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過去の残像
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数時間後。
リリから先にお風呂を借りたパジャマ姿の莉乃は、リビングのテーブルの上に沢山に広げてある、歌詞の上に眠っているリリの姿に気づいた。
莉乃はリリの側に置いてある一枚の紙を手に取り、それを見た。
それは今月彼女が行うファーストライブの当日のスケジュールだった。
ライブの時間は二時間程度のものだったが、
曲、演出、MCなど含めて時間配分が細かに記してあった。
ライブは基本アイドルにとって体力勝負だ。
だから、時間の配分はきっと欠かせないのだろう……。
そう思いながら莉乃は眠るリリの側に静かに座った。
そして眠る彼女の寝顔を見ながら、頭を優しく撫でた。
リリは……彼女は歌うことに真剣な子だ。
彼女の歌声は、まるで透き通るような歌声で、天使の歌声とさえ言われている。
だけど、それはきっと彼女自身が沢山の人の為に向けて歌っているものに過ぎないものだ。
でないと、歌と言うものは誰の心にも響かず、おそらく見向きもされない……。
だけど、彼女の歌にはそれがあった。
人を魅了させる歌声と歌を通して伝えたい何かを彼女は持っていた。
まだ数時間だけしか彼女の仕事ぶりを見てはいないが、彼女は仕事に対しても真剣で、本気だった。
事件が起きる前の今日のPV撮影で、それが感じ取れたのだ。
それだけ彼女が歌に真剣だと言う事に莉乃はわかってしまった。
また、それと同時に。
(この依頼がなかったら、わたしはこの子ときっと出会う事はなかったかもしれないな……)
そう思い、同時に一瞬だけ莉乃の脳裏に過り、浮かんだ。
それはけして消え去る事はない過去。
あの日、薄暗い研究所の中で一人床に膝をつき、俯く少年の姿を彼女は見た。
床には真っ赤な血が広がっており、少年の側には白衣を着た男女の死体が転がっていた。
少年はその死体を……自分の両親の変わり果てた姿を虚ろな瞳でそれを眺めていた。
その光景はいつもの彼から酷く遠ざかっていた。
いつもの明るく、お気楽な彼の姿とは酷く異なっていたのだった。
莉乃はその姿を見、彼へと手を伸ばし、そして一瞬、躊躇した。
胸が張り裂けそうに切なく、また彼に掛ける言葉が見つからない。
いくら探しても、探しても見つからないのだ。
いつも一緒にいた大切な彼が一瞬にして全てのものを失った瞬間―――。
言葉なんって出てくる筈はないのだ。
それでも、それでも彼女はそんな姿の彼を頬ってはおけず、彼の元へと近づいた。
「……悟……?……」
「ああ……。莉乃か?……殺されていたんだ。親父とお袋が……」
「……悟……大丈夫……?」
「大丈夫ってなにが?俺は平気だけどお前が大丈夫じゃねーだろ?……なに泣いてるんだよ……」
「えっ……?」
悟に言われ、莉乃は自分の頬に僅かに触れる。
自分でも気づかないうちに瞳から涙を流していたのだった。
そして、そんな彼女へと自嘲気味に彼は笑った。
「何でお前が泣いてんだよ……」
「………っ」
その言葉に彼女は溜まらず彼を抱き締めた。
胸の中で何かが込み上げる想いと共に、彼女は濡れた声音で彼へと囁くように言った。
「大丈夫だよ……。わたしは悟の側にいるから……。ずっとあなたの側にいるから……」
そう言いながら彼女は彼をきつく抱き締めた。
莉乃は瞳を閉じ、そして開くと共に思考を断ち切った。
莉乃はソファーに乗っていた膝掛けへと手を伸ばし、それを手に取ると瞳を細目ながら、眠っているリリへと掛けたのだった。
リリから先にお風呂を借りたパジャマ姿の莉乃は、リビングのテーブルの上に沢山に広げてある、歌詞の上に眠っているリリの姿に気づいた。
莉乃はリリの側に置いてある一枚の紙を手に取り、それを見た。
それは今月彼女が行うファーストライブの当日のスケジュールだった。
ライブの時間は二時間程度のものだったが、
曲、演出、MCなど含めて時間配分が細かに記してあった。
ライブは基本アイドルにとって体力勝負だ。
だから、時間の配分はきっと欠かせないのだろう……。
そう思いながら莉乃は眠るリリの側に静かに座った。
そして眠る彼女の寝顔を見ながら、頭を優しく撫でた。
リリは……彼女は歌うことに真剣な子だ。
彼女の歌声は、まるで透き通るような歌声で、天使の歌声とさえ言われている。
だけど、それはきっと彼女自身が沢山の人の為に向けて歌っているものに過ぎないものだ。
でないと、歌と言うものは誰の心にも響かず、おそらく見向きもされない……。
だけど、彼女の歌にはそれがあった。
人を魅了させる歌声と歌を通して伝えたい何かを彼女は持っていた。
まだ数時間だけしか彼女の仕事ぶりを見てはいないが、彼女は仕事に対しても真剣で、本気だった。
事件が起きる前の今日のPV撮影で、それが感じ取れたのだ。
それだけ彼女が歌に真剣だと言う事に莉乃はわかってしまった。
また、それと同時に。
(この依頼がなかったら、わたしはこの子ときっと出会う事はなかったかもしれないな……)
そう思い、同時に一瞬だけ莉乃の脳裏に過り、浮かんだ。
それはけして消え去る事はない過去。
あの日、薄暗い研究所の中で一人床に膝をつき、俯く少年の姿を彼女は見た。
床には真っ赤な血が広がっており、少年の側には白衣を着た男女の死体が転がっていた。
少年はその死体を……自分の両親の変わり果てた姿を虚ろな瞳でそれを眺めていた。
その光景はいつもの彼から酷く遠ざかっていた。
いつもの明るく、お気楽な彼の姿とは酷く異なっていたのだった。
莉乃はその姿を見、彼へと手を伸ばし、そして一瞬、躊躇した。
胸が張り裂けそうに切なく、また彼に掛ける言葉が見つからない。
いくら探しても、探しても見つからないのだ。
いつも一緒にいた大切な彼が一瞬にして全てのものを失った瞬間―――。
言葉なんって出てくる筈はないのだ。
それでも、それでも彼女はそんな姿の彼を頬ってはおけず、彼の元へと近づいた。
「……悟……?……」
「ああ……。莉乃か?……殺されていたんだ。親父とお袋が……」
「……悟……大丈夫……?」
「大丈夫ってなにが?俺は平気だけどお前が大丈夫じゃねーだろ?……なに泣いてるんだよ……」
「えっ……?」
悟に言われ、莉乃は自分の頬に僅かに触れる。
自分でも気づかないうちに瞳から涙を流していたのだった。
そして、そんな彼女へと自嘲気味に彼は笑った。
「何でお前が泣いてんだよ……」
「………っ」
その言葉に彼女は溜まらず彼を抱き締めた。
胸の中で何かが込み上げる想いと共に、彼女は濡れた声音で彼へと囁くように言った。
「大丈夫だよ……。わたしは悟の側にいるから……。ずっとあなたの側にいるから……」
そう言いながら彼女は彼をきつく抱き締めた。
莉乃は瞳を閉じ、そして開くと共に思考を断ち切った。
莉乃はソファーに乗っていた膝掛けへと手を伸ばし、それを手に取ると瞳を細目ながら、眠っているリリへと掛けたのだった。
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