116 / 117
第一章:神聖リディシア王国襲撃編
呪い
しおりを挟む
瑛太がシエラの元に行くと決めた数時間前。 エルケイスの手により別の場所に飛ばされたシエラと【冥姫】は戦いを繰り広げていた。否、一方的な攻撃がシエラを襲っていた。
「エルケイスの思惑に乗せられるのは屈辱だけど、貴女にはここで死んでもらうわ!」
次々と【冥姫】の指先から無数の【毒雷球】が放たれる。それを必死に逃げ惑うことで躱すシエラだが、直撃するのは時間の問題。本来、スタミナ量があまりにも無いシエラは後方支援向きの人間である。だからこそ、こういった1対1は向かない。それでもこうして動けているのは、『勇者候補に選ばれたから』という理由だ。勇者候補に選ばれた彼女は体内に【蒼聖英雄】と呼ばれる力を有する。【英雄芽】を持つ他の三勇者候補とは違う彼女だけが手にする絶対的な英雄の力。
その力の効果は--
『絶対的不利な状況下を覆す圧倒的な英雄力を一時的に得る』
というものだ。
「逃げてばかりじゃ一方的な虐殺になるだけよ!」
【毒雷球】による攻撃を止めることなく、冥姫は叫ぶ。そんな事は嫌という程わかっている、と悔しげに歯を噛みしめる。
「私だって、ただデタラメに逃げてたわけじゃないんだから!!」
シエラは回避行動をやめずに、天に向けて立てた2本指を動かす。自身が回避する際に通ってきた場所に向けて。正しくは円形に回ることで、東西南の方角に密かに構成された魔法陣を起動させる。そして自分のいる位置は北。全ての魔法陣がこれで連結する。
「なんの悪あがきか知らないけど、もう無駄よ!諦めて死になさい!!」
【冥姫】が巨大な【毒雷球】を生み出して、投げつけた。その大きさはこの空間の半分ほどの大きさ。要するに回避は不可能。人の通る隙間は存在しない。だが、問題は無い。元々避ける気は毛頭ない。
「連結極大魔法陣【断絶四鎖】起動!!」
密かに覚えた極大魔法。本来であれば発動は不可能だが、【蒼聖英雄】のお陰で発動を可能とした。【断絶四鎖】は、各四属性を纏いし4本の鎖を対処に巻き付ける事でこの世界から断絶させる危険な魔法。更に並行してもう一つの魔法を起動させる。
「四属魔法--【風と火を連結】」
左右に風と火の魔法陣を出現させ、連結。そして、
「【烈火暴風】!!」
灼熱の炎を纏いし暴風が巨大な【毒雷球】に向かって放たれた。しかし、
「【無淵】」
【冥姫】がそう呟いた瞬間、シエラが生み出した魔法、そして【冥姫】が生み出した魔法の事象までもが無に帰した。白い空間に残されたのは、シエラと【冥姫】、そして上空に展開された【無淵】と呼ばれる黒い球体。
「あれが…魔法を消した?!」
シエラは見たことも聞いたことも無い【無淵】という魔法に驚愕する。それに対し、【冥姫】はクスリと笑うと、
「残念ね。これで魔法は使えない。まぁ、私も使えないけど、なんも出来ない単なる人間の貴女を魔法無しで殺すことなんて赤子の手をひねるようなものよ」
と告げ、シエラへと急接近した。あっという間に目の前に現れた【冥姫】に驚くがそれだけ。体が反応しない。否、間に合わないのだ。ドゴッと音を上げてシエラの身体が【冥姫】の掌底で、くの字に折れ曲がる。
「--うぐっ!?」
数秒のラグ。ドシュッと空中で、くの字に折れ曲がっていたシエラの体が背後へと吹き飛んでいく。そして壁に激突し、盛大に咳き込む。
「まだまだぁあああ!!」
【冥姫】の拳が、蹴りが、次々とシエラの身体を痛めつけていく。マトモに戦闘訓練を受けたことの無いシエラにとっては、反撃のタイミングが掴めず、必死に防御に徹するしかない。しかし、その防御が永遠に続く事はありえない。殴られ続ければ、いずれは肉体がボロボロになる。きっとそんな傷を負ったら生きていられないと素人のシエラでも分かりきっている。だからこそ、反撃に回らなければならない。しかも、魔法無しの肉弾戦で。
「ぐっ…うあああああああああああぁぁぁ!」
シエラは左肩にモロに入った拳の痛みで表情を歪ませながら、叫び声と共に無理やり反撃の拳を【冥姫】の顔に放つ。しかし、距離が足りない。
(…でも!諦めない!!届け!届けええええええええええええ!!)
