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12,5.密談
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王宮の騎士団詰所から少し離れた、中庭に面した渡り廊下。
夜風が吹き抜ける静かな場所で、二つの影が並んでいた。
「……やっぱり、殿下が狙いだったか」
ルークがぼそりと呟く。
傍らに立つエリシアは、腕を組みながら小さく息を吐いた。
「夜会の不届き者、ただの騒ぎじゃなかったってことですね」
「ああ。案の定、背後には暗殺を目論む連中がいた」
壁にもたれ、ルークは夜空を見上げる。
こうして風に当たっていると、騎士団の喧騒が遠ざかり、密談にはちょうどいい。
「殿下は、セラフィナと一緒に別荘に向かったそうですね」
「ああ。表向きは“恋人との逢瀬”ってことになってる」
「……は?」
エリシアが眉をひそめる。
「何ですか、それ。殿下がそんなことをするわけないじゃないですか」
「だからこそ、信じる奴がいるんだろ」
ルークが肩をすくめると、エリシアは明らかに納得いかないという顔をした。
「殿下が恋人を別荘に呼んだ、なんて話が流れたらどうなる?」
「……ああ」
しぶしぶ頷く。
王太子が夜会のあと、女と二人で別荘へ――そんな噂が流れれば、面白がって話を広める貴族はいくらでもいる。
「そんな話が広まれば、暗殺者どもも『チャンス』だと思うってことですね」
「そういうこった」
「でも、どうしてそんな回りくどいやり方を? 別荘で打ち合わせをするって名目じゃダメだったんですか?」
「お前な、そんな堅い理由で敵が油断すると思うか?」
「……確かに」
エリシアは小さく首を振った。
「とはいえ、セラフィナ様がそんな演技をするの、想像できないんですけど」
「それは俺も思うが……ま、どうにかするだろ」
そもそも、セラフィナより殿下のほうが演技はうまいはずだ。
王族として社交をこなしている分、そういう振る舞いにも慣れている。
「……今夜が山場ですね」
エリシアの声は、静かに夜闇に溶けていった。
ルークはちらりと彼女を見てから、また夜空に視線を戻した。
――ちょうど今頃、別荘では――
夜風が吹き抜ける静かな場所で、二つの影が並んでいた。
「……やっぱり、殿下が狙いだったか」
ルークがぼそりと呟く。
傍らに立つエリシアは、腕を組みながら小さく息を吐いた。
「夜会の不届き者、ただの騒ぎじゃなかったってことですね」
「ああ。案の定、背後には暗殺を目論む連中がいた」
壁にもたれ、ルークは夜空を見上げる。
こうして風に当たっていると、騎士団の喧騒が遠ざかり、密談にはちょうどいい。
「殿下は、セラフィナと一緒に別荘に向かったそうですね」
「ああ。表向きは“恋人との逢瀬”ってことになってる」
「……は?」
エリシアが眉をひそめる。
「何ですか、それ。殿下がそんなことをするわけないじゃないですか」
「だからこそ、信じる奴がいるんだろ」
ルークが肩をすくめると、エリシアは明らかに納得いかないという顔をした。
「殿下が恋人を別荘に呼んだ、なんて話が流れたらどうなる?」
「……ああ」
しぶしぶ頷く。
王太子が夜会のあと、女と二人で別荘へ――そんな噂が流れれば、面白がって話を広める貴族はいくらでもいる。
「そんな話が広まれば、暗殺者どもも『チャンス』だと思うってことですね」
「そういうこった」
「でも、どうしてそんな回りくどいやり方を? 別荘で打ち合わせをするって名目じゃダメだったんですか?」
「お前な、そんな堅い理由で敵が油断すると思うか?」
「……確かに」
エリシアは小さく首を振った。
「とはいえ、セラフィナ様がそんな演技をするの、想像できないんですけど」
「それは俺も思うが……ま、どうにかするだろ」
そもそも、セラフィナより殿下のほうが演技はうまいはずだ。
王族として社交をこなしている分、そういう振る舞いにも慣れている。
「……今夜が山場ですね」
エリシアの声は、静かに夜闇に溶けていった。
ルークはちらりと彼女を見てから、また夜空に視線を戻した。
――ちょうど今頃、別荘では――
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