姫騎士様は恋を知らない

Sora

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10.王太子の護衛任務(後)

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 王太子アレクシスは、夜会の中央で貴族たちと談笑していた。  

 彼の装いは、王族らしい威厳を纏いながらも過度な華美を避けたものだった。深いロイヤルブルーの礼服には繊細な刺繍が施され、肩には王家の象徴である金糸の紋章が輝いている。  

 アレクシスは、自然な笑みを浮かべながら貴族たちと応対していた。貴族たちはそれぞれに言葉を選びながら彼に話しかけ、時折、探るような視線を向けている。  

 彼がこの夜会に参加する目的は単なる社交ではない。  
 政治的な監視。  
 貴族たちの動向を探ること。  
 そして、王族が社交界を無視していないと示すこと。  

 そのため、彼はどの会話も軽く流すことなく、相手の言葉の裏を読み取るようにしていた。  

 時折、貴族の誰かが酒を勧めるが、アレクシスは軽く杯を傾けるだけで決して深酒はしない。表面上は穏やかながらも、彼の目は冷静に周囲を見極めていた。  

 近衛騎士たちは、そんな彼をさりげなく囲むように立ち、警戒を怠らない。彼らの配置は計算され尽くしており、どこからでも王太子を守れるように動線が確保されていた。  

 セラフィナは、そんなアレクシスの様子を静かに見つめる。  

 (問題はなさそうだが……)  

 彼の振る舞いはいつも通りだ。だが、貴族たちの中には、何かを試すような目で彼を見つめる者もいる。  

 セラフィナは、無言のまま視線を巡らせた。  
 今宵の夜会は、ただの優雅な宴では終わらないかもしれない。

 華やかな音楽と笑い声が広間を満たす中、貴族たちの会話は絶え間なく続いていた。だが、セラフィナの意識は別のところにあった。  

 アレクシスの近くにいた男が、一瞬だけ不自然な動きを見せたのだ。  

 彼は周囲の貴族たちに紛れながら、わずかに腰を落とし、袖口に手を滑らせるような仕草を見せる。  

(……武器を隠し持っている?)  

 セラフィナの目が鋭く細められる。  

 男の服装は貴族のそれに違いなかったが、所作が微妙に異なる。長年鍛えられた騎士の動きではないが、一般の貴族が取るには不自然な身のこなし。  

 セラフィナが一歩踏み出そうとしたそのとき——  

「王太子殿下、お気をつけください!」

 近衛騎士の一人が、低く鋭い声で警告を発した。  

 男の動きが一瞬止まる。  

 次の瞬間、男の袖から細身の短剣が滑り出た。狙いは明白、王太子アレクシスの喉元だ。  

 しかし、その刃が王太子に届くことはなかった。  

 キィン!と甲高い金属音が響く。  

 セラフィナの細剣が、素早く突き出された短剣を弾き飛ばしていた。  

「……ッ!」  

 男の顔が驚愕に歪む。その一瞬の隙を逃すことなく、セラフィナは即座に踏み込み、男の腕を強引にねじ上げ、鈍い音と共に、男は床に叩きつけられた。

 近衛騎士たちもすぐさま動いた。広間にいたもう一人の不審者、男の仲間が逃げようとするが、すでに近衛騎士の剣が彼の進路を塞いでいた。  

「何を企んでいた?」  

 低い声で詰問する近衛騎士。だが、男は歯を食いしばり、一言も発しない。  

 セラフィナは、まだ床に倒れたままの男を冷静に見下ろす。  

「……ここで騒ぎを起こすとは、ずいぶんと大胆な真似をするものだ」  

 彼女の目には、冷ややかな光が宿っていた。  

 騒然とする貴族たちをよそに、近衛騎士たちは男たちを拘束し、すみやかに別室へと連行する。  

 広間の空気はまだ緊張を孕んでいたが、アレクシスは微笑を崩さず、周囲の貴族たちに向かって穏やかに言った。  

「ご心配には及びません。このような場では、時折不届き者が現れるものです」  

 優雅に振る舞う彼の言葉に、貴族たちは戸惑いながらも静かに頷く。  

 セラフィナは再び警戒の目を周囲に向けた。  

(……本当に、これで終わりか?)  

 夜会は再び平静を取り戻しつつあったが、彼女の中には、まだ拭いきれない違和感が残っていた。
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