姫騎士様は恋を知らない

Sora

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30.戦闘のあと②

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 セラフィナは広場の端に設けられた臨時の拘束区域で、記録係からの報告を一通り確認し終えると、深く息をついて背筋を伸ばした。  
 その手には、特徴的な印章の指輪や、刺青の写しを添付した簡易記録が収まっている。

 兵に記録の写しを託し、解読班と照合班へ報告を回すよう指示を出すと、彼女は踵を返し、足早に広場を離れた。

 王宮西翼、その奥まった区画に構えられた近衛騎士団詰所。その中でもさらに隔絶された部屋に、作戦会議用の小規模な作戦室がある。  
 分厚い扉を抜けて室内に入ると、すでに数名の隊長が到着していた。

 部屋の中央には、簡易の地図と配置図を広げた卓が据えられ、アラン・ヴァルドがその前で腕を組んでいる。  
 セラフィナの入室に気づくと、アランは軽く顎を引いて席を示した。

 「戻ったか。記録確認は終わったか?」

 「はい。刺青と印章指輪を持つ者の情報は、すでに解読班に回しました。現時点では身元は不明ですが、資料と照合が進んでいます」

 「よし。今のところ、拘束者全員の武装と衣服に共通点があり、個人識別を意図的に排していると見られる。……組織的な襲撃である可能性は高い」

 他の隊長たちも頷きを交わし、着席する。  
 アランは短く周囲を見渡し、簡潔に本題へと入った。

 「襲撃は短時間で制圧できたが、明らかに周到に準備された形跡がある。文書、装備、動きの統一性……どれを取っても個人の犯行とは考えづらい」

 セラフィナは卓上に視線を落としつつ、静かに言葉を添える。

 「王太子を狙った動機も、未だに見えません。彼の動線は事前に漏れていた可能性があります」

 「その点はすでに内務班に調査を依頼してある。情報の漏洩がどこからだったのか、徹底して洗う。…我々は、外部の侵入経路の確認と、再編後の警備計画を詰める」

 アランは別の紙束を広げ、王宮敷地内の警備配置の図を示す。

 「襲撃のあった時間帯、南側の見回りが数分途切れている。これは本来起きないはずの配置ミスだ。意図的に隊の誘導が行われた可能性がある。内部協力者の有無も含め、調査の必要がある」

 その言葉に、室内の空気がさらに引き締まった。

 セラフィナはしばし黙考した後、淡々と告げた。

 「しばらくは、王太子の外出予定も再検討すべきです。今回の襲撃は未遂に終わったものの、同様の規模で再発する可能性もあります」

 「それも視野に入れて、殿下付きの近衛の配置も強化する。詳細はこの後、詰めていく」

 会議はその後、襲撃者の尋問方針、情報部との連携、報告書の草案作成など、速やかに決定すべき事項に移っていった。  
 各部隊の隊長たちは持ち場ごとの整理と指示の確認を終え、再配置の準備に入る。

 会議は、手際よく要点を整理したうえで区切りを迎えた。  
 各隊長たちが立ち上がり、それぞれの持ち場へと散っていくなか、アランがふと、セラフィナの方へ視線を送った。

 「……ルークの容態、気になってるだろう。見舞いに行ってくればいい」

 命令というより、許可を与えるような口調だった。  
 セラフィナはわずかに瞬きをし、軽く頷く。

 「――ありがとう、ございます」

 言葉の最後が、ほんのわずかに揺れた。  
 本人すら気づかぬほどの小さな乱れだったが、彼女の背中には、張りつめていた何かがふっと緩んだ気配があった。
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