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第三章 揺れる、夏の光の中で
素直になれたら
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夏祭りの翌日。
朝の空気は、いつもより少しだけひんやりしていて、蝉の声も、遠慮がちに聞こえた。
憧子はベッドの上で、スマホを見つめていた。
和真から届いた「昨日はありがとう。めちゃくちゃ楽しかった!」というメッセージ。
(うん、ほんとに楽しかった。……でも)
昨日のことを思い出すと、胸の奥に、どうしても残ってしまう何かがあった。
――航太の目。
あのとき、少しだけ寂しそうだったように見えた。
けど、そんなの、気のせいだ。
いま、私は和真と付き合ってる。
ちゃんと好きで、ちゃんと幸せで。
それでも、“ちゃんと”って何度も思うほどに、
どこかで不安を押し込めようとしている自分に気づいてしまう。
* * *
一方、航太もまた、朝からぼんやりと天井を見つめていた。
陽菜からLINEが届いていた。
「昨日、楽しかったね。またどっか行こ!」
絵文字たっぷりの、明るいメッセージ。
陽菜の無邪気な笑顔が目に浮かぶ。
でも、あの夏祭りの夜。
憧子と和真が並んで花火を見ていた姿が、何度も頭から離れなかった。
(もう、過去のことだろ。わかってるのに……)
陽菜と一緒にいると安心する。
少しずつ気持ちが重なってきていた。
なのに、心の奥で、まだ“もしも”を探してしまう自分がいる。
(俺、何してんだよ……)
* * *
その日の午後、陽菜は美術部の部室で、絵を描いていた。
何度も消しては描き直した、淡い花火のスケッチ。
「……なんでだろう、上手く描けない」
呟いたそのとき、部室のドアが開いて、航太が入ってきた。
「あ。来た来た。手伝ってよー」
「なんの?」
「色、混ぜすぎてさ。もうごちゃごちゃ。見て」
航太は少し笑って、陽菜のスケッチ帳をのぞき込んだ。
「でも、いい色だと思うよ。お前の絵って、なんか、あったかいから好き」
その一言に、陽菜の指先がぴくっと震える。
「……ねえ、航太くん」
「ん?」
「まだ憧子ちゃんのこと、好きなんじゃないかなって……自分でも思ってるでしょ?」
「……」
「でもね、それって、別に悪いことじゃないと思うんだ」
「……陽菜」
「だって、好きって気持ちって、そんなに簡単に終わらないもん。でもさ、誰かのことを大切にしたいって思う気持ちも、嘘じゃないでしょ?」
航太は、黙って頷いた。
「だったらさ――無理に決めなくてもいいんじゃない?」
陽菜は笑った。
ちょっとだけ、泣きそうな顔で。
「素直になれたら、きっと、大丈夫だよ」
* * *
夜、憧子はベランダに出て、空を見上げた。
昼間はあんなに暑かったのに、夜風はもう、どこか秋の気配を含んでいる。
スマホの通知が鳴った。
和真からのメッセージだった。
「今度、映画の続き、観に行かない?シリーズの2作目、もうすぐ公開だって!」
思わず、微笑む。
(……そうだよね。今をちゃんと、大切にしなきゃ)
そう思いながらも、憧子の目に浮かんだのは――
去年の夏、あの小さな中庭で交わせなかった言葉。
「素直になれたら」
その言葉が、胸の奥で小さく響いていた。
朝の空気は、いつもより少しだけひんやりしていて、蝉の声も、遠慮がちに聞こえた。
憧子はベッドの上で、スマホを見つめていた。
和真から届いた「昨日はありがとう。めちゃくちゃ楽しかった!」というメッセージ。
(うん、ほんとに楽しかった。……でも)
昨日のことを思い出すと、胸の奥に、どうしても残ってしまう何かがあった。
――航太の目。
あのとき、少しだけ寂しそうだったように見えた。
けど、そんなの、気のせいだ。
いま、私は和真と付き合ってる。
ちゃんと好きで、ちゃんと幸せで。
それでも、“ちゃんと”って何度も思うほどに、
どこかで不安を押し込めようとしている自分に気づいてしまう。
* * *
一方、航太もまた、朝からぼんやりと天井を見つめていた。
陽菜からLINEが届いていた。
「昨日、楽しかったね。またどっか行こ!」
絵文字たっぷりの、明るいメッセージ。
陽菜の無邪気な笑顔が目に浮かぶ。
でも、あの夏祭りの夜。
憧子と和真が並んで花火を見ていた姿が、何度も頭から離れなかった。
(もう、過去のことだろ。わかってるのに……)
陽菜と一緒にいると安心する。
少しずつ気持ちが重なってきていた。
なのに、心の奥で、まだ“もしも”を探してしまう自分がいる。
(俺、何してんだよ……)
* * *
その日の午後、陽菜は美術部の部室で、絵を描いていた。
何度も消しては描き直した、淡い花火のスケッチ。
「……なんでだろう、上手く描けない」
呟いたそのとき、部室のドアが開いて、航太が入ってきた。
「あ。来た来た。手伝ってよー」
「なんの?」
「色、混ぜすぎてさ。もうごちゃごちゃ。見て」
航太は少し笑って、陽菜のスケッチ帳をのぞき込んだ。
「でも、いい色だと思うよ。お前の絵って、なんか、あったかいから好き」
その一言に、陽菜の指先がぴくっと震える。
「……ねえ、航太くん」
「ん?」
「まだ憧子ちゃんのこと、好きなんじゃないかなって……自分でも思ってるでしょ?」
「……」
「でもね、それって、別に悪いことじゃないと思うんだ」
「……陽菜」
「だって、好きって気持ちって、そんなに簡単に終わらないもん。でもさ、誰かのことを大切にしたいって思う気持ちも、嘘じゃないでしょ?」
航太は、黙って頷いた。
「だったらさ――無理に決めなくてもいいんじゃない?」
陽菜は笑った。
ちょっとだけ、泣きそうな顔で。
「素直になれたら、きっと、大丈夫だよ」
* * *
夜、憧子はベランダに出て、空を見上げた。
昼間はあんなに暑かったのに、夜風はもう、どこか秋の気配を含んでいる。
スマホの通知が鳴った。
和真からのメッセージだった。
「今度、映画の続き、観に行かない?シリーズの2作目、もうすぐ公開だって!」
思わず、微笑む。
(……そうだよね。今をちゃんと、大切にしなきゃ)
そう思いながらも、憧子の目に浮かんだのは――
去年の夏、あの小さな中庭で交わせなかった言葉。
「素直になれたら」
その言葉が、胸の奥で小さく響いていた。
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