心の中でそう叫んだ瞬間、今まで無意識に機能していた【蒼聖英雄】が開花した。彼女の想いと覚悟にそれは応じた。胸の奥から湧き上がる不思議で暖かな力。それは徐々にシエラの全身へと伝わっていく。そして--
『【蒼聖英雄】に目覚めし今代の勇者よ。救英の剣の名を紡げ』
頭の中に流れ込む謎の言葉。シエラはそれが何なのか理解できない。しかし、何故か救英の剣の名を知っている。【冥姫】へと伸ばした右手の拳を開き、その剣の名を紡ぐ。
「来たれ、【戦乙女ノ救剣】!!」
刹那、眩い光の粒子が開かれた右手の平に集束されていく。そして、その光の粒子は刀身へと姿を変えた。
「なっ!? 【蒼聖英雄】に目覚め…あばっ」
そして、届かなかった距離を補うようにその刀身が【冥姫】の顔を貫いた。ブシュッーと噴水のように血が噴き出され、至近距離でマトモに顔面や体に血を浴びた瞬間、
どくんどくん…どくんどくんどくん
っと、鼓動が早まっていく。それに伴い、胸が締め付けられるように痛くなり、思考が黒く塗りつぶされていく。やがて、シエラの中に残ったのは--
『全てを殺す』
ただの殺人衝動だけだった。
「エルケイスの思惑に乗せられるのは屈辱だけど、貴女にはここで死んでもらうわ!」
次々と【冥姫】の指先から無数の【毒雷球】が放たれる。それを必死に逃げ惑うことで躱すシエラだが、直撃するのは時間の問題。本来、スタミナ量があまりにも無いシエラは後方支援向きの人間である。だからこそ、こういった1対1は向かない。それでもこうして動けているのは、『勇者候補に選ばれたから』という理由だ。勇者候補に選ばれた彼女は体内に【蒼聖英雄】と呼ばれる力を有する。【英雄芽】を持つ他の三勇者候補とは違う彼女だけが手にする絶対的な英雄の力。
その力の効果は--
『絶対的不利な状況下を覆す圧倒的な英雄力を一時的に得る』
というものだ。
「逃げてばかりじゃ一方的な虐殺になるだけよ!」
【毒雷球】による攻撃を止めることなく、冥姫は叫ぶ。そんな事は嫌という程わかっている、と悔しげに歯を噛みしめる。
「私だって、ただデタラメに逃げてたわけじゃないんだから!!」
シエラは回避行動をやめずに、天に向けて立てた2本指を動かす。自身が回避する際に通ってきた場所に向けて。正しくは円形に回ることで、東西南の方角に密かに構成された魔法陣を起動させる。そして自分のいる位置は北。全ての魔法陣がこれで連結する。
「なんの悪あがきか知らないけど、もう無駄よ!諦めて死になさい!!」
【冥姫】が巨大な【毒雷球】を生み出して、投げつけた。その大きさはこの空間の半分ほどの大きさ。要するに回避は不可能。人の通る隙間は存在しない。だが、問題は無い。元々避ける気は毛頭ない。
「連結極大魔法陣【断絶四鎖】起動!!」
密かに覚えた極大魔法。本来であれば発動は不可能だが、【蒼聖英雄】のお陰で発動を可能とした。【断絶四鎖】は、各四属性を纏いし4本の鎖を対処に巻き付ける事でこの世界から断絶させる危険な魔法。更に並行してもう一つの魔法を起動させる。
「四属魔法--【風と火を連結】」
左右に風と火の魔法陣を出現させ、連結。そして、
「【烈火暴風】!!」
灼熱の炎を纏いし暴風が巨大な【毒雷球】に向かって放たれた。しかし、
