとうございます。それでは次に数値を測りますので、こちらの水晶に手を当ててください」
言われて出されたのは、キーボードのマウスくらいの大きさの丸い透明な水晶玉だった。私はそれに手を乗せると、何が起きるのかじっと様子を見守った。じーっとみていると、やがて数字が浮かびあがった。
「十五、ですね」
「……十五だな」
え、なんで二人とも可哀想な人を見るような目で私を見るの!?私、何かやらかした!?
「ありがとうございます。手を離してくださって大丈夫ですよ。それでは結果をお知らせしますね。ユミさん、あなたは火と水に適正反応がありました。けれど魔力数値が十五と低めですので、威力はかなり小さいと思われます」
そう言うと、お姉さんは用紙にそれらを書き込んでいく。最後に、針で私の指先を刺して血を一滴垂らすと、紙がボワッと目の前で燃えて細い輪っかの腕輪が現れた。
「はい、登録完了です。こちらの腕輪にあなた様の情報が全て登録されています。現在、討伐歴はゼロですのでEランクから始まります。当ギルドは商業ギルドとも繋がっていますので、ブレスレットを通して金銭のやり取りが可能になります」
やった、お金が預けられる!私は登録料として銀貨三枚を支払うと、早速手持ちの現金を振り込むことにした。後で部屋に置いてきたお金も預けよう。これで大金を持ち歩かなくて済みそうだ。よかったよかった。
「あの、知識として知っておきたいんですけど、魔力ってみなさんどれくらい保有しているんですか?」
「そうですねぇ、大体五百前後が平均値になります。Sランクになると千を超える人もいますが、それはごく稀なケースですね」
ちなみにエドムンドさんは現在Aランクで魔力保有量は七百二十八とのこと。道理で私のことを憐れんだ目で見ていたわけだ。せっかく異世界転移したんだから、魔法をバンバン使ってみたかったなぁ。
「エドムンドさん、いろいろ助けてくださってありがとうございました」
「おう。それよかユミ、これからも一人で旅を続けるのか?」
「う~ん、たぶんそうなると思います。しばらくはこの町にいると思いますけど」
無事ギルドに登録できたことだしパーティーを組むのも可能だけど、人と関わるにはあまりにも知識が足りなさすぎる。一人は心細いけど、こればっかりは仕方がない。しばらくはこの街に滞在して、準備ができたら旅に出よう。
「それなんだがよ、お前みたいな奴が一人でいると、絶対何らかのトラブルに巻き込まれるだろうから、奴隷商で奴隷を買って護衛につけろ」
「えっ?」
「だから奴隷をだな」
「どどど、奴隷がいるんですか!?」
なんてことだろう、この世界には奴隷が存在するようだ。奴隷ってあの奴隷だよね、借金奴隷とか犯罪奴隷とか……。
「今受けてる依頼が長期戦になりそうだから、俺たちは助けてやれそうにない。かと言って全く知らない奴と組むのは不安んだろ?」
確かに彼の言っていることは合っている。この外見がいつバレるかも分からないし、トラブルに巻き込まれても一人じゃどうしようもない。それでもなぁ……奴隷だよ?人権のないモノ扱い。人を買うなんて、果たして良心の呵責に耐えられるだろうか。
「金がないなら貸してやるぞ」
「いえ、お金の心配はありませんから大丈夫です。ただ私、奴隷のいない国で育ったものですから抵抗がありまして……」
「奴隷のいない国だぁ!?そんな国聞いたこともないぞ。どこから来たんだ?」
「え~と、地図にも載っていない遠い遠い島国、です」
「へぇ、そんな国もあるのか」
ふぅ、危ないところだった。異世界から来ましたなんてとてもじゃないけど言えないよ。とりあえず「考えてみます」ってことで話を切り上げた。
「俺たちの伴れが怪我で入院してるんだ。それでこの町には頻繁に戻ってくるだろうから、そしたらまたいろいろ助けてやるよ」
だからそれまでは安全に気をつけるんだぞ、と言ってフード越しに頭を撫でられた。うぇぇ、何だか不安になってきちゃったよ~。
こうして私はエドムンドに別れを告げると、来た道を戻って旅館に戻った。部屋に入るとすかさずベッドの下からお金の入った麻袋を取り出す。それをカバンに入れて、急いでギルドに向かった。通り過ぎる人たちみんながこっちを見ているような気がしてドキドキが止まらなかった。はぁはぁ、大金を持ち歩くのは心臓に悪い。
ギルドに着くと、一目散にカウンターへと向かい無事全額入金することが出来た。腕輪は私でなければ発動しないらしく、個人情報や預金が盗まれる心配はない。素晴らしいシステムだ。けれど紛失して再発行するとなると金貨一枚かかるらしいから気をつける必要があった。
そんなこんなで私は再び宿屋に戻ると、一階で素早く夕食をとって部屋に戻った。自覚はなかったけど、今日一日緊張していたんだろう。お風呂から出ると、髪も乾かさずにベッドに寝っ転がって秒で眠りについた。
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