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第1話 世界にサヨナラ
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欲しかったのは正論ではなく慰めだった。
別に建設的な意見が欲しかった訳じゃなくて、ただ傷ついた今の私に優しくして欲しかった。
甘えと言えばそれまでなんだろうけれど、その時、私に必要だったのは間違いなくそれで…。
気休めで良いから優しい言葉をかけて欲しいと思った。私の弱音を否定しないで、ただ受け止めて欲しかった。
だから私はその瞬間、完全に心が折れてしまった。
それはきっかけの一つでしかなかったけれど、その瞬間積りに積もった私の中の"もう死んでしまいたい"と言う気持ちが爆発してしまって、私は気が付けば目の前にある腰ほどまである展望台の手すりを乗り越えて、その向こう側へと飛び込んでいた。
別に死にたかった訳じゃない。
ただ、生きているのが辛くなっただけ。
「宇都木さんは優しいから」
そんな風に言われて、都合よく扱われ続けることに疲れただけ。
元々優しさなんてものじゃなかった。
ただ、私はつい人の顔色を気にしてしまう性格で、他人に頼まれたことを断って嫌な顔をされるのが嫌だった。
だから頼まれたことをついつい引き受けて居たら、いつの間にかそれが当然みたいに思われてしまって、周りの人たちから都合よく仕事を押し付けられるようになってしまった。
感謝なんてされたのは最初だけで、次からは当たり前のように押し付けられるようになって、断ろうとしようものなら嫌な顔をされる始末だった。
彼らにとって私は、"そう言う"存在になってしまっていた。
友人や家族にそんな愚痴を零せば、皆「自業自得」「嫌なら嫌ってちゃんと言わないから」「そう言う所気が弱いよね」「見栄を張ったって仕方ないじゃん」と口を揃えて言った。
共感してくれないまでも、少しは同情して貰いたい…そんな浅ましさがなかったと言ったら嘘になるし、皆"私の為"に厳しく言ってくれたのもわかっている。
…………そうだよね。私が悪いよね。分かっているよ。わかっているけれど…。
それでも私はそれが出来ないから、こうなってしまったんだよ。
一度"そう"なってしまった環境を、自分一人で変えることなんてそう簡単に出来る訳もないよね。
疲れてしまった。
会社に行くことも、誰かの顔色を伺うことも、欲しい言葉をくれない大事な人たちと、そんなことに心痛めて、勝手に苦しくなってしまう自分自身も。
だから私は逃げたかっただけ。死にたかった訳じゃない。生きているのが苦しくて苦しくて。楽になりたかったんだ。
これで楽になれる。
自分が落ちていくのを感じながら、私は瞳を閉じていた。
次の瞬間に来るのは痛みだろうか。それとも上手く即死できれば痛みなんて感じずに済むのかな?
痛いのはやっぱり嫌だし、眠るように逝けるなら楽でいいな…。
そんな風に考えているうちに、私の意識はぷつりと途切れた。
「聖女様!!!!!!!」
「聖女様の意識が戻られたぞ…!!!!」
「良かった…!!!!!!」
次に意識が戻った私が目を開くと、そこは身に覚えがない場所だった。
その上周りにいる人たちの様子がおかしいことに気が付く。ここが病院であるなら、ここにいるのは医師や看護婦…あとは私の家族くらいがせいぜいだろう。
しかし、私が寝かされているベッドの周りにいる人たちには全く見覚えもないし、その容姿や格好もおかしかった。
髪の色が明るい茶髪や金髪…、黒髪もいるけれど、赤毛っぽい人もいるし、目の色だって青や緑色なんて日本人では基本的に見かけないカラーリングをしているし、服装は白衣やナース服ではなくて、クラシカルなメイド服や執事服…と言った感じのものを身に着けている。
「???????」
私が何が起こったのかわからないまま目をぱちくりさせているのも無視して、周りの人たちは何やら大盛り上がりしている。
言葉に耳を傾けてみれば「聖女様がお目覚めになられた!」と大層感激しているらしい。
今、目が覚めたのは「私」だ。聖女様なんてものではない。人違いでは?ときょろきょろと辺りを見回してはみても、他にベッドがあるわけでもなく、ただただ高そうな調度品の置かれた豪華な居室の景色があるだけだ。
(…な、なに…? ここどこ…?それにこの人たちは…一体…)
一般人である私を引っ掛ける為の壮大なドッキリなんて行われるはずもない。そうなれば、考えられるのはー…………。
(…夢でも見てるってことだよね。…そうじゃなきゃ、私が聖女なんて呼ばれてるのもおかしいし…)
わーわーと相変わらず騒がしい周りの人々を尻目に、私は再び後頭部を枕に落とした。
何だかやけに全身がだるくって、頭もぼーっとしている。
やっぱり私は現実では瀕死か死んでしまっていて、これはそんな状態でぼんやり見ている非現実的な夢なんだろう。
ふかふかの枕は私がいつも使っている物よりもずっと上等なものなのだろう。寝心地の良さだけではなく、ほんのりいい香りもして、何だか急に眠気が襲ってくる。
「…何だか凄く眠いの。もうひと眠りさせて………」
どうせ夢なんだ。好きに振舞わせて貰ってもいいだろう。
