冒険者狩りをしている青年の表稼業

雪鵠夕璃

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第一幕:【魔盗団】殲滅作戦編

西守獣騎士団団長の用事

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「えっと…間違いでなければ俺に用事があると聞いたんですが…」

扉を閉めて尋ねる。

「それは間違いではないよ。っとその前に彼女の紹介が先だったね」

イドルは金髪の女騎士にシエンの視線を移動させるように手を動かす。それを確認した後、

「彼女は、西守獣メルドリア騎士団団長ユリセス・アークトゥルフ殿だ。そして君に用のある方だよ」

金髪の女騎士ことユリセス・アークトゥルフを紹介する。見つめられるとついつい姿勢が正しくなる。それ程までに騎士団団長という職業が当てはまる女性だ。シエンは軽く会釈した後に、ユリセスに尋ねる。

「えっと…自分に用というのは?」

「…イドル殿。ちょっと部屋が焦げるかもしれないが許してくれ」

ユリセスがイドルにそう言った瞬間、灼熱の赤い一閃がシエンに振り落ちた。部屋中の温度が火山に居るように感じさせるほどに暑くなり、赤い一閃が触れた空気と床が焦げる。しかし、その一閃がシエンを焼くことは無かった。

『ふぅ。人様の契約者に何してるのかしら?そこの小娘』

何も無い空間に生み出された闇の穴から出てきた影姫シーカの腕が炎なんて気にすることも無く受け止めていたからだ。咄嗟に反応することが可能だったシエンは部屋の損傷を考えた結果、シーカの力で受け止めるのが得策だと考えたのだ。

「ふむ。真実か不確かだったが、【煌姫リーゼ】が感じ取った気配は間違いじゃなかったみたいだな」

ユリセスは1人勝手に納得して、灼熱の赤い一閃を発していた剣を鞘に収めて、シエンに微笑んだ。

「急にすまなかった。ちょっと君の力を確かめたくてね。けど、これで本題に入れる」

「その割に結構マジな感じだったんですけど…」

シーカを帰らせてシエンは、ほっと一息つく。瞬時に反応できたからよかったもの、本当に焼き殺していたらどうするんだ、と呆れる。そんな心情を読み取ったのか、ユリセスは、

「安心してくれ。あの焔は単なる幻さ。力試しだと言うのに殺してしまったら意味が無いだろう」

ははは、と笑って告げる。その言葉に嘘偽りが無いのをしっかりと確認したいと思ったシエンだが、このままでは話が進まず埒が明かないと思い、諦める。

「それで、本題というのは?」

「あぁ、それはだね。君は【魔盗団レルメル】の存在については知ってる感じかな?」

「ええ、まぁ。有名な悪徳冒険者組織ですからね」

ユリセスが発した【魔盗団レルメル】。それは大規模の悪徳冒険者組織の名称だ。約2年前に結成された組織であり、傘下となる悪徳冒険者組織が無数に存在している。その組織の存在が判明したのは一年前。それからというもの各都の騎士団が捜索を行っていたが未だに本拠地が見つからないという話だ。

「その【魔盗団レルメル】の本拠地らしきものが東都クランセマムと南都シュルツセマムを繋ぐ【暗獄の大樹林】にあるという情報を掴んだ」

「【暗獄の大樹林】に【魔盗団レルメル】の本拠地が? 万が一、それが本当だとして、その情報はどこから?」

ユリセスが得た情報は絶対に真実だとは限らない。早とちりしては、【魔盗団レルメル】に裏をかかれる場合がある。信用に値する情報でなければ無駄だ。ただ、わざわざ騎士団が来るとなれば、確かな情報なのだろう、と考えるシエンだが、約2年間も本拠地の存在を隠してきた【魔盗団レルメル】がそんな愚かなミスをするとは思えない。

「あー、それなんだがな…」

頬をかきながら歯切れの悪そうな表情をするユリセス。

「どうしたんですか? 」

「いやー、ここだけの秘密なんだが、【魔盗団レルメル】のメンバーだと名乗る男を捕らえてな。そいつから聞き出した情報なんだ」

ユリセスの告げた言葉にシエンは呆れてしまう。【魔盗団レルメル】の人間がそう易々と仲間を売るとは考えにくいし、どう考えても罠として考える以外にない。騎士団の団長のくせにその男を信じるなんてどうかしている、とシエンはため息をつく。

「ま、まぁ、待ってくれ。確かに私だって怪しいと思ったさ。ただ、【煌姫こうきリーゼ】の加護の力で真実だと確定したんだ。信じられないと思うなら、君と契約してる【影姫シーカ】殿に聞いてみるといい」

