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32.5.廊下にて
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訓練室の扉を出て、セドリックは夜風に目を細めた。
冷えた空気が火照った体を撫でていく。木剣を握っていた手を一度開いてから、また軽く握り直す。
廊下の先に、小さな影が立っていた。
金髪が夜灯に揺れている。私服の上に外套を羽織り、ひんやりした廊下に立っているのはエリシアだった。
「……待ってたのか」
「はい。お疲れさまです、セドリック様」
軽い調子だが、その声にはどこか緊張が混じっている。
セドリックは小さく鼻を鳴らした。
「礼を言うのはお前じゃなくて、あいつの方だろ。……ったく、夜中にあんな化け物の相手させやがって」
不満を漏らしながらも、口調に棘はない。
エリシアは、少しだけ視線を落として、声を落とす。
「……ありがとうございました」
彼女は、あの戦いの夜のことを思い出していた。
ルークが重傷を負ったあの時、自分は別の部隊で任務にあたっており、セラフィナの側にいることができなかった。それが、今でも胸の奥に引っかかっている。
訓練室に向かうセラフィナを見かけ、咄嗟にセドリックを頼ったのも、それがあったからだ。
セドリックなら、昔からセラフィナのことをよく知っている。剣の加減や距離感も心得ているし、何より、言葉にしなくても通じるものがある。そんなふうに思えたから。
「……私じゃ相手にならないから。剣では、特に」
そう言った彼女の声には、悔しさよりも自覚があった。
冷静に、でも確かに認めている響き。
「……まあな。俺でも無理だ。あれは、そういう奴だ」
セドリックは訓練室の方へと一度だけ視線を投げ、軽く眉をひそめた。
「お前なりに心配してるってのは、伝わったんじゃないか」
セドリックは訓練室の方へと一度だけ視線を投げ、軽く眉をひそめた。
打ち合いの余熱はまだ腕に残っている。もちろん、加減なんてしていない。むしろ、あれ以上踏み込んでいたら、自分の方が折れていたかもしれない。
それでも、セラフィナの息はほとんど乱れていなかった。
エリシアは小さく息を吐いて、かすかにうなずく。
「……だったら、いいんですけど」
セドリックは再び歩き出し、エリシアもその隣に並んだ。
冷えた空気が火照った体を撫でていく。木剣を握っていた手を一度開いてから、また軽く握り直す。
廊下の先に、小さな影が立っていた。
金髪が夜灯に揺れている。私服の上に外套を羽織り、ひんやりした廊下に立っているのはエリシアだった。
「……待ってたのか」
「はい。お疲れさまです、セドリック様」
軽い調子だが、その声にはどこか緊張が混じっている。
セドリックは小さく鼻を鳴らした。
「礼を言うのはお前じゃなくて、あいつの方だろ。……ったく、夜中にあんな化け物の相手させやがって」
不満を漏らしながらも、口調に棘はない。
エリシアは、少しだけ視線を落として、声を落とす。
「……ありがとうございました」
彼女は、あの戦いの夜のことを思い出していた。
ルークが重傷を負ったあの時、自分は別の部隊で任務にあたっており、セラフィナの側にいることができなかった。それが、今でも胸の奥に引っかかっている。
訓練室に向かうセラフィナを見かけ、咄嗟にセドリックを頼ったのも、それがあったからだ。
セドリックなら、昔からセラフィナのことをよく知っている。剣の加減や距離感も心得ているし、何より、言葉にしなくても通じるものがある。そんなふうに思えたから。
「……私じゃ相手にならないから。剣では、特に」
そう言った彼女の声には、悔しさよりも自覚があった。
冷静に、でも確かに認めている響き。
「……まあな。俺でも無理だ。あれは、そういう奴だ」
セドリックは訓練室の方へと一度だけ視線を投げ、軽く眉をひそめた。
「お前なりに心配してるってのは、伝わったんじゃないか」
セドリックは訓練室の方へと一度だけ視線を投げ、軽く眉をひそめた。
打ち合いの余熱はまだ腕に残っている。もちろん、加減なんてしていない。むしろ、あれ以上踏み込んでいたら、自分の方が折れていたかもしれない。
それでも、セラフィナの息はほとんど乱れていなかった。
エリシアは小さく息を吐いて、かすかにうなずく。
「……だったら、いいんですけど」
セドリックは再び歩き出し、エリシアもその隣に並んだ。
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