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第一章:神聖リディシア王国襲撃編
臆病者なりの覚悟
しおりを挟む「・・・ひぃ」
俺はこちらへと向かってくる蒼い光の奔流に怖くなり、尻もちをついた。こんなもの防ぎようがない。
無理。死ぬ。殺される。終わった。
俺の頭の中をそんな不吉ワードが埋め尽くす。しかし、情けないほどにガクブルの俺とは違い、アグラスド・ヴェインは笑っていた。簡単に生物を殺せるだろう恐ろしい魔法に対して。
「こ、こんな時になんで笑ってんだよ!? あ、頭おかしいだろ!!」
俺は恐怖に押しつぶされ立ち上がることも出来ず、必死に地面を這いながら、アグラスド・ヴェインに叫ぶ。しかし、その言葉に反応せず、
『ふむ。期待外れの魔法だな』
自身の右の掌に小さな黒焔を生み出し、蒼い光の奔流に向けて投げた。フワフワとゆっくり向かっていく火の玉。俺はそれを見て、早くここから逃げないとと這うスピードをあげる。
アホだ。あいつは本当に馬鹿だ。あんなくそ小さな火の玉であのビームみたいなもんを相殺できるわけが無い。てか、リンゲルはどこいったんだよ!アクトに飛ばされてからもう数十分は経ってんぞ!? 賢者のくせになんでこんな時にいないんだよ!!
死にたくない。嫌だ。だれか…誰か…
「・・・助けて」
ポツンと零れた誰かへと向けた言葉。その言葉は、蒼い光の奔流と火の玉の衝突音で生み出された爆音と爆風でかき消され、俺は思い切り吹き飛んだ。廊下にある割れた花瓶や壺の破片で全身を傷つけながら転がっていく。
全身が痛い…血が出てる。動く度に破片が食い込む。頭の中を『死』という不吉ワードが巡る。異世界に来て何度目だ?この『死』の不吉ワードが浮かんだのは。もう耐えられない。
「俺が…俺が…何したって言うんだよ…」
血が足りなさ過ぎて意識が朦朧とする。流石に今回は□□□の力【癒償】は使えない。というのもトリガーが起動しないからだ。前回は起動したのに、今回は起動しない。原因はなんだ? どうして起こらない!? なんで!!
流れ出る血を必死に押さえようとするが、出血箇所が多すぎる。その間にも意識が朦朧としていく。本当の本当に俺はここで死ぬのか? 異世界に召喚されて1日目で死ぬ? そんな理不尽があっていいわけない。俺はこんな訳分からない世界で死にたくない。どうせ死ぬなら、家族に看取られて死にたい。
だから、こんな所で死ぬ訳には行かない。俺は元の世界に帰る。その為ならなんでもする。【癒償】がこの傷程度で起動しないなら、自殺を計ればいい。俺は肩に突き刺さる破片をつかみ、思い切り引っこ抜く。その際にとてつもない痛みが走り、意識が飛びかける。
「・・・ぐぅ・・・ぎぃ」
あまりの痛みに漏れるのは嗚咽。鼻水と涙と血で顔面はぐちゃぐちゃだ。俺は惨めな程に情けなく震える右手を押さえるように左手で掴みながら、破片の先端を喉元に添える。あとは一思いに刺すだけ。
「・・・うわぁぁぁあぁ!!」
俺は死の恐怖に震えながら、意を決して突き刺した…そのはずだった。
「あ…え?」
ポタポタと床に落ちる音が響く。閉じていた目を開けるとそこには、俺が握っていた破片を素手で掴むリンゲルがいた。そしてポタポタという音が、破片によって切られた右手から鳴る。
「なんとか間に合ったみたいだね、アクツ・エイタ君」
リンゲルはその一言と共に笑いかけた。
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