姫騎士様は恋を知らない

Sora

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8.剣の師

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 騎士団の訓練場には、鋭い剣の音が響いていた。  

 セラフィナは剣を構え、目の前の相手を見据える。ヴィクトル・エーベルハルト――彼女の上官であり、剣の師であり、幼い頃から面倒を見てくれた人物。  

「もう一度だ」  

 ヴィクトルの声が低く響く。セラフィナは深く息を吸い、一歩踏み込んだ。鋭い突き、流れるような剣筋。しかし

「遅い」  

 ヴィクトルの剣がわずかに角度を変え、セラフィナの攻撃を受け流す。次の瞬間、彼女の視界がぶれる。  

「――っ!」  

 ヴィクトルの刃がセラフィナの間合いに滑り込んだ。避ける暇もなく、木剣の切っ先が彼女の肩口をかすめる。
 セラフィナは息を詰め、わずかに唇を噛んだ。悔しさを噛み締めながら、ぐっと剣を握り直す。

「余計な力が入っている」  

 ヴィクトルが剣を下ろしながら言う。  

「お前は元々、無駄のない動きができるはずだ。だが、力を込めすぎると、その鋭さが鈍る」  

「……わかってます」  

 セラフィナは息を整えながら答える。ヴィクトルの言う通りだ。彼女はつい、力で押し切ろうとしてしまう癖がある。焦りは禁物だと頭ではわかっていても、実戦ではつい力が入る。  

「もっと肩の力を抜け」  

 ヴィクトルはそう言いながら、セラフィナの肩を軽く叩いた。  

「最近、何か考え事でもあるのか?」  

「……別に」  

 セラフィナはそっけなく答えるが、ヴィクトルは鋭い視線で彼女を見下ろした。  

「俺に嘘をつくな」  

「……」  

 セラフィナは視線をそらした。  

 ヴィクトルには、誤魔化しがきかない。彼女が幼い頃からずっと、剣の指導を受けてきた相手だ。心の動きまで見透かされるようで、少しだけ気恥ずかしい。  

 だが、ヴィクトルはそれ以上は追及しなかった。  

「いいか、セラフィナ。お前は俺の教え子であり、部下でもあるが、それ以上に――」  

 一拍置いて、彼は言った。  

「俺の大切な騎士団の一員だ」  

 セラフィナは一瞬、目を見開いた。  

「……過保護じゃないですか?」  

 思わず呟くと、ヴィクトルは微かに笑った。  

「お前はもっと、人に頼ることを覚えろ」  

「考えておきます」  

 セラフィナはそう言いながら、もう一度剣を握り直した。  

「……もう一戦、お願いします」  

 ヴィクトルは満足そうに頷いた。  

「いいだろう」  

 そして再び、剣が交差する。  
 彼女にとって、ヴィクトルはただの上官ではない。  
 ――師であり、信頼すべき存在だった。  

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