オーシャンエッジプロジェクト プロミネンス 

sin art

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13話 天下一品ホイコーロー

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 店の中での騒ぎにもかかわらず、リュウは料理の手を止めていなかった。

 テーブルに出されたホイコーローの香ばしい香りは、海輝の腹の虫を鳴らすのに充分なほどで、大皿に盛り付けられたホイコーローは、鮮やかな緑のピーマン、赤いパプリカ、そしてジューシーな豚肉が絶妙なバランスで炒められ、キラキラと輝くタレが食材に絡んでいる。



「わぁ、とってもいいにおい。美味しそう!」
 
 ユウキは小さな鼻を全開にしてホイコーローの匂いをくんくんと嗅いでいる。湯気が立ち昇り、甘辛いタレが食欲を刺激する。ほんのりと焦げた醤油の香りと共に、ニンニクと生姜の風味がみんなの食欲をそそっていた。
 


 マリアは額に刺さった細かなガラスを、手鏡を見ながらピンセットで器用に抜き、リュウからもらった消毒液と包帯を慣れた手つきで頭に巻く。

 倒れていたエドガーと海輝の背中に次々に活を入れ、意識を回復させた。意識を取り戻したエドガーはマリアの頭の包帯を見て心配になった。



「うーん、俺はやられていたみたいだな。情けない…。君は、大丈夫なのか?マリア」

「あ、ええ。少しばかりドジってしまって。かすり傷なので大丈夫です。それよりも冷めないうちに食べましょう!」


 マリアに促され、エドガーと海輝はテーブルについた。




「さあ、そろいましたね。では感謝を込めて、いただきます」
 
 
 先ほどの大乱闘が無かったかのように五人は笑顔で食事に手を合わせ、一気にホイコーローを食べ始めた。最も年下のユウキはよほどお腹が空いていたのか、目を血走らせながら熱々のホイコーローを喉の奥にかきこんでいく。


「おかわり!」

「あ、はい。少々お待ちください」
 
 ユーキのオーダーを受けてリュウは慌ただしく厨房へと入っていく。



「ははは。どうだ、美味しいだろ、このホイコーローは」

「うん、うん。とーっても美味しい。何杯でも食べられるよ!」

「ところで、あの男は一体誰だったんだ?マリア」
 

 エドガーはマリアに話を振る。

「え?誰?えーと、誰だったんでしょうかね~?食事をしにきたって雰囲気ではなかったですが…」

「おいおい、まさか誰か分からずに追い返したってわけか?」
 
 マリアは本能で危険を感じとり対処したが、それがエドガーには無茶な行動に見え頭を抱えた。




「あの男はよく来る借金取りの連中なんです。はい。おかわりだよ。熱いから気をつけてね」
 
 おかわりのホイコーローを持ってきたリュウは男について話し始めた。


「あの男たちは、父が倒れてから少しして現れました。オーシャンエッジの拡大ブロック購入と店の準備の為の借金返済が滞ってしまっていて、それを今すぐ返済しろと」

「拡大ブロックの借金か。返済はあとどれくらいだ?」



「1500万エッジほどです…。」

「1500万、すぐに返済できるって額じゃないな」


「拡大ブロックのローン返済が問題になっていると聞いたことがありますが、まさかこんなひどい取り立てとは」

「ああ、ここ最近、オーシャンエッジの拡大を進めるために無理なマーケティングもしてたと聞くからな」


「父は当初、港湾で働く人夫を勧められていました。その方が確実に収入を得られるからと。でも、父の夢は料理人です。だから、料理で稼ぐ道を選んだんです」

「そうか。あんなに腕があるんなら当然だ。もっと胸を張れ、リュウ」
 

 エドガーはリュウの背中をバシンとはたいた。


「はい。でも、結果がこうなってしまっては、やはり甘かったんだと思います」

「リュウ、この問題は俺が上の方にあげておく。やむを得ない場合の返済の猶予はあって然るべきだ。こんなうまいホイコーローを出す店を潰したとあってはこのエリア3の価値が半減する!」

 ユーキがエドガーの隣でおかわりのホイコーローをまた流し込むようにかき込んでいく。


「おかわり!」


「ははは。こんなに小さい身体にどこにそんな入るところがあるんだ?リュウ、もう一つ頼むわ」

「はい!ご注文ありがとうございます!」

 そう言ってリュウはパタパタと厨房に入っていった。




「そういえば、海輝君、ありがとう。あなたのおかげで隙ができてあの男を制圧することができたわ」

「あ、いえ。僕は大声で叫んだだけなので」

 

 マリアは海輝をじっと見つめる。大声を出しただけではあんな隙は生まれない。この子が何かした?



「あ、あの僕の顔に何かついてますか?」
 
 海輝はホイコーローが口の周りについてるかと思い、顔を袖で拭った。

「あ、違うの。何でもない。無事で良かったと思ってね」
 
 マリアはごまかす様に笑顔を作る。
 


 ふと、その海輝の後ろでキラキラと光るものが見えた。

「ん?あれは何かしら?」
 
 マリアは席を立ち、海輝の後ろに転がっていた光るものを拾う。

「何かのバッジ?GTって書いてあるわ」


「GT!?ちょっとマリア、見せてくれ」
 
 マリアはエドガーに拾ったバッジを渡す。


「これはグレイヴァンカー・テクノマンサーズ社のバッジ…。しかもこれはエージェントクラスのものだ」

「グレイヴァンカー・テクノマンサーズ?」

 
 セリアが初耳の言葉に反応する。


「ああ、通称グレイ社。オーシャンエッジに防衛装備を卸している会社だ。彼らはオーシャンエッジの拡大に大きく関わっている企業で、防衛装備だけでなく、技術革新やインフラ整備にも手を広げている。でも、その裏で借金の取り立てや利権の争奪など、汚い手を使うことでも知られているんだ」

「よくそんなところまでご存知ですね?私は名前だけは聞いたことあるんですが…」



「ああ、マリア、一回だけグレイ社の社長に会ったことがある。パープルサークルにいるとき、親父の付き添いで会議に参加した時があって、そこで偉そうにしてたのがここの社長さ。オーシャンエッジを金づるとしか見ていないクズだった」

「そうなんですね。もし、この騒ぎが彼らの仕業だとしたら…」

「ああ。あの社長のいいようにされてたまるか!この件はキャプテンマーチャントに報告だ」

「はい。了解しました!」

 
 そこへリュウが3杯目のホイコーローをユーキの目の前へ運んできた。

「はい、どうぞ。喉に詰まらせないようにゆっくり食べてね」


「うわーい」


 そう言うとユーキは2杯目と変わらないスピードで胃の中にかきこんでいった。

「ういー、食った食った、もうお腹いっぱい」

 その満足げな表情にみんなどっと大笑いした。



「リュウ、しばらくあいつらは来ないはずだ。その間あいつらが壊したものを片付けて店を立て直しておいてくれ」

「はい。エドガーさん、ありがとうございます」

「それじゃあ、また来るよ。お代はいくらだい?」

「ホイコーロー5つで5000エッジになります」

 
 エドガーはお代とは別におかわり代もリュウに渡し咸陽亭を後にした。
 
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