転生した俺、弱虫勇者の保護者(えいゆう)になりました

雪鵠夕璃

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第一章:神聖リディシア王国襲撃編

過去の亡霊

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兵士の亡骸と瑠璃色の結晶が地面に散乱している城外。日は既に暮れて、太陽が沈みかけていた。

俺にとっては異世界に来て初めての一日目が終わろうとしていた。だが、安心安全な一日の終わりになることは無かった。ぬくぬくのお布団でぐっすりなんて当たり前が今の俺にはない。というのも、見知らぬ少女に人違いの名前で呼ばれて抱きつかれ、隻眼の男がその少女を今にも殺さんとしているこの状況のどこに安心安全要素があるだろうか。

「お、おい。離せって!」

細い腕の何処からそんな馬鹿力が出るんだ?ってくらいの強さで抱きつかれる俺は、ローブの少女の頬に手を当て、引き剥がそうとする。しかし悲しいかな。さすが異世界人。ビクともしない。

「数千年もどこに行ってたの!? 急に何も言わずに私の前から消えて・・・肉体と魂を20歳のまま固定する禁術を使って貴方をずっと探してた!やっと貴方を見つけた…。これでみんな報われる」

ローブの少女は涙を流し、さらに強く抱き締めてくる。俺はこういう時、なんて答えればいいのかわからない。数千年前から探し続けてきた、と言われた。それも泣きながら。そんな少女に、俺は何を言えばいい。

お疲れ様、とでも言えばいいのか?

ありがとう、って言えばいいのか?

そんなわけが無い。 そんな言葉でこの少女が救われるなら喜んで俺は言う。でも、だ。それでこの少女が・・・この子の仲間達やユキトという少年が報われるとは思えない。数千年もの彼女の頑張りが無駄なものだったと思わせたくない。

しかし、そんな俺の思いは簡単に砕かれる。弱者な俺が、ない頭を使って考えている時に。

「おい、クソガキ。お前はいつまで過去に生きてんだ? 昔愛したガキの姿を導き手こいつと重ねてんじゃねえ!」

隻眼の男、ファラはローブの少女の首根っこを掴み、無理やり引き剥がす。その際に投げるような動作へと繋げ、木へと叩きつける。

ベキバキっと木が折れ、ローブの少女は受身も取れず地面に倒れる。いきなりのこと過ぎて、呆然とする俺から漏れたのは小さく弱々しい吐息だけ。 咄嗟に、『やめろ』なんて言葉は出てこなかった。

「いいか? お前の数千年の頑張りはな、全部無駄だったんだよ。ユキトなんて少年はとうの昔に死んでる。数千年だぞ?生きてると思うか?」

ファラはローブの少女を睨んで告げる。それに対し、ローブの少女は痛む体を無理矢理起こして、

「彼は・・・ユキトは死んでない!だって・・・彼は言ってた!『僕は死なない。皆を守る導き手だから』って!!そう私達に約束した!だから・・・彼は死なないの!! そうでしょ?ユキト!!」

そう叫んだ。 俺に縋るような目で。

あまりにも悲痛な叫び。俺はその悲痛な叫びに何も答えられない。その縋るような目が怖い。無力で自分可愛さで他人を売るような俺にそんな目を向けないでくれ。

助けなんて俺に求めないでくれ。なんで逃げても逃げても、俺はこんな目に合わないといけないんだ。

「いい加減にしろよ、クソガキ。 ならなんで、こいつはお前を覚えていない!? 仲間なら覚えてるはずだろ!」

ファラはローブの少女の胸ぐらを掴み怒声を上げる。今にも殺すんじゃないかと言うくらいに殺気を漂わせるファラに負けじとローブの少女は言い返す。

「うるさい!そんなことどうでもいい!今、そこに彼がいる!ユキトが!導き手が!そこに!!」

「ちっ、めんどぜぇ。もう、いい。そんなにそのガキに会いてぇってんなら会わせてやる」

その一言と共に、ファラの左腕を青い電気が纏った。アニメや漫画でよく見る不可思議な力。そして、その左腕が何をするためのものが俺は理解した。 

・・・やめ--

咄嗟に声は出ない。

「・・・かふっ」

俺の視界を赤が舞う。ビシャリと地面のキャンパスを赤が彩る。

ドサッ、という音。かすかに漏れる弱々しい息の音。悲痛に歪む顔。 赤に落ちる透明な涙。


その全てが・・・色を失っていく。音が消えていく。そして--頭の中で何かが途切れた。
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