甘酸っぱい恋の味

第四章 変わってく、君と私

文化祭、それぞれの場所で

秋の風が少しずつ肌に冷たくなってきた頃――
校内では文化祭の準備が大詰めを迎えていた。

クラスの出し物は「お化け屋敷」。
仕切っているのは、文化祭実行委員の陽菜と航太だった。

「こっちは黒い布、もうちょっと高めに吊って！　そこに照明つけると、もっと雰囲気出るよ！」
陽菜が的確に指示を出し、クラスのみんなが動く。

航太は脚立に乗って、陽菜の言葉に素早く反応しながら作業していた。

「了解、陽菜監督。ここで合ってる？」

「ばっちり！さすが、こうたくん！」

二人のやりとりは軽やかで、息がぴったりだった。
その様子を、憧子は少し離れた場所から見ていた。

（よかった……二人、うまくいってるんだ）

そんな憧子の横に、和真がやってきて、照れたように笑う。

「俺らの出番、そろそろだな。あこ、ちゃんと怖がらせような？」

「ふふ、がんばろうね」

お化け役として、憧子と和真は息を合わせて驚かせ役に。
和真の「わっ！」に、憧子の「きゃあ！」が重なり、来場者の悲鳴と笑い声が廊下まで響いていた。

「今のペア、やばくない？リアルすぎ（笑）」
「憧子ちゃんと和真くん、息ぴったりだよね～」

クラスメイトからもそんな声が上がる。

和真が、憧子にそっと言った。

「なんか、今日の憧子……めっちゃ楽しそうで、かわいい」

「え、なに急に……もう、そういうの、びっくりするから」

そう言いながらも、憧子の頬はほんのり赤く染まっていた。

夕方。
無事にクラスの出し物は終了し、拍手と笑顔に包まれた教室。

陽菜と航太も、最後まで責任を持って動ききった。

教室の片隅で、憧子は少しだけ空を見上げた。

（なんか……みんな、少しずつ、変わってる）

変わってく、君と私。
この季節が、その一歩目かもしれない――。