そんな風に考えながら、私は、自分の意識をゆらゆら揺れる眠気の波に任せ手放した。
別に建設的な意見が欲しかった訳じゃなくて、ただ傷ついた今の私に優しくして欲しかった。
甘えと言えばそれまでなんだろうけれど、その時、私に必要だったのは間違いなくそれで…。
気休めで良いから優しい言葉をかけて欲しいと思った。私の弱音を否定しないで、ただ受け止めて欲しかった。
だから私はその瞬間、完全に心が折れてしまった。
それはきっかけの一つでしかなかったけれど、その瞬間積りに積もった私の中の"もう死んでしまいたい"と言う気持ちが爆発してしまって、私は気が付けば目の前にある腰ほどまである展望台の手すりを乗り越えて、その向こう側へと飛び込んでいた。
別に死にたかった訳じゃない。
ただ、生きているのが辛くなっただけ。
「宇都木さんは優しいから」
そんな風に言われて、都合よく扱われ続けることに疲れただけ。
元々優しさなんてものじゃなかった。
ただ、私はつい人の顔色を気にしてしまう性格で、他人に頼まれたことを断って嫌な顔をされるのが嫌だった。
だから頼まれたことをついつい引き受けて居たら、いつの間にかそれが当然みたいに思われてしまって、周りの人たちから都合よく仕事を押し付けられるようになってしまった。
感謝なんてされたのは最初だけで、次からは当たり前のように押し付けられるようになって、断ろうとしようものなら嫌な顔をされる始末だった。
彼らにとって私は、"そう言う"存在になってしまっていた。
友人や家族にそんな愚痴を零せば、皆「自業自得」「嫌なら嫌ってちゃんと言わないから」「そう言う所気が弱いよね」「見栄を張ったって仕方ないじゃん」と口を揃えて言った。
共感してくれないまでも、少しは同情して貰いたい…そんな浅ましさがなかったと言ったら嘘になるし、皆"私の為"に厳しく言ってくれたのもわかっている。
…………そうだよね。私が悪いよね。分かっているよ。わかっているけれど…。
それでも私はそれが出来ないから、こうなってしまったんだよ。
一度"そう"なってしまった環境を、自分一人で変えることなんてそう簡単に出来る訳もないよね。
疲れてしまった。
会社に行くことも、誰かの顔色を伺うことも、欲しい言葉をくれない大事な人たちと、そんなことに心痛めて、勝手に苦しくなってしまう自分自身も。
だから私は逃げたかっただけ。死にたかった訳じゃない。生きているのが苦しくて苦しくて。楽になりたかったんだ。
これで楽になれる。
自分が落ちていくのを感じながら、私は瞳を閉じていた。
次の瞬間に来るのは痛みだろうか。それとも上手く即死できれば痛みなんて感じずに済むのかな?
痛いのはやっぱり嫌だし、眠るように逝けるなら楽でいいな…。
そんな風に考えているうちに、私の意識はぷつりと途切れた。
「聖女様!!!!!!!」
「聖女様の意識が戻られたぞ…!!!!」
「良かった…!!!!!!」
次に意識が戻った私が目を開くと、そこは身に覚えがない場所だった。
その上周りにいる人たちの様子がおかしいことに気が付く。ここが病院であるなら、ここにいるのは医師や看護婦…あとは私の家族くらいがせいぜいだろう。
しかし、私が寝かされているベッドの周りにいる人たちには全く見覚えもないし、その容姿や格好もおかしかった。
髪の色が明るい茶髪や金髪…、黒髪もいるけれど、赤毛っぽい人もいるし、目の色だって青や緑色なんて日本人では基本的に見かけないカラーリングをしているし、服装は白衣やナース服ではなくて、クラシカルなメイド服や執事服…と言った感じのものを身に着けている。
「???????」
私が何が起こったのかわからないまま目をぱちくりさせているのも無視して、周りの人たちは何やら大盛り上がりしている。
言葉に耳を傾けてみれば「聖女様がお目覚めになられた!」と大層感激しているらしい。
今、目が覚めたのは「私」だ。聖女様なんてものではない。人違いでは?ときょろきょろと辺りを見回してはみても、他にベッドがあるわけでもなく、ただただ高そうな調度品の置かれた豪華な居室の景色があるだけだ。
(…な、なに…? ここどこ…?それにこの人たちは…一体…)
一般人である私を引っ掛ける為の壮大なドッキリなんて行われるはずもない。そうなれば、考えられるのはー…………。
(…夢でも見てるってことだよね。…そうじゃなきゃ、私が聖女なんて呼ばれてるのもおかしいし…)
わーわーと相変わらず騒がしい周りの人々を尻目に、私は再び後頭部を枕に落とした。
何だかやけに全身がだるくって、頭もぼーっとしている。
やっぱり私は現実では瀕死か死んでしまっていて、これはそんな状態でぼんやり見ている非現実的な夢なんだろう。
ふかふかの枕は私がいつも使っている物よりもずっと上等なものなのだろう。寝心地の良さだけではなく、ほんのりいい香りもして、何だか急に眠気が襲ってくる。
「…何だか凄く眠いの。もうひと眠りさせて………」
どうせ夢なんだ。好きに振舞わせて貰ってもいいだろう。
そんな風に考えながら、私は、自分の意識をゆらゆら揺れる眠気の波に任せ手放した。
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