オーシャンエッジプロジェクト プロミネンス 

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16話 マーチャント

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 アルテミスはエリア3護衛艦隊本部へ車で向かっていた。

 本部に向かう途中の通りは活気に溢れており、貨物船が襲撃されたことなどまるで嘘だったのではと思えるほど、いつものオーシャンエッジの光景だった。

 もちろん、事件のことは一般市民には必要最小限の情報しか流していない。余計なパニックを防ぐのが目的だが、それもじきに広まる。それまでにはなんとか事態の把握と護衛体制の強化を図らなくてはいけない、とアルテミスは考えていた。

「まったく、難儀な仕事を任せてくれたものだ」

 アルテミスは車内から通りを行き交う人々を見て、1年前、前キャプテン、マーチャントが自分にキャプテンの職を半ば強制的に任せたことを思い出していた。

 
 -----


「アルテミス、お前さん、ちとワシになってくれんか?」

「は?」

 アルテミスはマーチャントの唐突の質問に上官にも関わらず思わず聞き返してしまった。

「キャプテンマーチャント、急にどうかしたのですか?」

「ん?いや。だからお前さんがワシになってキャプテンをやって欲しいと言ってるんじゃ」

 

 アルテミスは言葉を頭の中で整理してみた。キャプテンをやって欲しいことは理解できた。ワシになって?とうとうこの爺さんはボケてしまったのだろうかと、まじまじと白髭のマーチャントの顔を見てしまった。


「どうした?わしの顔に何かついておるのか?」

「いえ。キャプテンをやって欲しいというのは理解できたのですが、ワシになって欲しいというのがどうも理解に苦しむので……」


「ふぉ、ふぉ、ふぉ。わしがボケたと思ったか?アルテミスよ。お前も感じていると思うが、近頃の海賊どもの活発化、異常だとは思わんか?」


「……はい。確かにここ最近、各エリアでの海賊共の活動が活発化しています」

「この1年でオーシャンエッジ管轄の貨物船が100隻以上襲われ、そのうち3隻が沈没しておる。これは異常事態じゃ。1年前まではのどかな海だったんだがの」

 確かに、ここ1年で異常に海賊が増え始めた。それまでも海賊被害はあったのだが、年に10隻あるかないかだった。1年で10倍に増えたのは異常事態と捉えて間違いない。何がきっかけか、思い当たるか?アルテミス」

 マーチャントはアルテミスに問いかけた。

「はい。きっかけですか……。1年前といえば新しい市長にライアンが選ばれたくらいしか大きな変化は見当たりません」


「そうじゃ。新市長が選出されたあたりから急に海賊が増え始めた。市長はグレイ社の行き過ぎた側面の是正を訴えて選出されたな」

「はい。防衛機器などを卸しているグレイ社はオーシャンエッジで多大な影響力を有しています。その反面、かなりダーティーな仕事も請け負い、島民を圧迫している疑惑がありました。彼らはオーシャンエッジの情報インフラにも影響力があるので、多少の事件はもみ消していたそうです」


「新市長ライアンはその是正に取り組もうとした。今のままではグレイ社に乗っ取られてしまうのは時間の問題だからのう。実際、護衛艦隊の多くもグレイ社の息がかかった連中で占めておる。この海賊の多発もライアン選出と無関係ではない。ワシはグレイ社が裏で糸を引いてライアンを引きずりおろそうと嫌がらせをしていると見ておる」

「はい……」

「ワシも何度か是正に動いてみたが、思った以上に息のかかった連中がいてな。その都度邪魔が入った。ライアンが市長の間にあやつらの影響力を削がねばならない。そこでワシは隠密に動こうと思ったのじゃ。グレイ社の影響力を詳細に把握し対策を立てる必要がある。そしてそれをするには、ワシがキャプテン続けているという隠れ蓑が必要だ。アルテミス、お前がワシに変装してワシの役目をしてくれれば、ワシは自由に動ける。頼まれてくれるか?」

 

 アルテミスは一瞬ためらった。果たして私がこの年配のマーチャントとしてキャプテンの責務を全うできるか?マーチャントはその様子を見てアルテミスの思いを見透かすように大笑いした。

「はっはっは!まあ、気持ちはわかる。ワシとお前では見た目が違いすぎるからの。この時のために、ほれ、変装セットは準備しておる。準備がええやろ?」



 い、いやそんなことではなく……。

 アルテミスはつい喉の先まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。新市長のライアンとアルテミスはセントラルスクールで同級生であった。彼はスクールにいた時からオーシャンエッジの改革について情熱を燃やしていたのは知っていたが、彼は本当にその思いを実行に移し市長に選ばれたのだ。スクールでよく話したことを思い出しながら、アルテミスはマーチャントに向き合った。


「はっ!了解しました!ありがたくキャプテンの任務を拝命いたします!」

「よし、よう言った。頼んだぞアルテミス。ちなみに変装セットは3着用意しておるからローテーションで着るとよい。ほれ、この付け髭なんて秀逸なできじゃろ?」

 マーチャントは自分の髭と付け髭を並べてアルテミスに自慢していた。

「はは、そうですね」


 アルテミスはこれからあの付け髭を付けないといけないかと思うと少し憂鬱になったが、今はそんなことは言ってられないだろう。

「10年前にも同じように海賊が活発化したことがあったな。グレイ社の現社長が就任した時だった。あの時、護衛艦隊は今の戦力の半分以下だったのもあり、ほぼ壊滅状態になってしまった。それから戦力強化のためにグレイ社の護衛艦を購入することになった。今思えばそれもグレイ社の策略だったのかもしれんな」

「はい。私も若輩者だったので力不足でした」

 

 マーチャントとアルテミスは当時のことを思い出し、甲板から広がる水平線の彼方を見つめた。


「マリアもその時救出されたんじゃったな。かつてのお前さんのように。どうじゃ?そろそろ使い物になりそうか?」


「はい。私が持てる全てを教えました。いつでも大丈夫です」

「そうか。時間が経つのは早いものだな。あれから10年か……。ではアルテミス、頼んだぞ」


 マーチャントは被っていたキャプテンキャップをアルテミスに渡した。

「はっ!命に代えてもこの任務、全うさせていただきます」

「うむ」

 
 ------


「大丈夫ですか?キャプテンアルテミス」

 側近の運転手はルームミラー越しにアルテミスが遠い目で外を見続けていたのを心配になり声をかけた。



「ああ、少し昔のことを思い出していていただけだ」

 さあ、これから忙しくなる。

 アルテミスは正面を向きなおり、これから始まるグレイ社との戦いへと思いを巡らせたのだった。
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