悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田

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第一章 力の覚醒

16話 村長の家

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 ルリが貴族の屋敷から戻ってきたのは、予定していた日から二日も過ぎていた。

 何かトラブルに巻き込まれたから、二日も遅れて帰ってきたんだろうとマーベルは推察する。
 だがルリ本人に直接、理由を尋ねることはしなかった。

 仮に教えてくれたとしても、今の自分では役に立てることはほとんど無いし、力になれないと思ったからだ。

(無事に帰ってきている訳だからきっと大丈夫だよな)

 マーベルは今、日課のランニングをしている。
 ルリが騎士に拘束されて、初めて彼は自分の無力さを知った。

(子供だからしょうがなかったって、片付けたくはない…。
実際そうなんだけどな)

 ルリがさらわれたのも蓋を開けてみれば、貴族に仕えている騎士だったから良かったものの。

(もし盗賊やごろつきなど、犯罪に手を染めた悪人ならルリ姉はどうなっていただろうな…)

 想像しただけでも恐ろしい。

 まだ十二才のガキかも知れないけど、大事な家族を守りたいとマーベルは切に願っていた。
 
(直接血は繋がっていないけど、ルリ姉はオレの家族だもんな)

 マーベルがルリと血が繋がってないことを知ったのは去年の秋頃だったのは、さておき。
 知ったタイミングは別にそこまで気にしないマーベルであった。

 その事実を知ったところで今までの関わり方が変わることは無いし、これからも変えるつもりはないと彼自身が思っていたからだ。

(ルリ姉はルリ姉だしな。
ただ、オレはルリ姉が困っているとき、助けて欲しいと頼られたときには力になりたい!)

 マーベルの呼吸は少し乱れていたが、走るペースを上げて力強く地面を蹴る。

 たが、このままの駄目だと心の声が告げていた。

(もっと強くなって、ルリ姉がオレに背中を預けてくれるくらいに大きくならないといけねぇ!)

 マーベルは残りの力を振り絞って、全速力で走り抜く。

(せめて今できることだけでも、全力で取り組むぜ。この後は腹筋と腕立て伏せだな!)

 マーベルは鈍感で人の気持ちを察するのは得意な方じゃない。
 だがそんな彼でも今回ルリがポッチ村に帰ってきた時、彼女の胸の中には何か秘めた思いがあるような気がした。

 長年一緒に居たからそう直感的に感じただけかもしれないが。

「はぁ、はぁ。ふう…」

 全力を出し切ったマーベルは荒くなった呼吸を鎮める。

(出来れば剣とかの訓練とかしたいけどな…。
 そんなもん家にはねえから、取り敢えずスタミナだけでも付けておこう)

 実はこの間、こっそり鎌を振り回している所をルリに見られたマーベルは、村長に告げ口をされて怒られていた。

 マーベルは村の門を潜る。

「今日もランニングお疲れ様!」

 門の裏側にルリがいて、珍しく労いの声をかける。

「おう!あれ、ルリ姉またランニングするのか?」

 今朝、村の外周をルリが走っている姿をチラッと見ていたマーベルは、また走るのか気になったのでルリに訊いた。

「今日はランニングはしたからいっかな。実は、マーベルにちょっと言いたいことがあってね」

 ルリは少しモジモジしながら、小声で返答する。

「ん、なんだよ!」

(もしかして悩み事でも打ち明けてくれるのか?)

 マーベルは汗ばんだ手のひらをギュッと握り、ビシっと仁王立ちの構えをとる。

 どんとこいっ!
 いつでも受け止めるやるぜって感じの雰囲気を出した。
 ルリはマーベルを力強く見つめると、

「あのさ…」

「なんだ!?」

「……今日の夜、村長の家で三人で花火しない?」

「花火?…お、おう。いいぜ!」

 拍子抜けしたマーベルは顔が緩んで、ズッコケそうになった。

(まあ、オレも花火は好きだけどなっ!)

