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本編
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書類偽造で同僚をはめようとしたところ、ヒーローに暴かれて自主退職に追い込まれる女性だ、私。引っ込み思案でおどおどとした女の子。なぜそんなことをしたのかまったくわからないし最後まで決して認めなかった。ニコニコ動画で解説動画をみただけの小説だったから今まで全然気がつかなかった。
たしかミステリ系の小説で何もかもがうまくいかず自暴自棄になったダウナー系お嬢様ヒロインと結婚したヒーローが家の中にはびこる不正や犯罪を暴いて断罪していくという内容だったはず。
罪を暴かれ断罪される最初の一人が私というわけ。
やばい、紹介状なしの自主退職は相当やばい。次の就職たぶん無理で田舎に帰ったんだろうけど相当肩身がせまい思いをしたんだろうなあ。ああ、絶対嫌だ。私はそんな目に絶対に会いたくない。一番確実なのはここに就職しないことだけど今更自己都合退職なんてしたら推薦人の顔に泥を塗ることになる。
とりあえず、真面目に仕事して信用を稼ぐしかないよねえ。
侍女用の一人部屋でふかふかのベットにゴロンと寝転がった。
ベルモット家のお屋敷で侍女を初めて半年。奥様のご指導のもとコツコツとスキルを積み上げて来たのが認められて朝の紅茶を頼まれるようになった。寝ぼけた無防備な瞬間に取る寝覚めの一杯は貴族の中でも重要なもの。毒殺しやすいというのもあって古株の信頼のおける使用人の仕事。貴方を信頼するという主人からのメッセージ。侍女として最も栄光あるし仕事。非常に喜ばしいことではあるものの単純に喜ぶことはできなかった。
屋敷内に奥様どころか旦那様にとって信頼できる人間があまりにも少ない。明白に腐敗している。先代様からの臣下は旦那様を侮って敬わず。不正や犯罪に手を染めるものが後を絶たないにもかかわらず旦那様はそれを制することができていない。
「信頼できる侍女」は私一人。
ああ、なるほど。黒く染まれなかったがために排除されたのね。きっと。悪だくみに加われない人間は恐ろしいもの。
私の地元はリリア、ベルモット家が所有する男爵領の商業的中心都市だ。そこの手習い所の同窓生のなかで人格的に信頼のおける人間を選んで推薦した。旦那様はあっさりと全員採用した。かなり驚いたし同窓生たちからは非常に感謝された。
仕事しない人間からガンガン仕事を奪い取り、年老いた臣下を代替わりさせ、あるいは退職をせまり。忙しい日々が過ぎていった。
「お前のような小娘が、長年男爵家に忠勤をつくしてきたわしらを追い出してなにをするきだ! 旦那様に体を使って取り入ったんだろてめえ!」
「そうやって追い出して次は自分の私腹を肥やすんだろう?ばれてんだよ騙されねえぞ!」
「絶対に天罰が下るぞこの悪女が!」
下品な人たち
何を言われようと不正なんて致しません。
はっと気がつけば原作開始の合図。お嬢様の婚約者が屋敷を訪れた。不正をする馬鹿者はおおよそ追い出し終わったし、お嬢様に付けた侍女たちは一流とまではいかずとも向上心のある素敵な娘たちだ。まさか断罪劇なんて起こるはずもない。
どうにも調達できなかった統治能力持ちの代官を引き連れて婿入りしてきた彼を私たちは万歳三唱で迎えた。やった、これで放置状態だった農業に手を付けられる!