信ぴょう性はゼロだが、一応とシエンは何も無い空間からシーカを呼び出そうとするがそれよりも早く、

『残念だけど、彼女の言ってる事は真実よ。【煌姫リーゼあの炎バカ】の眼は【嘘を見抜く】力を宿しているわ。だから、あの眼の前では誰一人嘘をつくことは出来ない』

闇色のドレスをふわりとなびかせて姿を現し、説明する。

「勝手に出てくるなっていつも言ってるだろ、クソ魔女」

『あら、別にいいじゃない。知識不足の坊やに、ご丁寧に教えてあげたんだから』

言ってることは腹ただしいが【影姫シーカ】が言うならば真実なんだろう、とシエンは考えを改める。ただ、この情報がデマだという可能性を頭の片隅に一応残しておくのも大事だ。万が一の最悪展開が起きる事を頭の片隅に置いておくことで、実際に起きた時に判断できる速度は備えてない者よりも速い。

「えーっと、ユリセスさん、疑ってすまない。話を進めてくれ」

「いや、【魔盗団レルメル】から聞き出した情報と【煌姫リーゼ】の加護能力を根拠なく信じるのは無理があるからね。疑われるのは仕方ないさ。そ、そう、けっ、決して疑われて傷ついたりしてないからな!」

若干、疑われて傷ついているように見える。おそらく彼女は何事もない感じを装っているのだろうが、ちょっとだけ涙目になってるし最後の方とか必死感が凄いため、無理がある。

(まぁ、ここで指摘したら話が進まないだろうし、気づかなかったことにしとこう)

シエンは気づかない体を装うことに決める。

「えぇ、分かりました」

「うむ。分かれば良い。では、話を進める」

ユリセスは懐から取り出した丸まった地図を結ぶ紐を解き、テーブルの上に広げて置く。その地図には【暗獄の大樹林】の地点に赤マルがついていた。更に大樹林の上下左右に青マルがついている。

「今回の作戦は【暗獄の大樹林】にある【魔盗団レルメル】の本拠地殲滅だ。この作戦に参加しているのは西守獣メルドリア騎士団とシエン殿。役割は四方を我々が囲む様に陣取り、半分を逃走者の捕縛に、もう半分を本拠地襲撃に向かわせる」

「それで、俺の役割ってのは?」

「シエン殿の役割は至ってシンプル。【魔盗団レルメル】のリーダーの捕縛。それが不可能な場合は残念ながら命を奪っても良い」

ユリセスから任された役割はシエンにとっては適任すぎる内容だ。ただし、捕縛という手は最初から彼の頭にはない。

悪は殺す。

それが誰にも譲れない彼の正義。

「役割は分かったけど、俺の参加に関しては、ユリセスさんとイドルさんだけしか知らないってことでいいのか?」

「あぁ、勿論だ。君が冒険者狩りの英雄【影姫ノ使者カリウス】とバレては、ギルド職員として働きにくくなるからね。だから私の部下達には義理の弟とだけ伝えてある」

「…義理の弟??」

シエンは一瞬、聞き間違いかと疑問を抱く。

「うむ。君は作戦参加中は私の義弟おとうとというていを装ってもらう。なんなら今から『お姉ちゃん』と呼ぶ練習でもしておくか?」

しかし、シエンの聞き間違いではなかったらしい。よりにもよって1番ふざけたかのような言い訳に呆れてしまう。流石の騎士達も嘘だって簡単に見抜けるに決まっている。

「他にもう少しマトモな誤魔化し方はなかったんですか?」

「そんなものはない!」

ユリセスはキッパリと断言した。どうせこの人の性癖とかなんだろうなぁ、とシエンはため息をつく。

「あの…イドルさんも黙ってないでなんとか言ってくださいよ」

ニコニコ笑顔でずっと黙っているイドルに助けを求めるが、

「残念ながら助けたいと思ってるんだが…おもしr・・・ユリセス団長殿が他に方法はないと言ってるようだし、諦めるしかないねぇ」

笑いを堪えるように体を震わせながらわざとらしく肩を落とす。完全に楽しんでいる。イドルの悪い癖がこういう所で出てしまった事で、シエンは完全に逃げ場を失う。

「はぁ…。分かりましたよ、それしかないなら俺は作戦中だけユリセスさんのことを『姉さん』と呼びます」

諦めも時に肝心だと腹を括ったシエンはユリセスの提案を受け入れる。

「…姉さん、か…。 お、お姉ちゃんでも…良いのだぞ?」

「それは遠慮します」

キッパリと馬鹿げた提案をお断りして、シエンはイドルに【ラビル遺跡】で得た失踪事件の真相と【カダ】という男について報告をして、仕事へと戻った。
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