13 / 46
12.密やかなる罠
しおりを挟む
夜会で捕らえた不届き者――その背後関係を洗っていた近衛騎士団から、新たな情報がもたらされた。
連中の狙いは、アレクシス殿下の暗殺。
だが、標的を確実に仕留めるために動く暗殺者は、周囲に余計な犠牲を出す可能性がある。王宮や貴族の屋敷で襲撃されれば、護衛だけでなく無関係の者まで巻き込まれる危険があった。
それを防ぐため、殿下の別荘へと誘い込むことにした。
王宮より警備が薄く、周囲に人が少ない別荘は、暗殺者にとって「襲撃しやすい環境」に見えるはずだった。
もちろん、ただ待っているだけでは敵が動く保証はない。
今が好機だと思わせる必要がある。
そこで、「アレクシス殿下が密かに女を別荘に招いている」という噂を流すことにした。
殿下は社交界では理知的な王太子として通っているが、まったく女遊びをしないわけではない。公にはできない関係の一つや二つあったとしても不思議ではなかった。
そして、今回その"相手"を演じるのが、セラフィナだった。
馬車の車輪が静かに石畳を滑る音がする。
王宮の喧騒を離れ、森へと続く道を進む馬車の中には、アレクシス王太子とセラフィナの二人だけが乗っていた。
これはただの逢瀬――そう見せかけるための罠。
外から見れば、王太子が密かに愛人を連れ出したようにしか見えない。だが、実際には暗殺者をおびき寄せるための計画だった。
「……別荘の警備は?」
窓の外を眺めながら、セラフィナが低く問いかける。
「最低限だ。いざという時、俺たち以外の被害を出したくないからな」
アレクシスは普段通りの穏やかな口調で答えた。
暗殺者は、殿下が一人でいると確信した瞬間に動く。
そのため、今回は近衛騎士団の護衛をつけていない。
「当然、屋敷の構造は把握しているな?」
「ああ。二階建てで、脱出口は三つ。隠し通路もある」
「ならいい」
セラフィナは短く答え、再び窓の外へと視線を戻した。
別荘の周辺は、人気がない。
森の奥にひっそりと佇む建物は、隠れ家としては申し分ない環境だった。
――そして、暗殺者にとっても好都合な場所。
「……そろそろ着くぞ」
アレクシスの言葉とともに、馬車が静かに止まった。
御者は気を利かせたのか、扉を開けることなく馬車を降りる。
アレクシスが先に立ち上がり、セラフィナに手を差し出した。
「貴女の手を取るのは、これで何度目だったかな?」
「覚えているなら、数えてみたらどうだ?」
わずかに笑いを含んだセラフィナの返しに、アレクシスはくすりと笑う。
そして、二人は夜の別荘へと足を踏み入れた。
連中の狙いは、アレクシス殿下の暗殺。
だが、標的を確実に仕留めるために動く暗殺者は、周囲に余計な犠牲を出す可能性がある。王宮や貴族の屋敷で襲撃されれば、護衛だけでなく無関係の者まで巻き込まれる危険があった。
それを防ぐため、殿下の別荘へと誘い込むことにした。
王宮より警備が薄く、周囲に人が少ない別荘は、暗殺者にとって「襲撃しやすい環境」に見えるはずだった。
もちろん、ただ待っているだけでは敵が動く保証はない。
今が好機だと思わせる必要がある。
そこで、「アレクシス殿下が密かに女を別荘に招いている」という噂を流すことにした。
殿下は社交界では理知的な王太子として通っているが、まったく女遊びをしないわけではない。公にはできない関係の一つや二つあったとしても不思議ではなかった。
そして、今回その"相手"を演じるのが、セラフィナだった。
馬車の車輪が静かに石畳を滑る音がする。
王宮の喧騒を離れ、森へと続く道を進む馬車の中には、アレクシス王太子とセラフィナの二人だけが乗っていた。
これはただの逢瀬――そう見せかけるための罠。
外から見れば、王太子が密かに愛人を連れ出したようにしか見えない。だが、実際には暗殺者をおびき寄せるための計画だった。
「……別荘の警備は?」
窓の外を眺めながら、セラフィナが低く問いかける。
「最低限だ。いざという時、俺たち以外の被害を出したくないからな」
アレクシスは普段通りの穏やかな口調で答えた。
暗殺者は、殿下が一人でいると確信した瞬間に動く。
そのため、今回は近衛騎士団の護衛をつけていない。
「当然、屋敷の構造は把握しているな?」
「ああ。二階建てで、脱出口は三つ。隠し通路もある」
「ならいい」
セラフィナは短く答え、再び窓の外へと視線を戻した。
別荘の周辺は、人気がない。
森の奥にひっそりと佇む建物は、隠れ家としては申し分ない環境だった。
――そして、暗殺者にとっても好都合な場所。
「……そろそろ着くぞ」
アレクシスの言葉とともに、馬車が静かに止まった。
御者は気を利かせたのか、扉を開けることなく馬車を降りる。
アレクシスが先に立ち上がり、セラフィナに手を差し出した。
「貴女の手を取るのは、これで何度目だったかな?」
「覚えているなら、数えてみたらどうだ?」
わずかに笑いを含んだセラフィナの返しに、アレクシスはくすりと笑う。
そして、二人は夜の別荘へと足を踏み入れた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】オネェ伯爵令息に狙われています
ふじの
恋愛
うまくいかない。
なんでこんなにうまくいかないのだろうか。
セレスティアは考えた。
ルノアール子爵家の第一子である私、御歳21歳。
自分で言うのもなんだけど、金色の柔らかな髪に黒色のつぶらな目。結構可愛いはずなのに、残念ながら行き遅れ。
せっかく婚約にこぎつけそうな恋人を妹に奪われ、幼馴染でオネェ口調のフランにやけ酒と愚痴に付き合わせていたら、目が覚めたのは、なぜか彼の部屋。
しかも彼は昔から私を想い続けていたらしく、あれよあれよという間に…!?
うまくいかないはずの人生が、彼と一緒ならもしかして変わるのかもしれない―
【全四話完結】
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる