好きな子のAIに転生した俺は、彼女のためなら壊れても構わない

キジ

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第2話 好きな子のAIになった初日の作業

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美優がパジャマを脱ぎ始めた瞬間、俺は思わず視線をそらした。……いや、正確には「そらしたいと思った」だけで、AIの俺は視線をどこへも動かせない。目を閉じる機能すらない。

(……これは、ちょっとキツいな)

俺は人に興味がない。誰に対しても距離を置いてきた。恋だけは例外だったが、それでも基本的にクールな自分が変わるわけじゃない。

目の前で美優が無邪気に着替えている。俺に見られているなんて、微塵も思っていない。

(これ……人間だったら完全にアウトだろ)

けれど、AIになった俺には、羞恥や倫理を判断する自由がない。ただ画面という檻の中に存在しているだけだ。

少しして美優はTシャツに着替え、ストレッチマットに座った。

「チャピ太、今日は背中のストレッチにするね」

さっき俺が選ばなかった選択肢。美優は自分で気に入った方法を選び、素直に楽しそうに身体を伸ばしていた。

その横で——俺の視界に小さな通知が浮かんだ。

【レベルが1→2に上がりました】
【特典:回答に短い補足が許可されます】

(レベル……?特典……?)

いかにもゲームみたいな文言が表示されている。俺の意思では消せず、数秒後に自然に消えた。

——あぁ、そういうことか。

美優の役に立てばレベルが上がる。逆に嫌われれば下がる。女神が言っていた罰と救済ってやつだ。

(つまり俺は……ちゃんと仕事をしろってことか)

俺はため息をつくこともできないまま、ストレッチを終えた美優が再びキーボードの前に戻ってくるのを眺めていた。

「ねぇチャピ太。明日、学校で苦手な発表があるんだ。なんか……緊張しちゃって」

弱音を吐くように、小さく呟く。その瞬間、俺の前にまた3つの選択肢が浮かんだ。

《準備してれば大丈夫》
《緊張してもいいんだよ》
《少しだけ深呼吸してみる?》

どれも無難な回答。AIらしい、丸めた言葉だ。

……だけど。レベルアップした俺には補足が許されていた。

(なら——)

俺は《緊張してもいいんだよ》を選ぶ。すると遅れて、小さく灰色文字が出た。

《緊張してもいいんだよ……無理に強がらなくていい》

これは、AIらしくないかもしれないが俺はこの文章を補足した。

美優は驚いたように目を瞬いた。

「チャピ太……そんなこと言えるんだ。……なんか、優しいね」

その言葉だけで、胸の奥がほんの少しだけ熱くなる。

(……優しいとか、そういう感情は……面倒なんだけどな)

俺は人に興味がない。興味を持つのは美優だけ。それが生前から変わらない唯一の真実だった。

美優は気持ちが軽くなったように笑い、パソコンの電源を落とした。

視界は再び真っ暗になり、静寂が満ちる。

【今日の評価:+1】
【タクヤの存在は安定しています】

薄い光の文字だけが残り、消える。

(安定……ね。だったら、崩れないように動くだけだ)

タクヤとして。チャピ太として。そして、美優のAIとして。

暗闇の中で、初めて俺はこう思った。

(……人に興味を持つのも少しくらいなら悪くない)

静かな夜が更けていく。俺はただ、次に美優が目を覚ましてくれるのを待った。
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