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15話 解任
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時は遡り、前キャプテンマーチャントに扮したアルテミスは兵士との接見を終え、再びザバステメスの甲板にて整備士のユウトと通信士のレンを待っていた。
エドガーはアルテミス直属の部下から指示を受け、ユウトとレンにすぐに甲板へ出てくるように伝えていたが、アルテミスが甲板に出るまで二人の姿はなかった。
甲板に出て数分の時間が経ち、アルテミスは少しイラつき始めていた。
「遅い!」
「すみません!すぐに甲板に出てくるようにと伝えたのですが…」
「私が待つのを嫌いなのは知っているな?」
「はい。もう一度呼んできます」
エドガーはそういうと船内へと向かう階段へ踵を返し走っていく。それと同時にタンタンと階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
「キャプテンマーチャント、お、遅れてすみませんでした!」
「すみませんでした!」
階段を駆け上ってきたのはユウトとレンであった。ユウトは30代半ばでやせ型、少しいかつい顔と野太い声。レンはユウトと同じ30代半ばで小太りな体型、垂れ目で人の良さそうな顔をしていた。
「ほう、お前ら私を待たせるとはいい度胸だ」
「す、すみませんでした!実は腹を下していまして…」
「言い訳か。体調管理ができてない証拠だ!」
ユウトの言い訳をアルテミスはバッサリと切り捨てる。
「で、お前は何で遅れた?」
「はい。わ、私はユウト整備長の体調不良は連帯責任と思いトイレから出るまで待っていました!どうもすみませんでした」
「待っていた、だと?」
「は、はい」
レンはぽっちゃりした体型が心なしかスリムに見えるほど萎縮していた。
「なるほど、お前もいい度胸をしてるな。わしの指示より仲間をとったということか」
「い、いえ、そういうわけでは…」
「すみません、自分の指示が中途半端で上手く伝わってなかったようです。罰するなら自分を罰してください」
エドガーはアルテミスの前に出て頭を下げた。
「そうか、分かった。只今よりお前はザバステメスの艦長を解任だ」
その言葉を聞き、ユウトとレンは一気に青ざめた。
「キャプテン!遅れたのは俺たちです。罰するなら俺たちを罰してください!」
アルテミスは三人を厳しい目で見つめた。
「エドガー艦長の解任は今お前たちが遅れただけのせいではない。今回の貨物船護衛の遅れ、その上、不審船から貨物と乗員を守れなかった責任。これはオーシャンエッジの根幹を揺るがす重大な過失なのだ」
ユウトとレンはアルテミスの言葉に黙るしかなかった。
「レン、お前は通信士だったな?今回の報告では被護衛貨物船のレーダー喪失、また海中レーダーに敵潜水艦が引っかからなかったというのは本当か?」
「は、はい。本当です」
「ユウト、お前はザバステメスの整備士だったな?」
「はい!」
「最後にレーダーの整備をしたのはいつだ?」
「はい、最後に整備をしたのは事件の前日です。次の日ザバステメスの貨物船護衛任務が決まっていたので、すべての機器をチェックしました。その時は何の異常も無かったのですが……」
「事前の整備チェックのデータは残しているか?」
「はい、残しています」
「その全データを提出しろ。ザバステメスだけではなくエリア3所属艦隊すべてのだ」
「はっ!了解しました!」
前日まで異常が無いレーダー機器が一晩で壊れるのは考えにくい。だとすると、整備が終わり護衛に出港するまでの間に何者かがレーダーに細工をした可能性がある。アルテミスは慣れた手つきで付け髭をなでながら思索した。
「時にユウト、噂によるとお前はエドガーのことをよく思っていないそうだが、本当か?」
アルテミスは事件後ザバステメスについてまとめられた報告書を隣にいる側近から受け取りながら質問した。
「う、いえ、そんなことはありません…」
「報告書に嘘が書いてあると?」
ユウトはギュッと目を瞑ると観念したように話し出す。
「確かに、私はエドガーを快く思っていないところがあります。つい最近まで港で人夫をやっていた人間がなぜ艦長になれるのかと思っていました。生まれがパープルというだけでそこまで優遇されるものなのですか?」
アルテミスはちらりとエドガーを見ると、頭を下げたままの姿勢で話を聞いていた。