がたん、と大きな音がする。
ああ、ヒーローは肝心な場面に居合わせたり重要な証拠を見つけることが得意な探偵タイプだった。
扉を開ければ案の定。よほど動揺したのか完全に固まっているのがひどくおかしかった。
ここには、今までのような殺伐とした事件はございませんよ。
このあと、執事になった同郷の青年と結ばれたり。子供が生まれたり。奥様となられたお嬢様の娘の乳母の一人になったり。農業改革で一面を黄金の小麦畑にしたり。蒸留酒をつくったり。思いっきり楽しく人生を楽しみましたとさ。
ヒーロー
いわゆる探偵枠。あだ名は死神。事件の裏で糸を引いているのではと疑われて王宮での仕官を拒まれた過去を持つ。
ヒロイン
もとダウナー系お嬢様。やさぐれた気持ちは純朴な田舎娘たちの手によって癒された。超絶美女。
主人公
もと日本人の転生者。前世の記憶の影響からか性善説のひとかつかなりの自由人。
たしかミステリ系の小説で何もかもがうまくいかず自暴自棄になったダウナー系お嬢様ヒロインと結婚したヒーローが家の中にはびこる不正や犯罪を暴いて断罪していくという内容だったはず。
罪を暴かれ断罪される最初の一人が私というわけ。
やばい、紹介状なしの自主退職は相当やばい。次の就職たぶん無理で田舎に帰ったんだろうけど相当肩身がせまい思いをしたんだろうなあ。ああ、絶対嫌だ。私はそんな目に絶対に会いたくない。一番確実なのはここに就職しないことだけど今更自己都合退職なんてしたら推薦人の顔に泥を塗ることになる。
とりあえず、真面目に仕事して信用を稼ぐしかないよねえ。
侍女用の一人部屋でふかふかのベットにゴロンと寝転がった。
ベルモット家のお屋敷で侍女を初めて半年。奥様のご指導のもとコツコツとスキルを積み上げて来たのが認められて朝の紅茶を頼まれるようになった。寝ぼけた無防備な瞬間に取る寝覚めの一杯は貴族の中でも重要なもの。毒殺しやすいというのもあって古株の信頼のおける使用人の仕事。貴方を信頼するという主人からのメッセージ。侍女として最も栄光あるし仕事。非常に喜ばしいことではあるものの単純に喜ぶことはできなかった。
屋敷内に奥様どころか旦那様にとって信頼できる人間があまりにも少ない。明白に腐敗している。先代様からの臣下は旦那様を侮って敬わず。不正や犯罪に手を染めるものが後を絶たないにもかかわらず旦那様はそれを制することができていない。
「信頼できる侍女」は私一人。
ああ、なるほど。黒く染まれなかったがために排除されたのね。きっと。悪だくみに加われない人間は恐ろしいもの。
私の地元はリリア、ベルモット家が所有する男爵領の商業的中心都市だ。そこの手習い所の同窓生のなかで人格的に信頼のおける人間を選んで推薦した。旦那様はあっさりと全員採用した。かなり驚いたし同窓生たちからは非常に感謝された。
仕事しない人間からガンガン仕事を奪い取り、年老いた臣下を代替わりさせ、あるいは退職をせまり。忙しい日々が過ぎていった。
「お前のような小娘が、長年男爵家に忠勤をつくしてきたわしらを追い出してなにをするきだ! 旦那様に体を使って取り入ったんだろてめえ!」
「そうやって追い出して次は自分の私腹を肥やすんだろう?ばれてんだよ騙されねえぞ!」
「絶対に天罰が下るぞこの悪女が!」
下品な人たち
何を言われようと不正なんて致しません。
はっと気がつけば原作開始の合図。お嬢様の婚約者が屋敷を訪れた。不正をする馬鹿者はおおよそ追い出し終わったし、お嬢様に付けた侍女たちは一流とまではいかずとも向上心のある素敵な娘たちだ。まさか断罪劇なんて起こるはずもない。
どうにも調達できなかった統治能力持ちの代官を引き連れて婿入りしてきた彼を私たちは万歳三唱で迎えた。やった、これで放置状態だった農業に手を付けられる!
がたん、と大きな音がする。
ああ、ヒーローは肝心な場面に居合わせたり重要な証拠を見つけることが得意な探偵タイプだった。
扉を開ければ案の定。よほど動揺したのか完全に固まっているのがひどくおかしかった。
ここには、今までのような殺伐とした事件はございませんよ。
このあと、執事になった同郷の青年と結ばれたり。子供が生まれたり。奥様となられたお嬢様の娘の乳母の一人になったり。農業改革で一面を黄金の小麦畑にしたり。蒸留酒をつくったり。思いっきり楽しく人生を楽しみましたとさ。
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