姫騎士様は恋を知らない

Sora

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33.地下に潜む影①

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 戦闘が収束してから数日後、ヴィクトルの執務室には調査班からの詳細な報告書が届けられていた。
 机の上に広げられた紙面に目を落とし、ヴィクトルはゆっくりとその内容を読み進める。報告書には調査班のリーダー、ミハイルの署名がある。

「指輪と刺青に関して、過去の文献から調査を進めました。王政改革で没落した貴族家が数家存在していたことが判明しました。彼らは改革によって地位を失い、領地を没収された後、地下で活動を続けていたようです。」

 ミハイル少佐は淡々と説明を続けるが、その内容は明らかに深刻なものだった。ヴィクトルは眉をひそめながら、報告書に記された詳細を追う。

「その貴族家が地下組織を作り活動しているということか。」

「はい、ヴィクトル様。その可能性が非常に高いです。指輪の模様と刺青に記された古い家紋が一致し、さらに
 暗号化された古文書や取引記録の中にも、同じ家紋を持つ者の名前がいくつも登場しています。」

 ヴィクトルは報告書を閉じ、深く息をついた。視線を少し床に落としながら、言葉を慎重に選ぶ。

「王太子を狙うだけの組織ではないだろう。この規模は思ったよりも大きそうだ。」

 ミハイルは一瞬ためらいながらも、頷いた。

「その通りです。調査によれば、この地下組織の狙いは王太子の排除と自らの影響下に置く新たな後継者の擁立です。財力と人脈を地下で蓄え、今や表の貴族社会の目にはその存在を完全に隠し通しています。」

 ヴィクトルはしばらく黙考し、やがて決然とした声で告げた。

「この情報は、王太子近衛隊にも即座に伝えよう。彼らと連携し、守備の体制を強化しなければならない。」


 報告書を受け取った翌日、ヴィクトルは急ぎセラフィナやアランを含む主要メンバーを招集し、会議を開いた。
 部屋の中心に設置された大きなテーブルの上には調査報告書が広げられている。ヴィクトルが書面を指さしながら、会話を切り出した。

「調査班から新たな情報が届いた。王政改革によって没落した貴族の一部が、地下で組織を形成していることが判明した。彼らの目的は王太子の排除と、後継者の擁立だ」

 セラフィナが少し前のめりになり、視線を鋭くする。

「つまり、王族そのものを標的にしているということですね」

「その通りだ。」ヴィクトルは頷き、説明を続ける。

「さらに、彼らは地下で財力と人脈を蓄え、規模は予想以上に大きい。表向きの貴族社会には完全に隠れている」


 アランは重々しく頷き、「これが事実なら、王太子を守るために即座に対応する必要があるな。」と一言添えた。

 ヴィクトルは部屋を見回し、再び話し始めた。

「私たちの目標は、組織の中心を探り出し、彼らがどのように活動しているかを突き止めることだ。表の貴族社会に潜む影響力を断ち切るためにも、具体的な行動計画が必要になる」


 セラフィナは少し考えてから、深く息を吸い、「地下で活動している以上、表に出ることは少ないはずです。まず彼らの動向を掴み、その根源を断つことが重要です。」と冷静に言った。

 ヴィクトルはセラフィナの発言に目を向け、即座に賛同した。

「お前の隊を中心に、隠れた潜伏場所や関係者を特定してもらおう。」

 ヴィクトルは机の上の報告書を閉じると、執務室の外に控えていた使者を呼び寄せた。 

「この書状を、至急近衛隊の指揮官へ届けろ。騎士団の調査報告と、警戒体制強化の要請だ。返答はすぐに私の元へ」

 使者は深く一礼し、すぐさま部屋を出ていった。

 その時、ヴィクトルは机の引き出しから封蝋と文書用紙を取り出し、素早く要点をまとめた書状を書き上げた。

「この内容を、至急王太子近衛隊の指揮官へ届けさせてくれ。騎士団の調査班が突き止めた新たな情報だ。防衛計画の見直しを求めること、そして今後の連携についても明記してある」

 彼は封を施すと、執務室の外に控えていた使者を呼び寄せ、書状を手渡した。

「返答があればすぐに持ち帰らせるように。時間を無駄にするな」

 使者は短く「はっ」と答え、書状を懐にしまうとすぐさま部屋を後にした。

 ヴィクトルはその背中を一瞥し、再びセラフィナへと視線を戻す。

「君たちの調査結果を直接彼らに伝えることも重要だ。状況を正確に共有し、守備体制を整えていこう」

 セラフィナは即答する。

「了解しました。近衛隊にも調査内容を伝え、連携を図ります」
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