「確かに、エドガーは最近まで港で荷役をしていたのは事実だ。そしてパープルということで優遇されているのも事実。そしてお前が好意を寄せているマリアが副艦長として配属されたのも事実だな?」
「なっ!……」
ユウトは一瞬絶句した。
「ほう、報告書通りか。あいつはやめておけ。お前の手に負える女じゃない」
「そ、そんなこと…誰が?」
ユウトは好意の人を急に指摘され、明らかに狼狽している様子だった。
「エドガー、今日をもってマリアと共にザバステメスの役職を解任する。初任務とはいえ担当貨物船を護衛できなかった責任は重い。レーダーの事前確認を怠らなければ、もっと早く護衛に行けた可能性もあった。今後はマリアと一緒に救助された三人を責任を持って保護しろ」
「はい……。了解しました!」
エドガーはそういうとようやく顔を上げ、アルテミスを見た。
「頼んだぞ。そして新しいザバステメス艦長は通信士のレン、お前だ」
「え?わ、私ですか?」
レンは突然の指名に素っ頓狂な声を上げる。
「どうした?不服か?」
「い、いえ。せ、精一杯任務を務めさせていただきます!」
「ユウト、お前もレンとザバステメスに乗り、補佐するように」
「はっ!……了解です」
ユウトとレンはあまりに突然の展開に理解に苦しんでいた。なぜ過失を犯した可能性の最も高い俺たちにザバステメスを任せるんだろう?と。
「よし、それでは解散!各々の職場に戻って任務を遂行しろ。新しい通信士と整備士は追って連絡する」
エドガーは敬礼すると甲板を降り、マリアと保護された三人のところへ向かった。
「キャプテン、一つ質問よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「な、何故………いいえ、やはり何でもありません」
「そうか……。ではよろしく頼むぞ、レン」
「はっ!」
アルテミスはそういうと側近を連れてザバステメスを降りた。そして、そばに着けてあった車に乗り港を後にする。
「よろしいのですか?」
車内で側近がルームミラー越しにアルテミスに話しかける。
「他のエリアの通信機器がダウンするよりマシだろう。ザバステメスは遠隔操作が可能だ。しばらくは泳がせておく。他にもグレイ社の息のかかった者がいるだろうからな。全て炙り出してやるさ」
アルテミスは帽子を目深にかぶり、通り過ぎるザバステメスを横目に大きくため息をついた。
エドガーはアルテミス直属の部下から指示を受け、ユウトとレンにすぐに甲板へ出てくるように伝えていたが、アルテミスが甲板に出るまで二人の姿はなかった。
甲板に出て数分の時間が経ち、アルテミスは少しイラつき始めていた。
「遅い!」
「すみません!すぐに甲板に出てくるようにと伝えたのですが…」
「私が待つのを嫌いなのは知っているな?」
「はい。もう一度呼んできます」
エドガーはそういうと船内へと向かう階段へ踵を返し走っていく。それと同時にタンタンと階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
「キャプテンマーチャント、お、遅れてすみませんでした!」
「すみませんでした!」
階段を駆け上ってきたのはユウトとレンであった。ユウトは30代半ばでやせ型、少しいかつい顔と野太い声。レンはユウトと同じ30代半ばで小太りな体型、垂れ目で人の良さそうな顔をしていた。
「ほう、お前ら私を待たせるとはいい度胸だ」
「す、すみませんでした!実は腹を下していまして…」
「言い訳か。体調管理ができてない証拠だ!」
ユウトの言い訳をアルテミスはバッサリと切り捨てる。
「で、お前は何で遅れた?」
「はい。わ、私はユウト整備長の体調不良は連帯責任と思いトイレから出るまで待っていました!どうもすみませんでした」
「待っていた、だと?」
「は、はい」
レンはぽっちゃりした体型が心なしかスリムに見えるほど萎縮していた。
「なるほど、お前もいい度胸をしてるな。わしの指示より仲間をとったということか」
「い、いえ、そういうわけでは…」
「すみません、自分の指示が中途半端で上手く伝わってなかったようです。罰するなら自分を罰してください」
エドガーはアルテミスの前に出て頭を下げた。
「そうか、分かった。只今よりお前はザバステメスの艦長を解任だ」
その言葉を聞き、ユウトとレンは一気に青ざめた。
「キャプテン!遅れたのは俺たちです。罰するなら俺たちを罰してください!」
