冒険者狩りをしている青年の表稼業

雪鵠夕璃

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第一幕:【魔盗団】殲滅作戦編

妖精と少女

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【暗獄の大樹林】は魔素の濃さからあまり人が寄り付かないと言われている為、下着姿の少女の様に野外で着替えたりする可能性もゼロではない。世界は広いというのだから、こういうハプニングが起こってもおかしくはない。

『…はぁ。あれほどダメって言ったのに』

パタパタと白と黒の翼をはためかせている妖精がシエルを恨めしげに見やる。しかし、その視線を気にもとめず白髪の少女と妖精がこの場にいる理由の方に意識が集中していた。今回の作戦の協力者はシエルだけであり、他にいるという話はない。逆に【魔盗団レルメル】のメンバーという考えが一瞬だけ頭をよぎるが、彼女から感じる魔力は禍々しいものでも普通のものでもない。その魔力は何色にも染ったことがない純粋な程に真っ白で神聖なもの。まるでこの世に五人いると言われている巫女みこの魔力に似ていた。

「あ、あの!」

ジッと見つめられて固まっていた少女が我慢の限界といわんばかりに顔を真っ赤にして声を発する。その声にシエルは考えるのをやめて、一言謝ると共に背を向ける。

「ふ、振り向かないでくださいね」

白髪の少女はそう言って着替えを再開する。しばしの間、衣擦れの音がし続けて、やんだ。

「終わったか?」

「は、はい!」

少女の了承を得てから振り返る。そして少女の格好を見て、余計に何者なのかが分からなくなる。巫女であればもう少し気品溢れるようなものかと思ったが、村娘のようなごく普通な感じのワンピースを身につけていた。

「えーっと君らは誰かな?」

シエルは警戒心を与えないように優しい声音で尋ねる。ただ、返答次第では捕縛するつもりではある。

『悪いけど、ナンパならお断りよ。私達は忙しいんだから、どっかいきなさい』

その質問に答えたのは少女ではなく、妖精。しかも返しが警戒心MAXで冷たい。

(どうやら勘違いされてるっぽいな)

ナンパと勘違いしている妖精の誤解をまず解くことにする。

「いや、悪い。俺は西守獣騎士団の人間でね。だから、魔素が濃い立入禁止区域に侵入した君達の素性について質問しただけだよ」

言い方が少し冷たい感じだったがシエルはそれに気づいていない。出来るだけ穏便に優しく言えたと思っている。その言葉に妖精は暫し考え込んだ後、先程よりも警戒心を高めた、

『西守獣騎士団ですって!? 余計に名乗らないわよ!私達は騎士団や冒険者がいっちばん嫌いなんだから!!』

そう叫んだ妖精は、見た目には似合わない巨大な氷柱を生み出してシエルに放った。魔法陣展開なしの無陣魔法。本来は魔法陣構築の後に魔法の起動が行った方が威力も高く精度もいいのだが、妖精だけは魔法陣構築無しでも威力と精度が変わらない状態で無陣魔法を扱うことが可能である。その為、騎士団や冒険者の中でも悪事に手を染める者たちによる妖精の捕獲や解剖実験等が多発しているという話だ。

(そりゃ騎士団も冒険者も嫌いになる訳だ)

飛んできた氷柱を手のひらに展開させた防御魔法陣で受け止めながら納得する。この時、氷柱を砕いたり熱で溶かしたりしないのにはちゃんとした理由がある。氷属性の魔法は砕け散った時にその破片を再び小さな氷柱へと変換させてくる手練の魔法使いや溶かした氷を水属性の魔法に即変換させる魔法使いもいるため、完全に無効化させることが一番の対処法なのだ。本来、別属性から別属性に変換させる手段は相当に難しい技の為、使用できるものは少ないが、妖精に関してはそれを可能とする。

「警戒するのは仕方ないことだけど、君が抱いてるような騎士団員や冒険者って訳じゃない。てか、俺は臨時で騎士団活動をしてるけど、実はギルド職員なんだ」

シエルは懐からギルド職員の証明となる職員証を妖精と少女に見せる。二人はそれを恐る恐ると受け取り、ジッと確認する。暫くして、妖精と少女は互いに互いの顔を見合わせた後、何かを決めたのか頷く。そして、シエルに職員証を返した後、

『どうやら嘘じゃないみたいね。でもアイリスと違って私はまだ貴方が安全な人間とは思ってないからね!』

「先程はエレロラが失礼な態度をとってすみませんでした!」

妖精エレロラと少女アイリスは各々態度は違うが、多少はシエルの印象を変えた。

「いや、そこはお互い様ってことで。とりあえずここにいる理由はいいから、君達の事だけでも教えてくれるかな?」

「はい。その質問に対して全部は言えませんが、ひとつ言えるのは私達はまだこの森が【聖天の大樹林】だった頃に住んでいた妖精使いの一族です」

アイリスの言葉にシエルは驚く。というのも【暗獄の大樹林】がまだ【聖天の大樹林】と呼ばれていたのは数十年前。確かにその時は妖精使いの一族がいたと言われているが、突然起きた【妖精狩り】によって妖精使いの一族は全滅、【聖天の大樹林】は魔に染まり【暗獄の大樹林】となったと歴史書に刻まれている。もし彼女の言っている事が真実であるのなら歴史が大きく変わる。

「妖精の一族がいたのは知ってるけど、どう見てもあの事件の生き残りって年齢じゃないよな?」

「はい…。【妖精狩り】は私が生まれる前に起きた事で、歴史書には妖精の一族は全滅と記されていて驚きました。まぁ、何とか生き延びた先祖様達は妖精使いだということがバレないように妖精達と契約を破棄して、ひっそりと互いに生きてきましたから」

『全く酷いものだったわ。貴方に分かる?突然、友達や家族、知り合いが冒険者や騎士団に殺し犯され蹂躙される光景がどれだけ辛いことなのか?まそして、沢山の死体と燃える草木、そして黒く濁った魔素に変貌した故郷の姿を見た時の私達の気持ちが?』

アイリスとエレロラは心底つらそうに告げる。その2人にシエルが言えることなんて何も無い。ここで『大変だったね』と言葉をかけても意味が無いのはわかっているからこそ言えない。

「なるほどね。まぁ、それに関して深くは聞かないけど、ここら辺が立入禁止区域なのは知ってるだろ?たとえ君達の故郷だとしても不法侵入といい、野外で着替えていた事に関しても見逃すことは出来ない。だから君達を一度、保護させてもらうよ」

『はぁ!? そんなのお断りに決まってるでしょ!!』

「そ、それだけはダメです!言えませんけど本当にすみません!!」

シエルの言葉にそんな声を上げて、アイリスが魔法陣を展開した。するとその魔法陣を中心に眩い輝きが発せられ、閃光が迸る。まるで眼を焼き尽くすような眩い閃光にシエルは咄嗟に眼を腕で守る。暫くして、閃光が消え去り、視界が回復するが、その時にはエレロラとアイリスの姿は、もうなかった。
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