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「お帰りなさい」
「お帰りなさいー!」
「ああ、ただいま」
クリスマスが近づいてきた頃、ヴィンフリートが帰国した。勢いよく駆け寄った息子を、彼は軽々と抱き上げる。
エーミルは堰を切ったように、胸に溜めてきたおしゃべりを放出する。ヴィンフリートはただ静かに聞いている。一緒に過ごす時間は数えるほどなのに、それでもエーミルは父親が大好きだ。
王都にいる間も、彼には仕事がある。宮中へ出向いて任地での成果を報告したり、机仕事を済ませたり。家にいる時間は短いが、その大部分は息子との時間に充ててくれる。そんな彼が少しでも休めるようにと、私はなるべく距離を置いてきた。
エーミルの気が済む頃合いを待って――実際のところ際限はないのだけど、適当なタイミングで――私は夫と事務的な会話を交わした。帰国中のスケジュールを確認したり、不在時に届いた彼宛の郵便物を手渡したり。その後、家族で食卓を囲んで、夜、夫婦は各々の寝室へ向かった。
そうしたいつも通りの流れを進めながら、私の胸の奥はひそかにざわめいていた。今日は帰ったばかりで疲れているでしょうし、切り出すなら明日かしら。エーミルのため、勇気を出さないと……と。
そして、決意の夜がやってきた。
翌日の晩、子供部屋のエーミルがぐっすり寝入ったのを見届け、私自身の寝支度も完璧に整えたあと。就寝用の絹ワンピースにガウンを羽織った出で立ちで、私は夫の寝室へと向かった。
難しい案件を抱え、宮廷役人のもとへ相談にでも行くような心持ちだった。議題はもちろん「クリスマスの贈り物」。相談というよりはむしろ、直談判、だ。
「……どうかしたか?」
屋敷の主人のものとは思えないくらい、殺風景な部屋。入ると正面に仕事机があり、本当に役所に来たかの錯覚を起こす。机の上はきれいに整頓され、そこに置かれた橙色の読書灯だけが、暗い室内を柔らかく照らしていた。
彼の服装は、スーツの下に着るような白いシャツに、濃いグレーのズボン。寝る前にしてはきちんとし過ぎている。
「ごめんなさい、まだお仕事中?」
「いや、本を読んでいただけだ」
「そう。……あの、少しお話があって」
部屋に入って扉を閉める。ティーテーブルなんてものはないので、その場に立ったまま。彼も仕事机を背にして立ち、無言でじっとこちらを見つめていた。
冬の夜は静かだ。机で揺れるオイルランプの芯が燃える音さえ、聞こえる気がしてくる。いや、違う。さっきから耳元でとっとっ、と小さく響いているのは、私の心臓の音。
「――子供が欲しいの」
こういうとき、迷っては駄目。必要なことを、簡潔に。目的は、最愛のエーミルの願いを叶えること。まとめてきた信条に従って、私は意見の陳述に集中する。
そして何も言わない彼をちらりと確かめてから、続きを一気に吐き出した。
「エーミルに、弟か妹をつくってあげたいんです。あなたは気が乗らないかもしれないけれど、協力してほしいの。その……他の女性に比べて、私に魅力が足りないのはわかっているけど」
「え……っと、ちょっと待ってくれ、他の女性……?」
「咎める気はないわ。私はあなたに十分過ぎるほどのものを貰ってる。不自由ない暮らしに、実家のこともずっと気にかけてもらって。だから、あなたに女性がいようと私は構わな……」
「いや、その前になぜ俺に愛人がいる前提なんだ?」
「え、だって……」
私は、昨日彼に渡した一通の封筒を思い浮かべていた。淡い桃色をした、厚めで手触りのよい紙質の封筒。ふんわり優雅な筆跡で、「親愛なるヴィンフリートへ」と、隣国の言葉で書かれていた。
彼宛の手紙はたいてい仕事に関するもので、通常は任地か王宮にあるデスクに届く。家に届くこと自体がめずらしいうえに、手渡したとき、彼は差出人を見て口元を綻ばせたのだ。
ああ、そうよねと。妙に納得した。
彼が忙しいのは仕方ないとして、年中隣国に行ったきりで。外交任務に必要な結婚というから、妻が同行すべき場もあるかと覚悟していたものの、そういう役は不要だと言い切られた。初夜以来触れ合うことはなく、そして過る――「後悔していた」の言葉。
でも、何も問題はない。元々期待のない、写真さえ見ずに決めた結婚なのだから。
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