姫騎士様は恋を知らない

Sora

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16.マッサージ

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 ルークの部屋に入ると、セラフィナは肩を回しながら軽く息をついた。長時間の緊張から解放されたとはいえ、まだ体のこわばりは残っている。  

 「そこに座れよ」  

 ルークは自分のベッドをぽんぽんと叩く。セラフィナは少しだけ警戒しつつも、その言葉に逆らう理由もないと判断し、腰を下ろした。  

 「んじゃ、始めるか」  

 ルークはセラフィナの後ろに回り、そっと肩に手を置いた。彼の指がゆっくりと圧をかけると、セラフィナは思わず目を細める。  

 「……意外と、上手いな」  

 「お前が凝りすぎなんだよ。力抜けって」  

 ルークの手はしっかりとした温もりを帯びていて、的確に凝りをほぐしていく。セラフィナの肩幅は女性としては広めだが、それでもルークの手の方が大きく、すっぽりと包み込まれるような感覚があった。  

 「はぁ……気持ちいい。もっと」  

 ぽつりと零れた言葉に、ルークの手がわずかに止まる。だがすぐに再開し、より丁寧に指を動かした。  

 「素直でよろしい」  

 「うるさい」  

 セラフィナは呆れたように返したが、すぐにまた小さく息をつく。ルークの手は肩から徐々に下へと降りていき、背中の筋肉をほぐし始めた。  

 「ここも結構張ってるな」  

 指の腹でゆっくりと押されるたびに、心地よい痛みが走る。戦いの中で常に使われている背中の筋肉は、無意識のうちに負担が蓄積されていたのだろう。  

 「ふん……」  

 セラフィナは目を閉じ、身を委ねるように肩の力を抜いた。  

 「じゃあ、次は……」  

 ルークはゆっくりとセラフィナの腰に手を移す。しなやかでありながら、鍛えられた体のラインを確かめるように親指を滑らせ、腰の筋を押し込む。  

 「ん……そこ……」  

 思わず洩れた声に、ルークは口角を上げる。  

 「ここもかなり硬いな」  

 「いちいち報告するな」  

 腰を揉みほぐすうちに、ルークの指は自然と下へと移動していく。臀部の筋肉もまた、長時間の戦闘や騎乗で酷使されている部分だった。  

 ルークはそこに親指を沈めるようにして、ゆっくりと圧をかける。  

 「お前、ここも張ってるな。ま、騎士だし当然か」  

 「……」  

 セラフィナは何か言おうとしたが、強めの圧迫に言葉を呑み込んだ。臀部は意識しないと力が入りがちで、ほぐされると妙な感覚が広がる。  

 臀部のマッサージは、表面を撫でるようなものではなく、深層の筋肉にまでしっかりと届くような動きだった。ルークは手のひら全体を使い、円を描くようにほぐしていく。特に外側の筋肉は硬くなっており、そこをほぐすたびにセラフィナの体がわずかに震えた。  

 「……まあ、悪くない」  

 ぼそりと呟くと、ルークは小さく笑った。  

 「よし、ひっくり返れ」  

 「は?」  

 「前側もほぐしてやる」  

 「……必要ない」  

 セラフィナが怪訝そうに睨むが、ルークは意に介さず彼女を軽く押してベッドに仰向けにさせた。  

 「なっ……!」  

 セラフィナが反論する前に、ルークは彼女の頬にかかる髪を払う。仰向けになったセラフィナの表情を見下ろしながら、ゆっくりと顔を近づけた。  

 「……おい」  

 セラフィナが睨みつけると、ルークはにやりと笑いながら囁いた。  

 「まあ、冗談だけどな」  
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