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第三章 揺れる、夏の光の中で
夜風にゆれる心
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浴衣の帯が、少しだけきつい気がした。
下駄の音がカランと鳴って、夏の夕暮れに溶けていく。
「待った?」
駅前の広場で待ち合わせたのは、憧子・和真・航太・陽菜の4人。
陽菜は薄紫の浴衣に、髪を高めの位置でまとめていて、どこか華やかだった。
憧子は淡い水色の浴衣。鏡の前で何度も確認したけど、和真が「似合ってるよ」と言ってくれたその一言で、すべてが報われた気がした。
航太は黒の甚平、和真は紺色。どちらも、それぞれらしくて似合っていた。
「じゃあ、行こっか!」
陽菜の明るい声をきっかけに、4人は屋台の並ぶ商店街へと歩き出した。
わたあめ、りんご飴、かき氷、射的。
笑って、ふざけて、写真を撮って。
夏祭りのにぎやかさの中で、4人の時間は軽やかに過ぎていった。
けれど――そのにぎやかさの向こう側で、それぞれの胸には、消しきれない気持ちがあった。
* * *
憧子は、すれ違った金魚すくいの屋台の前でふと立ち止まった。
(去年の夏、私は……航太のことが好きだった)
一緒に歩いた帰り道、花火大会、胸が苦しくなるくらい好きだった。
でも言えなかった。
陽菜が、航太の隣にいたから。
でも今は、和真が隣にいる。
優しくて、まっすぐで、一緒にいると安心できる人。
(それでも……時々、ふと揺れる。なぜだろう)
* * *
「陽菜、それ食べすぎじゃない?」
「いいのっ、夏祭りだもん」
笑いながら串焼きを頬張る陽菜の横で、航太はなんとなく視線を憧子に向けていた。
和真と並んで歩く姿。
その手がふと触れたときの、あの表情。
(憧子、ほんとにあいつと付き合ってるんだな)
わかってる。わかってるけど――
去年の自分が、どれだけずるかったかを、思い出していた。
陽菜と付き合いながら、心のどこかであこを思っていた。
きっと陽菜は、それに気づいていた。
(なのに、俺……)
「……陽菜」
「ん?」
「なんでもない。……花火、始まるな」
* * *
夜空に、花火が咲いた。
「わあ……きれい」
陽菜がうっとりとつぶやく。
その隣で航太が、静かに笑った。
(ほんとはずっと、思ってたんだ。憧子ちゃんと航太くんって、好き同士なんじゃないかって)
でも今は、ちゃんと目を見てくれる。ちゃんと隣にいてくれる。
航太と一緒にいる時間が、何より大事になっている。
なのに、さっきから航太の目線が、遠くを見てる気がしてならなかった。
(……まだ、憧子ちゃんのこと、引きずってるの?)
少しだけ、胸がちくりとした。
* * *
憧子と和真は、花火の合間に視線を交わす。
「……来年も、一緒に来ような」
「うん」
目の前にある幸せに、きちんと向き合いたいと思った。
でも、誰かの笑顔が、ふと記憶の奥にさしかかってくる。
――去年の夏。
それぞれの胸に、あった気持ち。
たしかに過去のもの。
もう、終わったはずの想い。
でも、夜風は優しくて、
時折、静かにその気持ちをくすぐっていく。
「今は、お互い大切な人がいる。
それでいい。――はずなのに。」
そんな声なき声が、夏の夜空に、静かに溶けていった。
下駄の音がカランと鳴って、夏の夕暮れに溶けていく。
「待った?」
駅前の広場で待ち合わせたのは、憧子・和真・航太・陽菜の4人。
陽菜は薄紫の浴衣に、髪を高めの位置でまとめていて、どこか華やかだった。
憧子は淡い水色の浴衣。鏡の前で何度も確認したけど、和真が「似合ってるよ」と言ってくれたその一言で、すべてが報われた気がした。
航太は黒の甚平、和真は紺色。どちらも、それぞれらしくて似合っていた。
「じゃあ、行こっか!」
陽菜の明るい声をきっかけに、4人は屋台の並ぶ商店街へと歩き出した。
わたあめ、りんご飴、かき氷、射的。
笑って、ふざけて、写真を撮って。
夏祭りのにぎやかさの中で、4人の時間は軽やかに過ぎていった。
けれど――そのにぎやかさの向こう側で、それぞれの胸には、消しきれない気持ちがあった。
* * *
憧子は、すれ違った金魚すくいの屋台の前でふと立ち止まった。
(去年の夏、私は……航太のことが好きだった)
一緒に歩いた帰り道、花火大会、胸が苦しくなるくらい好きだった。
でも言えなかった。
陽菜が、航太の隣にいたから。
でも今は、和真が隣にいる。
優しくて、まっすぐで、一緒にいると安心できる人。
(それでも……時々、ふと揺れる。なぜだろう)
* * *
「陽菜、それ食べすぎじゃない?」
「いいのっ、夏祭りだもん」
笑いながら串焼きを頬張る陽菜の横で、航太はなんとなく視線を憧子に向けていた。
和真と並んで歩く姿。
その手がふと触れたときの、あの表情。
(憧子、ほんとにあいつと付き合ってるんだな)
わかってる。わかってるけど――
去年の自分が、どれだけずるかったかを、思い出していた。
陽菜と付き合いながら、心のどこかであこを思っていた。
きっと陽菜は、それに気づいていた。
(なのに、俺……)
「……陽菜」
「ん?」
「なんでもない。……花火、始まるな」
* * *
夜空に、花火が咲いた。
「わあ……きれい」
陽菜がうっとりとつぶやく。
その隣で航太が、静かに笑った。
(ほんとはずっと、思ってたんだ。憧子ちゃんと航太くんって、好き同士なんじゃないかって)
でも今は、ちゃんと目を見てくれる。ちゃんと隣にいてくれる。
航太と一緒にいる時間が、何より大事になっている。
なのに、さっきから航太の目線が、遠くを見てる気がしてならなかった。
(……まだ、憧子ちゃんのこと、引きずってるの?)
少しだけ、胸がちくりとした。
* * *
憧子と和真は、花火の合間に視線を交わす。
「……来年も、一緒に来ような」
「うん」
目の前にある幸せに、きちんと向き合いたいと思った。
でも、誰かの笑顔が、ふと記憶の奥にさしかかってくる。
――去年の夏。
それぞれの胸に、あった気持ち。
たしかに過去のもの。
もう、終わったはずの想い。
でも、夜風は優しくて、
時折、静かにその気持ちをくすぐっていく。
「今は、お互い大切な人がいる。
それでいい。――はずなのに。」
そんな声なき声が、夏の夜空に、静かに溶けていった。
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