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【八十三話】ティアナ・オールディス
しおりを挟む「その近衛とはどういう関係ですか? ミシェール様」
ティアナはこちらを真っ向から睨み付けてきた。
ふふ。
分かりやすいわね。
ティアナ・オールディス。
策略家としては三流よ?
まあ、策謀すら練ってないのでしょうけど。
私はちらりとセイに視線を移す。
すこし笑った後、羽扇を大きな音を立てて開いた。
「野暮な事を聞かないでティアナ様。彼は私の二号のようなものよ?」
口元を羽扇で隠して、艶やかに笑って見せる。
「第二王子様は忙しくていらっしゃられるでしょ? その間の暇つぶしよ? あなたにもそういう人、いるんでしょ?」
紅いルージュの引いた唇を吊り上げて「オッホッホ」と笑う。
「私には、そんな人いないわ。今も昔もルーファス様だけよ。大切な人。側に居たかった。癒やして差し上げたかった……」
そう言って、大きな瞳から涙をポタポタ流す。
ふむ。
ルーファスを懸想しているのは、本当なのかしら?
そこを利用された?
思いが純粋であればあるほど、利用するのは容易いのだ。
「あらあら、お泣きになっていらっしゃられるの? 人を殺してでもルーファス様を手に入れようとした人が? 私が死んだらルーファス様が手に入るとでも思った?」
「……あなたを殺したかったんじゃない。ルーファス様を守りたかったのよ。それが、あなたが死ぬ事と同義だっただけ」
随分な言い方じゃない?
私が生きていると、まるでルーファスが不幸になるみたいじゃない。
「死んで欲しかった。心の底からよ? 死んで欲しかった。死んで欲しかった」
そんなに連呼しなくて良いって。
マジ止めて。
「落馬して即死していれば、ルーファス様が治癒魔法を使うこともなかったのよ? あの時、あなたさえ死んでいれば、世界は丸く収まったの。どうして生きているの? 邪魔で邪魔でしかたがないわ」
私は、真っ赤な十センチヒールを履いているから、バランスを崩さずにいるのは割合大変なのだ。
セイがそっと私の手をエスコートするように支える。
それがまたティアナの勘に障ったようだ。
「その、ルーファス様の足元にも及ばない小賢しい近衛はなんなのですか? 二号って何? ルーファス様を愚弄する気? あなたみたいな淫らな女が男を不幸にするのよ」
スゴイ言いようね?
小賢しい近衛って。
近衛は王を守る盾よ?
しかもルーファスの腹心の部下。
彼の耳に入る事は、ルーファスの耳にも漏れなく入るのになー。
「カールトンは第四位公爵家。所詮四位だから知らないのだろうけど、彼はこのまま行くと、癒やし手でありながら、殺し屋にもならなければいけないのよ? 古来、アッシュベリー王国で王弟が何を担って来たかも知らない、新参者の貴族がっ!」
いやいやいや。
カールトンは新参者じゃないだろ?
古参貴族以外の何ものでもない。
ただ、オールディスよりは新参者なだけだ。
かなり、由緒正しい家柄よ?
マジ言い掛かり。
新参貴族といえば、我がお祖父様のエアリー家だろうか?
しかしーー
新参貴族を舐めるんじゃないわよ。
それだけ王国に、利をもたらしたのよ?
お礼くらい言いなさいよ。
王弟殿下が担って来た仕事。
もちろん、建国王の王弟が何を担って来たかは知っているわよ?
有名だしね。
それが今でも脈々と続いているということなのかしら?
裏王家ではなく?
いえ、裏王家と王弟殿下が繋がっているということか?
命令は王弟が。
実行は裏王家が。
王は光である。
血で穢れてはならない。
それでは、人の上に立つことは出来なくなる。
それ故に。
影は弟が。
弟はその手を真っ赤に染めて、兄を守り抜く。
建国からの習わし。
王と王弟は光と影。
全ては二人で一つなのだ。
正と負の役割を。
私は建国記に記された一部を思い出していた。
深そうな因縁じゃない?
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