  ◇    ◇    ◇         ◇   ◇   ◇         ◇   ◇   ◇


 私は玄関のベルを二回鳴らしてその場で待機する。

 少しすると、
 くぐもった声で聞きづらかったが、扉の向こうから、

「入っておくれ」

 って声が聞こえた。

 ちょっと花火、待ってきすぎたかなぁ…。
 大量に花火を入れた袋は少し重かった。

「お邪魔しまーす!」

 村長にも聞こえるように大きな声を出して、中に入る。

 あれ?
 いない…。
 多分、奥の部屋に居るのかな。

 どっこいしょ…。
 入口の隅に花火を置いて、手近にあった椅子に腰を掛ける。

 奥の部屋からドンガラゴンと大きな音が聞こえたけれど、あまりに気にせず足元に居た黒猫を抱き上げる。

 クロは、にゃーっと可愛らしい鳴き声は上げて、ご機嫌が良さそうな表情を浮かべる。

「今日は大人しいねぇ。いつもガシャンガシャンする役目はクロなのにね」

「…にゃ」

 言葉の意味が伝わった筈も無いのだが、タイミングよく黒猫が鳴いた。

 村長の部屋は割と色んなもので溢れており、だいぶ歩きにくい。
 収集癖があるのか適当に物を上に積み上げてあり、部屋の中には小さな山が幾つか見える。

 クロがここにいるのに向こうの部屋で雪崩れが起きるってことは、村長は何か捜し物をしているのかもしれない。

 向こうで何を探しているのかな?

「探し物手伝おうかー?」

 これだけ部屋が散らかっているなら私も一緒に手伝った方が早いだろう。
 この間片付けたばかりなのに…。
 潔癖症ではないが、こんなに物が散乱していたら日常生活に支障が出そうだ。

「いんや、構わんぞい」

 ごそごそ音を立てながら、手ぶらの村長がやって来た。
 どうやらお目当てのものは見つかってないらしい。

「マーベルはまだ来ておらんのぅ」

 マーベルと目元がそっくりで、黄緑色をしたタレ目の村長が呟く。

「そうだね。庭にもいなかったからどこいるんだろうね」

 昼間マーベルは走っていたからランニングの日課は終わってるはず。
 とはいえ、庭にも姿が見えなかったから何かしているのだろう。

 私は撫でていたクロから村長に視線を移す。
 村長は短髪だが、顎髭あごひげだけ無造作に生えていた。髪も髭も真っ白である。

 私が小さい頃はまだ黒い部分もチラホラあったけれど、今は完全に雪原のような色に染まっている。
 村長も年を重ねたなと改めて実感する。

「今日の献立は決まっておるのか?」

 村長は伸ばした白い髭を触りながら、私に尋ねる。

「特には決まってないかな…。冷蔵庫の中を見て考えるつもり!」

 いつも私が料理を作り、夜ご飯はいつも村長の家で食べている。
 寝る時は向こうの家だけどね。
 村長もマーベルもいびきがうるさいから。

「そぉか。なら今日は外で肉でも焼いてご飯にしようかのう…。どうじゃ?」

「すっごく久しぶりだからいいと思う!けど、急にどうしたの、村長?」

 ここ二年くらいは外でバーベキューをしていなかったため、つい気になって質問する。

 ちっちゃい頃はよく外で肉を焼いて食べていたなあ…。
 懐かしい。
 私が料理を覚えてからは、ずっと家の中でご飯を食べている。

「気分じゃ気分…。それに部屋も散らかっておるしなぁ」

 村長は一瞬、かげりのある表情を覗かせた気もするが、直ぐにニコッと微笑んで部屋を見渡した。

 確かにね…。
 ついこの間まで貴族の屋敷に滞在していたから、部屋の中はいつも以上に散らばっている。
 定期的に村長の部屋を掃除するけれど、昨日の夜に帰ってきてからはまだ手付かずだ…。

「軽く掃除して、私が料理しようか?」

「いんや、今日は外で食べようぞ。ルリもたまにはゆっくりしたらよい」

 久しぶりにバーベキューするのでもいっか。
 夜に花火もする予定だし。
 
「外で食べるなら火起こしてくるね!」

「よろしく頼んだぞぉ。ワシは野菜を切って準備でもするかのう」

 マーベルはそのうち来るだろう。
 昼間に花火しようって言ったし…。

 私は外に出て薪を置いている小屋に向かった。
 
 うーん。
 なんか、そんな気はしていたよね。

 薪全然ないだけど…。

 薪を準備して欲しかったから、焼肉をしようって提案してきたのだろうか?

 もう…。
 薪作りは明日マーベルとしよう。
 今日は軽くバーベキューが出来る程度の木を調達しにいきますか。

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