姫騎士様は恋を知らない

Sora

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9.王太子の護衛任務(前)

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 華やかな音楽と貴族たちの談笑が響く広間。豪奢なシャンデリアが煌めく光を放ち、大理石の床がそれを静かに反射していた。  

 今宵の夜会は、貴族たちの社交の場であると同時に、王太子アレクシスが参加することで政治的な駆け引きの場ともなっている。  

 会場の片隅に立つセラフィナ・ド・ラ・モントフォールは、淡々と周囲を見渡していた。  

 黒髪は上品にまとめられ、控えめな装飾が施された髪飾りが添えられている。纏うのは深紅のドレス。肩と鎖骨を美しく見せるデザインながら、装飾は最小限に抑えられた。ウエストを絞ったシルエットが凛とした立ち姿を際立たせ、スカートの裾には深めのスリットが入っている。貴族令嬢としての洗練された装いでありながら、万が一の際には即座に動けるよう計算されていた。  

 隣に立つエリシア・ヴァレンティアは、鮮やかな群青のドレスを纏っている。豊かな胸元を引き立てるデザインながらも、過度な露出はなく、品位を保った仕立てだ。スカートは動くたびに柔らかく揺れ、優雅な印象を与えている。  

 彼女の金髪は、ゆるやかに巻かれた後ろ髪をハーフアップにまとめられていた。華やかさがありながらも飾りすぎず、上品に整えられている。  

 エリシアはちらりとセラフィナの横顔を見た。  

「……それにしても、セラフィナ様、すごくお綺麗ですね」  

 普段は騎士団の制服に身を包み、剣を振るう姿しか見慣れていなかったが、今夜の彼女はまさに貴族令嬢そのものだった。  

 深紅のドレスに身を包み、整えられた黒髪が上品な艶を放つ。その姿は、近寄りがたいほどの美しさと気高さを兼ね備えている。  

 しかし、当の本人は特に気にする様子もない。  

「お前も、かわいいな」  

「えっ?」  

 思わぬ返答に、エリシアの目が丸くなった。  

「な、なんですか急に……!」  

「事実を言っただけだ」  

「……もしかして、普段と雰囲気が違うからって、からかってません?」  

「どうかな?」  

 エリシアが頬を膨らませて視線を逸らすと、セラフィナはほんの少しだけ口元を緩めた。  

 だが、二人の足元は、華やかなドレスに隠されてはいるものの、決して無防備ではない。  

 セラフィナの右腿には細身の短剣が固定され、スカートのスリットをわずかに持ち上げるだけで抜刀できる位置にある。さらに、足首にももう一本の細身のナイフを忍ばせていた。  

 エリシアもまた、左腿に小型の細剣を仕込んでいる。彼女にとっても、貴族令嬢の姿を装いながら武器を隠し持つことは当然の備えだった。  

 会場の中央では、すでに王太子アレクシスが貴族たちと談笑している。その周囲を、近衛騎士たちが慎重に固めていた。  

 今のところ、大きな異変はない。だが、こうした場では、何が起こるかわからない。  

 セラフィナは静かに、確実に、周囲の様子を見極めていた。
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