姫騎士様は恋を知らない

Sora

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12.密やかなる罠

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 夜会で捕らえた不届き者――その背後関係を洗っていた近衛騎士団から、新たな情報がもたらされた。

 連中の狙いは、アレクシス殿下の暗殺。

 だが、標的を確実に仕留めるために動く暗殺者は、周囲に余計な犠牲を出す可能性がある。王宮や貴族の屋敷で襲撃されれば、護衛だけでなく無関係の者まで巻き込まれる危険があった。

 それを防ぐため、殿下の別荘へと誘い込むことにした。

 王宮より警備が薄く、周囲に人が少ない別荘は、暗殺者にとって「襲撃しやすい環境」に見えるはずだった。

 もちろん、ただ待っているだけでは敵が動く保証はない。
 今が好機だと思わせる必要がある。

 そこで、「アレクシス殿下が密かに女を別荘に招いている」という噂を流すことにした。

 殿下は社交界では理知的な王太子として通っているが、まったく女遊びをしないわけではない。公にはできない関係の一つや二つあったとしても不思議ではなかった。

 そして、今回その"相手"を演じるのが、セラフィナだった。

 馬車の車輪が静かに石畳を滑る音がする。

 王宮の喧騒を離れ、森へと続く道を進む馬車の中には、アレクシス王太子とセラフィナの二人だけが乗っていた。

 これはただの逢瀬――そう見せかけるための罠。

 外から見れば、王太子が密かに愛人を連れ出したようにしか見えない。だが、実際には暗殺者をおびき寄せるための計画だった。

「……別荘の警備は?」

 窓の外を眺めながら、セラフィナが低く問いかける。

「最低限だ。いざという時、俺たち以外の被害を出したくないからな」

 アレクシスは普段通りの穏やかな口調で答えた。

 暗殺者は、殿下が一人でいると確信した瞬間に動く。
 そのため、今回は近衛騎士団の護衛をつけていない。

「当然、屋敷の構造は把握しているな?」

「ああ。二階建てで、脱出口は三つ。隠し通路もある」

「ならいい」

 セラフィナは短く答え、再び窓の外へと視線を戻した。

 別荘の周辺は、人気がない。
 森の奥にひっそりと佇む建物は、隠れ家としては申し分ない環境だった。

 ――そして、暗殺者にとっても好都合な場所。

「……そろそろ着くぞ」

 アレクシスの言葉とともに、馬車が静かに止まった。

 御者は気を利かせたのか、扉を開けることなく馬車を降りる。
 アレクシスが先に立ち上がり、セラフィナに手を差し出した。

「貴女の手を取るのは、これで何度目だったかな?」

「覚えているなら、数えてみたらどうだ?」

 わずかに笑いを含んだセラフィナの返しに、アレクシスはくすりと笑う。
 そして、二人は夜の別荘へと足を踏み入れた。

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