姫騎士様は恋を知らない

Sora

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17.言及

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 「まあ、冗談だけどな」  

 ルークは軽く笑って体を引いたが、セラフィナはその表情の意味を測りかねた。いつも通りの軽口なのか、それとも別の意図があるのか——。  

 彼の手の温もりはまだ体に残っていて、仰向けのまま見上げると、その視線がいつもより鋭く感じられる。  

 「……何か言いたいことでもあるのか?」  

 警戒を隠しきれずに問いかけると、ルークはわざとらしく肩をすくめた。  

 「そうだな……お前、この間の護衛任務で、殿下と“恋人のふり”をして別荘に行ったんだって?」  

 セラフィナは瞬時に理解した。なるほど、それが気になっていたのか。  

 「誰に聞いた?」  

 「まあ、いろんなとこからな。騎士団の中でも噂になってるぜ?」  

 ルークは軽い口調で続けた。  

 「任務なのは分かってるけどさ、どうだったんだよ? 王太子殿下と“恋人ごっこ”ってのは」  

 言い方にどこか棘があるのを感じたが、セラフィナは努めて冷静に答えた。  

 「下らない」  

 淡々とそう言い切る。  

 「任務だ。それ以上でも以下でもない」  

 ルークは目を細める。  

 「ふーん?」  

 どこか探るような声音だったが、セラフィナは意に介さなかった。  

 「お前も殿下の性格は知っているだろう」  

 そう付け加えると、ルークは小さく笑った。  

 「ああ、そりゃな」  

 「なら、くだらない詮索はやめろ」  

 「別に詮索してるわけじゃねぇさ。ただ……」  

 ルークは言葉を切り、少し間を置いてから続けた。  

 「お前のことくらい、知っておきたいだけだよ」  

 その言葉に、セラフィナはわずかに眉をひそめた。  

 「お前が何を考えてるのか、時々分からなくなる」  

 「それはこっちの台詞だ」  

 ルークは苦笑しながら、セラフィナの髪を軽く指先でつついた。  

 「ま、これ以上聞いても無駄か」  

 ルークは軽く肩をすくめ、口角をわずかに上げる。  

 セラフィナはじっと彼を見つめた。からかっているようにも見えるが、その奥にある何かが引っかかる。  

 「……お前、本当にただの噂話が気になっただけか?」  

 問いかけると、ルークは目を細めた。  

 「さあな。お前がどう思うかは自由だ」  

 まるで、それ以上踏み込む気はないとでも言うような態度だった。  

 セラフィナは一瞬、言葉を探したが、結局何も言わずに視線をそらす。  

 「——なら、好きにしろ」  

 否定するのも面倒だ。  

「それじゃあ」

ルークは再びセラフィナの肩に手を置き、軽くマッサージを続ける。
 「少しリラックスしろよ。お前もたまには休まないと、次の任務に支障が出るだろ」

 その言葉にセラフィナは黙って頷き、目を閉じた。ルークの手のひらが心地よく肩をほぐしていく。

 ルークの手が止まると、セラフィナは深く息をついて立ち上がる。

 「さて、そろそろ戻るか」

 「そうだな」

 ルークは軽く笑いながら、立ち上がるセラフィナを見守った。
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