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14.任務終了
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「さて……そろそろ来る頃だな」
アレクシスは軽く微笑む。
「いやはや、やはり側室にするべきだったか」
「……冗談でしょう」
セラフィナは鋭い視線を向けるが、アレクシスは飄々としたままだった。
「冗談でもないがな。お前ほど頼れる女は、なかなかいない」
「私は騎士です」
「そうだったな」
アレクシスはどこか楽しげに微笑み、軽く肩をすくめた。
そのとき、部屋の扉が静かに開いた。
現れたのは、黒衣に身を包んだ数人の男たち。彼らは王族直属の処理部隊――暗殺や諜報、後始末を専門とする精鋭たちだ。
先頭の男が無言で一礼すると、部隊の者たちは即座に作業を開始する。遺体の回収、床に散った血痕の処理、痕跡が残らないよう徹底した後始末。彼らの動きには無駄がなく、あっという間に部屋は元の静寂を取り戻していく。
セラフィナはその様子を見守りながら、低く問いかけた。
「……刺客は単独だったようですね」
処理部隊の一人が短く答える。
「確認した限りでは。だが、念のため敷地内の監視を強化します」
セラフィナは軽く頷き、剣を腰の鞘へ収める。
アレクシスは、まるで他人事のように肩をすくめると、静かに言った。
「君たちがそうするなら、私は安心して眠れそうだ」
処理部隊の隊長が改めて王太子へ深く一礼する。
「ご安心ください、殿下。以後の安全は、我々が責任を持って確保いたします」
やがて、遺体も血痕も完全に消え去り、処理部隊の者たちは静かに退出していった。まるで最初から存在しなかったかのように。
セラフィナは扉が閉まるのを見届け、短く息を吐いた。
「……今夜は、もう休まれますか?」
アレクシスは彼女を見つめ、ふっと微笑む。
「そうだな。だが、その前に」
そう言って彼は優雅に立ち上がり、セラフィナの手を軽く取った。
「君も少し、落ち着く時間を取ったほうがいい。これだけ気を張っていては、身体が持たない」
セラフィナはわずかに目を細めたが、すぐに微かに微笑んだ。
「……お気遣い痛み入ります、殿下」
彼女の言葉とは裏腹に、その瞳は警戒を完全には解いていない。今夜の刺客が単なる試みなのか、それとも本格的な暗殺計画の一部なのかは、まだわからないのだから。
アレクシスはそんな彼女の様子を理解しているのか、何も言わずにただ微笑むだけだった。
夜は、まだ深い。
そして、彼らの警戒もまた解かれることはなかった。
翌朝。
夜の喧騒が嘘のように、別荘の周囲は静寂に包まれていた。朝日が窓から差し込み、昨夜の余韻を残したままの室内を照らす。
セラフィナはすでに身支度を整え、剣を腰に収めていた。
アレクシスもまた、優雅に紅茶を口にしながら、どこか穏やかな表情を浮かべている。
「そろそろ戻るか」
そう言って彼は立ち上がり、窓の外を見た。王宮へと続く馬車がすでに用意されている。護衛たちも配置を確認し、いつでも出発できる状態だった。
セラフィナは短く頷き、扉へと向かう。
「王都に戻れば、また忙しくなりますね」
「そうだな。君の出番も、まだまだ続くだろう」
アレクシスは軽く微笑み、彼女の横を並んで歩く。
セラフィナはちらりと彼を見た。昨夜、命を狙われたというのに、彼はまるで何事もなかったかのような落ち着きを見せている。
(……この余裕こそが、王族としての資質なのかもしれない)
そんなことを思いながらも、彼女自身もまた、昨夜の出来事を引きずることなく淡々と職務をこなすつもりでいた。
アレクシスの護衛として、そして騎士として――。
二人は変わらぬ足取りで、王都へと帰還していった。
アレクシスは軽く微笑む。
「いやはや、やはり側室にするべきだったか」
「……冗談でしょう」
セラフィナは鋭い視線を向けるが、アレクシスは飄々としたままだった。
「冗談でもないがな。お前ほど頼れる女は、なかなかいない」
「私は騎士です」
「そうだったな」
アレクシスはどこか楽しげに微笑み、軽く肩をすくめた。
そのとき、部屋の扉が静かに開いた。
現れたのは、黒衣に身を包んだ数人の男たち。彼らは王族直属の処理部隊――暗殺や諜報、後始末を専門とする精鋭たちだ。
先頭の男が無言で一礼すると、部隊の者たちは即座に作業を開始する。遺体の回収、床に散った血痕の処理、痕跡が残らないよう徹底した後始末。彼らの動きには無駄がなく、あっという間に部屋は元の静寂を取り戻していく。
セラフィナはその様子を見守りながら、低く問いかけた。
「……刺客は単独だったようですね」
処理部隊の一人が短く答える。
「確認した限りでは。だが、念のため敷地内の監視を強化します」
セラフィナは軽く頷き、剣を腰の鞘へ収める。
アレクシスは、まるで他人事のように肩をすくめると、静かに言った。
「君たちがそうするなら、私は安心して眠れそうだ」
処理部隊の隊長が改めて王太子へ深く一礼する。
「ご安心ください、殿下。以後の安全は、我々が責任を持って確保いたします」
やがて、遺体も血痕も完全に消え去り、処理部隊の者たちは静かに退出していった。まるで最初から存在しなかったかのように。
セラフィナは扉が閉まるのを見届け、短く息を吐いた。
「……今夜は、もう休まれますか?」
アレクシスは彼女を見つめ、ふっと微笑む。
「そうだな。だが、その前に」
そう言って彼は優雅に立ち上がり、セラフィナの手を軽く取った。
「君も少し、落ち着く時間を取ったほうがいい。これだけ気を張っていては、身体が持たない」
セラフィナはわずかに目を細めたが、すぐに微かに微笑んだ。
「……お気遣い痛み入ります、殿下」
彼女の言葉とは裏腹に、その瞳は警戒を完全には解いていない。今夜の刺客が単なる試みなのか、それとも本格的な暗殺計画の一部なのかは、まだわからないのだから。
アレクシスはそんな彼女の様子を理解しているのか、何も言わずにただ微笑むだけだった。
夜は、まだ深い。
そして、彼らの警戒もまた解かれることはなかった。
翌朝。
夜の喧騒が嘘のように、別荘の周囲は静寂に包まれていた。朝日が窓から差し込み、昨夜の余韻を残したままの室内を照らす。
セラフィナはすでに身支度を整え、剣を腰に収めていた。
アレクシスもまた、優雅に紅茶を口にしながら、どこか穏やかな表情を浮かべている。
「そろそろ戻るか」
そう言って彼は立ち上がり、窓の外を見た。王宮へと続く馬車がすでに用意されている。護衛たちも配置を確認し、いつでも出発できる状態だった。
セラフィナは短く頷き、扉へと向かう。
「王都に戻れば、また忙しくなりますね」
「そうだな。君の出番も、まだまだ続くだろう」
アレクシスは軽く微笑み、彼女の横を並んで歩く。
セラフィナはちらりと彼を見た。昨夜、命を狙われたというのに、彼はまるで何事もなかったかのような落ち着きを見せている。
(……この余裕こそが、王族としての資質なのかもしれない)
そんなことを思いながらも、彼女自身もまた、昨夜の出来事を引きずることなく淡々と職務をこなすつもりでいた。
アレクシスの護衛として、そして騎士として――。
二人は変わらぬ足取りで、王都へと帰還していった。
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