転生した俺、弱虫勇者の保護者(えいゆう)になりました

雪鵠夕璃

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第一章:神聖リディシア王国襲撃編

魔髄血晶

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グチャングチャンと地面を踏みしめる音とは思えない、否、本当に普通の地面ではなく生物の上を踏みしめる音が不快に耳に響く。

「かれこれ数時間は歩いたが、手掛かりなしか」


異国の制服を身につけた【神喰】の騎士は壁に触れないように気をつけながら、ミセレノによって生み出された謎生物の体内を歩きながら呟く。既に壁中にコーティングされた酸がポタポタと天井から床へと滴り落ちていく。どうやら大して猶予時間もないらしい。ただ、幸いなのは、自身の血で生み出した分厚いバリアを展開しておいたことだろう。 これがなければ今頃、彼の全身は酸でドロドロに溶かされていた。

「まぁ、血の使いすぎて軽い貧血状態だけどな」

自嘲気味に【神喰】の騎士は告げる。彼の言う通り、【血器創けっきそう】は自身の血を代償にする諸刃の剣。使えば使うほど、血が体内から無くなっていくのは当たり前のことである。しかし、今はそんなことを言っている場合では無い。

「やっぱ、ルーシャも同行させるべきだったかなぁ」

【神喰】の騎士は、【異界の間】の外で見張るように命じておいた従者を思い浮かべて後悔の言葉を零す。彼女には常日頃から血液の補充を任せていた。しかし、今回は充分に血液を温存していた為、神一人の相手なら問題ないと思っていたが、考えが甘かった。流石は世界神ユノグリアから神力を色濃く受け取っている聖神マリス堕神ロストとは別格だ。

「っと、こなへんか。鴉達がやられたのは」

微かな残滓に気づいた【神喰】の騎士は周囲を見渡す。しかし、天井も床も壁も酸でコーティングされただけで、他には何も無い。

「一体、どうなっ…!?」

て、と言葉が続く手前、壁から床に向かって無数の熱線が放出された。グジュグジュと肉の焼ける匂いが漂う。ただ残念ながら、この匂いでは空腹感よりも不快感の方が強い。というのも、焼けた謎生物の肉はあまりにも腐っており、オマケに匂いは臭すぎる。これを不快と言わずなんというのか。

「だが、鴉達を殺した原因が分かったのは良かったな」

【神喰】の騎士はバリアに注いでいた血を少しだけ操り、小石サイズの塊へと変化させる。そして、熱線の放たれた方向に放った。 すると、ジュドッ!っと音上げて壁から瞬時に生み出された細長い触手の先端から熱線が吐き出される。これまで通りなら、血の塊は熱線に溶かされる所だが、

「形状変化【大盾】」

寸前で反射性能を備えた大盾に変化させ、熱線を跳ね返そうとするが大盾に触れた瞬間、熱さに耐えきれず溶け崩れる。

「--ちっ。 そう簡単には跳ね返せないか」

物理も効かない、魔法を効かない、そして跳ね返すのも不可能。これは完全なる詰み。目の前の触手を倒す術はないに等しい。

「仕方ない。あの子から貰った力を使うとするかな」

【神喰】の騎士は、ズボンのポケットから飴玉サイズの血色の結晶を取り出し、口に放った。そして、ガリッと結晶を噛み潰す。すると、

「うっ…ぐぅ…」

胸が締め付けられ、呼吸するのが困難となり、全身が痙攣を始める。その際に酸に触れた部位がジュージューと焼け溶ける。しかし、そんな事を気にしてられないほどの痛みが【神喰】の騎士を襲う。しかし、徐々に体の痙攣が収まっていき、呼吸が困難だった症状も消えうせて行く。そして全ての痛みが無くなった瞬間、全てを溶かし尽くす筈の脅威的な酸にコーティングされた謎生物の肌が逆に溶けていく。

「ふぅ。 久々に使ってみたけど、相変わらずなんでもありですね。【魔髄血晶まずいけっしょう】の力は」

徐々に謎生物の肌が溶けていき、景色が映り変わっていく。それに伴い、

『…わたしの術を破った?』

微かに動揺を浮かばせた書神ミセレノの声が耳朶を打つ。

「どうしました?まるで死人を見るような表情ですよ、神様」

謎生物から姿を現しながら、悪戯成功と言いたげな笑顔を浮かべて告げる。

『問います。 何をどうすれば貴方如きの存在が聖神マリスの術を破れる?』

「くくく…ははははは! 残念ながら、教えた所で貴方は死ぬのですから意味などないのでは?」

『何を言っ--!?』

突如、ドパンッとミセレノの鼻面に膝蹴りが炸裂した。余りにも一瞬な出来事だ。人間による物理攻撃は効かないという神の理を信じているミセレノは驚きを隠せない。


(有り得ない。何故!下等な人間如きが私の顔に傷を!?)

吹き飛ぶさなか、ミセレノは状況が呑み込めず困惑し、冷や汗を浮かばせる。普段は冷静で落ち着いた思考力を有していた彼女だったが、絶対的な理を覆された事で、まともに思考力を発揮することができない。その間にも、【神喰】の騎士による猛攻は終わらない。

「【血器形成】、【魔血大刃まけつだいば】」

巨大な血色の両手剣を生み出し、ミセレノを地面へと叩き落とす。

『ぐっ…。 下等な人間如きが…神を叩き落とすとは…』

「どうしましたか? 神よ。まだ戦いは始まったばかりですよ?」

神を地へと落とした罪深き存在【神喰】の騎士はそう嘲るように告げた。
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みんなの感想(1件)

もう書かないって言ったよね?

すみません。第12回ファンタジー大賞の投票用に1300作品ほど一気にお気に入り登録したので、チェック(1〜5話を読んだ作品)が済んだ作品はお気に入りを消しています。
 内容に関係なくチェックした作品は全てお気に入り登録から外しているので、どうか気にしないでください。
 読んでみての感想は数話だけなので分かりませんが、優しい雰囲気がする内容なので、とにかく優しいファンタジーを極めてみるのもいいかもしれません。
 この感想やアドバイスは当てにはならないので、自分の書きたいように書くのが1番だと思います。では、失礼します。

解除

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