「【無淵】」
【冥姫】がそう呟いた瞬間、シエラが生み出した魔法、そして【冥姫】が生み出した魔法の事象までもが無に帰した。白い空間に残されたのは、シエラと【冥姫】、そして上空に展開された【無淵】と呼ばれる黒い球体。
「あれが…魔法を消した?!」
シエラは見たことも聞いたことも無い【無淵】という魔法に驚愕する。それに対し、【冥姫】はクスリと笑うと、
「残念ね。これで魔法は使えない。まぁ、私も使えないけど、なんも出来ない単なる人間の貴女を魔法無しで殺すことなんて赤子の手をひねるようなものよ」
と告げ、シエラへと急接近した。あっという間に目の前に現れた【冥姫】に驚くがそれだけ。体が反応しない。否、間に合わないのだ。ドゴッと音を上げてシエラの身体が【冥姫】の掌底で、くの字に折れ曲がる。
「--うぐっ!?」
数秒のラグ。ドシュッと空中で、くの字に折れ曲がっていたシエラの体が背後へと吹き飛んでいく。そして壁に激突し、盛大に咳き込む。
「まだまだぁあああ!!」
【冥姫】の拳が、蹴りが、次々とシエラの身体を痛めつけていく。マトモに戦闘訓練を受けたことの無いシエラにとっては、反撃のタイミングが掴めず、必死に防御に徹するしかない。しかし、その防御が永遠に続く事はありえない。殴られ続ければ、いずれは肉体がボロボロになる。きっとそんな傷を負ったら生きていられないと素人のシエラでも分かりきっている。だからこそ、反撃に回らなければならない。しかも、魔法無しの肉弾戦で。
「ぐっ…うあああああああああああぁぁぁ!」
シエラは左肩にモロに入った拳の痛みで表情を歪ませながら、叫び声と共に無理やり反撃の拳を【冥姫】の顔に放つ。しかし、距離が足りない。
(…でも!諦めない!!届け!届けええええええええええええ!!)
心の中でそう叫んだ瞬間、今まで無意識に機能していた【蒼聖英雄】が開花した。彼女の想いと覚悟にそれは応じた。胸の奥から湧き上がる不思議で暖かな力。それは徐々にシエラの全身へと伝わっていく。そして--
『【蒼聖英雄】に目覚めし今代の勇者よ。救英の剣の名を紡げ』
頭の中に流れ込む謎の言葉。シエラはそれが何なのか理解できない。しかし、何故か救英の剣の名を知っている。【冥姫】へと伸ばした右手の拳を開き、その剣の名を紡ぐ。
「来たれ、【戦乙女ノ救剣】!!」
刹那、眩い光の粒子が開かれた右手の平に集束されていく。そして、その光の粒子は刀身へと姿を変えた。
「なっ!? 【蒼聖英雄】に目覚め…あばっ」
そして、届かなかった距離を補うようにその刀身が【冥姫】の顔を貫いた。ブシュッーと噴水のように血が噴き出され、至近距離でマトモに顔面や体に血を浴びた瞬間、
どくんどくん…どくんどくんどくん
っと、鼓動が早まっていく。それに伴い、胸が締め付けられるように痛くなり、思考が黒く塗りつぶされていく。やがて、シエラの中に残ったのは--
『全てを殺す』
ただの殺人衝動だけだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
58
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる