お腹の弱いショタは頼れないので、気づけばお父さんは心配しすぎて過干渉

Sora

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 病院からの帰り道、景介はいつの間にか眠っていた。
 助手席のシートを少し倒したまま、体を横に向けて毛布に包まり、呼吸は浅く、一定のリズムを刻んでいる。高熱のせいで、額にはうっすらと汗が滲み、頬の赤みは残ったままだ。
 手は胸元で軽く丸まり、指先まで力が抜けている。顔はどこか幼く見え、目の下にはうっすらと影が浮かんでいた。
 父は運転しながら、ふと横目で景介を見た。その姿は、もう中学生とは思えないほど頼りなく、小さな子どものようだった。
 景介の体は決して大柄ではなく、昔から細身で、成長も人より少し遅れている。今日のように熱を出して寝込むと、その小ささがいっそう際立つ。
 何も言わず眠るその姿を見て、父は一言も発さないまま、ハンドルを握る手に力を込めた。信号待ちのたびに、ちらりと横顔を確認する。だが、声をかけることはしなかった。
 ただ静かに、いつもよりも慎重に車を走らせた。
 駐車場に車を停めても、景介は目を覚まさなかった。
 父は一度荷物を持って家へ入り、玄関の引き戸を開けたまま助手席に戻る。ドアを静かに開き、シートベルトを外す。
 右腕を景介の背中に回し、左腕を膝の裏に入れて抱き上げると、景介の頭が父の肩に預けられた。
 体温と呼吸のぬくもりが、じんわりと伝わってくる。
 家に入ると、父は肘で引き戸を閉め、そのまま景介の運動靴を脱がせる。ぐったりした体を支えながら、ゆっくりと部屋へ運び、布団の中へと寝かせた。

 午後も深まり、部屋に差し込む光が少しだけ傾き始めていた。
 景介は、布団の中で目をゆっくりと開けた。頭の奥にまだ熱の名残が残っていたが、朝のようなしんどさは少し和らいでいる気がした。喉も渇いていて、水が欲しいと思えるだけの余裕がある。
「……ん……」
 寝返りを打つと、父がこちらを向く。
「起きたか。」
 相変わらずの低い声。だが、間髪入れずに水の入ったコップが差し出される。
 景介は身を起こそうとして、少しふらつきながらも上半身を支え、手を伸ばした。
「ありがとう……」
 そう呟くと、父は言葉を返さずに軽く頷いた。
 水を一口飲む。喉の奥に冷たさがしみ込んでいくのを感じる。
「ちょっと……ましになったかも。」
 そう言って笑ってみせたが、父は表情を変えずに景介を見つめていた。
「薬は、もう少ししてからだな。……熱が下がったか、測るぞ。」
 体温計が脇に差し込まれ、静かな時間が流れる。ぴ、と鳴った音と同時に父が数値を確認した。
「三十八度一分。下がったな。」
「ね、ほら。もう大丈夫そうじゃん。」
「まだ安心するな。」
 淡々とした口調。いつも通り、少し刺さるような言い回し。でも、景介はなぜか言い返さなかった。
 父は時計に目をやり、立ち上がる。
「少し寝ておけ。」
 そう言い残して部屋を出ていくその背中に、景介はほんの少しだけ安心感を覚えた。
 まだ完全には治っていない。でも、どこかに「見られている」感覚が残っている。それだけで、少しだけ気が楽だった。

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