アルテミスは三人を厳しい目で見つめた。
「エドガー艦長の解任は今お前たちが遅れただけのせいではない。今回の貨物船護衛の遅れ、その上、不審船から貨物と乗員を守れなかった責任。これはオーシャンエッジの根幹を揺るがす重大な過失なのだ」
ユウトとレンはアルテミスの言葉に黙るしかなかった。
「レン、お前は通信士だったな?今回の報告では被護衛貨物船のレーダー喪失、また海中レーダーに敵潜水艦が引っかからなかったというのは本当か?」
「は、はい。本当です」
「ユウト、お前はザバステメスの整備士だったな?」
「はい!」
「最後にレーダーの整備をしたのはいつだ?」
「はい、最後に整備をしたのは事件の前日です。次の日ザバステメスの貨物船護衛任務が決まっていたので、すべての機器をチェックしました。その時は何の異常も無かったのですが……」
「事前の整備チェックのデータは残しているか?」
「はい、残しています」
「その全データを提出しろ。ザバステメスだけではなくエリア3所属艦隊すべてのだ」
「はっ!了解しました!」
前日まで異常が無いレーダー機器が一晩で壊れるのは考えにくい。だとすると、整備が終わり護衛に出港するまでの間に何者かがレーダーに細工をした可能性がある。アルテミスは慣れた手つきで付け髭をなでながら思索した。
「時にユウト、噂によるとお前はエドガーのことをよく思っていないそうだが、本当か?」
アルテミスは事件後ザバステメスについてまとめられた報告書を隣にいる側近から受け取りながら質問した。
「う、いえ、そんなことはありません…」
「報告書に嘘が書いてあると?」
ユウトはギュッと目を瞑ると観念したように話し出す。
「確かに、私はエドガーを快く思っていないところがあります。つい最近まで港で人夫をやっていた人間がなぜ艦長になれるのかと思っていました。生まれがパープルというだけでそこまで優遇されるものなのですか?」
アルテミスはちらりとエドガーを見ると、頭を下げたままの姿勢で話を聞いていた。
「確かに、エドガーは最近まで港で荷役をしていたのは事実だ。そしてパープルということで優遇されているのも事実。そしてお前が好意を寄せているマリアが副艦長として配属されたのも事実だな?」
「なっ!……」
ユウトは一瞬絶句した。
「ほう、報告書通りか。あいつはやめておけ。お前の手に負える女じゃない」
「そ、そんなこと…誰が?」
ユウトは好意の人を急に指摘され、明らかに狼狽している様子だった。
「エドガー、今日をもってマリアと共にザバステメスの役職を解任する。初任務とはいえ担当貨物船を護衛できなかった責任は重い。レーダーの事前確認を怠らなければ、もっと早く護衛に行けた可能性もあった。今後はマリアと一緒に救助された三人を責任を持って保護しろ」
「はい……。了解しました!」
エドガーはそういうとようやく顔を上げ、アルテミスを見た。
「頼んだぞ。そして新しいザバステメス艦長は通信士のレン、お前だ」
「え?わ、私ですか?」
レンは突然の指名に素っ頓狂な声を上げる。
「どうした?不服か?」
「い、いえ。せ、精一杯任務を務めさせていただきます!」
「ユウト、お前もレンとザバステメスに乗り、補佐するように」
「はっ!……了解です」
ユウトとレンはあまりに突然の展開に理解に苦しんでいた。なぜ過失を犯した可能性の最も高い俺たちにザバステメスを任せるんだろう?と。
「よし、それでは解散!各々の職場に戻って任務を遂行しろ。新しい通信士と整備士は追って連絡する」
エドガーは敬礼すると甲板を降り、マリアと保護された三人のところへ向かった。
「キャプテン、一つ質問よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「な、何故………いいえ、やはり何でもありません」
「そうか……。ではよろしく頼むぞ、レン」
「はっ!」
アルテミスはそういうと側近を連れてザバステメスを降りた。そして、そばに着けてあった車に乗り港を後にする。
「よろしいのですか?」
車内で側近がルームミラー越しにアルテミスに話しかける。
「他のエリアの通信機器がダウンするよりマシだろう。ザバステメスは遠隔操作が可能だ。しばらくは泳がせておく。他にもグレイ社の息のかかった者がいるだろうからな。全て炙り出してやるさ」
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