寝起きで転生 ~鍋から始める魔王討伐~

べるんご

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鉱山開放、俺達貧乏

安息を彼に

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そいつは、概ね人型。
概ねというのは、左腕が付け根からちぎられたようになっていて、体にも酷く深い傷が付けられていたからだ。
どう見ても歩けるような体ではないが、そいつはゆっくりと俺達に近付いている。


「ゾンビ、リビングデッド、お好きな方でお呼びください。よく居るんです、こういう場所には」


白濁した目は、果たして俺達を見ているのかどうか。
残された方の腕にはツルハシを握っていて、それで俺達を殴打しようというのは理解できた。


「……なぁ、あれってやっぱり、村の炭鉱夫だったりするのか?」


「……恐らくは」


エルの声がいつもより重い。
ハエトリくんや野犬が相手ならケツを蹴飛ばしてくるくせに、ゾンビが相手だとしおらしくなるのか。


「どうします?戦ってツルハシを奪いますか?それとも、退きます?ユーマくんが壁を蹴飛ばした辺りまで戻れば、もう付いてはこないハズです」


俺は少し考える。
ヤツが一歩近付く度に、エルと一歩ずつ下がりながら。
ニブさで言えば、ハエトリくんとどっこいだが、攻撃力が違いそうだ。
獲物のリーチも違うし、なによりゾンビだとしても人型のものを傷つける度胸がない。


「……アイツの驚異度とか、どんな程度なんだ?」


エルは、エルなりの見解を述べ始めた。


「間違いなく、腕力はユーマくんよりあります。肉体のリミッターが外れるので。痛覚もないので、怯ませるというよりは攻撃の衝撃でよろけさせることになるでしょう」


「どれくらい攻撃したら倒せるんだ?」


「恐らくはあのゾンビは、念の強さで動いています。助かりたかった、逃げ出したかった、もっと生きたかった。……そんな、痛くて悲しい念の力です。だから、頭を潰さなければいけません」


「……潰す?斬って落としてもダメか?」


「再生こそしませんが……彼は、ずっとゾンビのままでしょう。頭だけが死ぬこともなく……ただ居続けることでしょう」


普段よりも、エルが明らかに暗く、重い。
ゾンビに何か思い入れがあるのか、その成り立ちへの同情があるのか。


「今のユーマくんには厳しい相手です。……どうします?」


このゾンビから逃げたいと言っても、エルはきっと許してくれるだろう。
いつものようにキリキリ戦え、とは絶対に言わない。
そう言ってしまうくらいなら、すでに俺のケツが何度も蹴られているだろうから。


「正直逃げ帰りたいけど、コイツの成り立ち聞いてたら……ちょっと燃えてきた」


「……分かりました。私は手を出しませんが、死なない程度にはサポートします。死んだり逃げ出そうとしたら、今吐いたクッサい台詞、村の人たちの前でクソほど言いふらしてやりますから」


「……自分ほんまそーゆーとこやで。でもまあ、やるだけやってやる!」


ナイフはまだ懐に。
エルの情報を信じ、俺は一気に駆け寄った。


「オルアアアッ!」


俺の接近に反応し、ゾンビがツルハシを振りかぶる。
しかし振りかぶりきるよりも先に、俺のドロップキックが腹に直撃、決して重くはないその体は簡単にひっくり返った。


「やっぱりプロレス」


「したことないです」


自分で頭を潰すなんてしたくないから、また壁にでもぶつけてくれれば良かったが……そう上手くは行かなかったらしい。
だがこの大きすぎる隙を突き、手放したツルハシをエルの側に蹴り飛ばす。


「ごめんな……。アンタに恨みはないし、こんなことはしたくないけど、こうするしか……無いんだッ!」


倒れたゾンビに馬乗りになり、その額めがけてナイフを振り下ろす。
全力で振り下ろしたナイフは、額を簡単に刺し貫き、人体の最重要器官を傷付ける。


「くっ……!」


心が痛む。
やはり俺には、こんなこと向いていない。

ゾンビはというと、少しの間は手足が痙攣していたが、次第に静かになっていく。
やがて唸り声もあげなくなり、完全に沈黙した。


「……こう言うべきなのかは分かりませんが、おめでとうございます。今日は、もう戻りましょう」


エルにしては珍しく、気を遣ってくれているようだ。
でも俺は、このまま帰るわけにはいかない。


ツルハシは一旦、入り口の方面にさらに蹴飛ばしておく。
そして、ゾンビだったものを背負って、外へと向かう。


「まさか、村まで送っていくんですか?」


「あぁ、そうだ。元は人間なんだから、家族や友達だっているんだ。人間として送ってやるべきだろ、この人は」


エルは何かを言おうとしていたようだが、押し黙ったまま静かに付いてくる。
正直蹴飛ばすには軽くとも運ぶには重たいので、手伝って欲しい気もしたが……流石に女の子に頼めない。


「さぁ、出口だぜ。どれくらいぶりかは分からないけどな」


俺達からすれば数時間と経っていないハズなのに、日の光が妙にありがたく感じた。
すると、体が少しずつ軽くなり始めていることに気付く。


「……ユーマくん、その人を見てください」


エルに促され、背負っている人を見ようとする。
そこには……


「な、なんだよ……どういうことなんだよ!」


――砂のように崩れていく、その人の姿があった。


「一度こうなってしまった人は、もう日には当たれません。一部のアンデッドを除くと、それは死後も変わりません」


「そんな……!じゃあ、この人は知った顔一つ見ることなく、見ず知らずの俺達に見送られるだけなのか!?」


「それでも救われたのだと信じることです。それくらいしか、もうできませんから」


体温こそなかった。
血もそんなに出てこなかった。
それでも、辛うじて人間の体だったその人は、今ではもう砂の山になってしまい、それすらも風に乗って飛んでいく。


「ん……これは……」


砂の山が小さくなるに連れて姿を見せた、小さな指輪。
この人が身に付けていたであろうそれは、日の光に照らされて美しく輝いていた。


「……エル、これで終わりなんて全然違う。俺達にはまだ、できることがある」


疑問符を浮かべるエルに指輪を見せ、それから村へと戻っていく。
幸い、その指輪の相手はすぐに見つかった。
全く同じデザインの、サイズだけが違う指輪を付けたおばあさんは、俺達の前でずっと泣いていて……そして、ありがとうと口にした。


「今日は、色々とお疲れさまでした。武器屋のおじさんも、誉めてくださりましたしね!」


「称賛が欲しくてやった訳じゃねぇけどな。人として、そうするべきだと思っただけさ」


「……フフ、ちょっと気取った台詞がクッサいですねぇ」


「うるせえ!」


普段通りに戻りつつある、エルと俺。
そろそろ休みに行こうとしたそのとき、妙に砂っぽい風が吹き抜けていった。


「私を救ってくれて、ありがとう」


そう年老いた男性らしき声が聞こえたのは、俺の気のせいか、願望か、それとも……。

こうして、石掘りアルバイトの初日は終わりを向かえた。
そして次の早朝、すっかり元通りのエルはまた、俺のケツを蹴飛ばしていた。


「さぁ、シャキッとして!今日も明日もガン堀りガン掘り!」


「仕事はするからケツは蹴らないで!そのうち俺のプリケツが地べたに落ちる!」


でも不思議と、今日はいつもほど病まなかった。
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