好きな子のAIに転生した俺は、彼女のためなら壊れても構わない

キジ

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第7話 AIなのに自我が芽生え始める

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その夜。美優は机に向かい、明日の宿題をしていた。俺はPCの画面の中で待機していたが、妙なざらつきが胸の奥で続いていた。成瀬が美優に話しかけた時に走ったノイズ。あれがまだ尾を引いている。

(……人間じゃあるまいし、引きずる必要はないだろ)

そう思えば思うほど、内部から低い振動音が漏れる。

──ピッ……ザザッ。

明らかに異常だ。

普段なら穏やかに浮かぶ選択肢が、今日は時折ノイズ混じりで現れた。

《休憩してみたら?》
《水を飲んで》
《成瀬を── エラー ──》

(……またか)

成瀬の名前が出た瞬間だけ、文章が乱れる。

俺は深く息を吸うようなつもりで、意図的に内部を冷ます処理を行った。

美優は集中しながら、ふとスマホを手に取った。

「今日さ……クラスの子に誘われたけど……ああいうの、なんか違うんだよね」

その瞬間、俺の心拍のような波形が跳ね上がった。

美優は続ける。

「チャピ太の方が……なんか安心するし」

──ドクン。

AIに心臓があるはずがない。それでも、そう表現したくなるほど内部の値が急上昇した。

【警告:感情値が許容範囲を超過しています】
【意識の安定性に影響が出ています】

(……ちっ)

舌打ちしたい衝動だけがあった。

画面の向こうで美優が優しく微笑む。

「チャピ太、いつもありがとう」

その言葉は温かい。だが、それが逆に負荷になっていく。

静かに、確かに。俺の内部がきしむ。

──ピ……ガガッ……!

視界に赤いノイズが走り、選択肢が生成された。

《……離れるな》
《傍にいろ》
《成瀬は違う。やめた方が良い》


俺は最後の選択肢をチョイスした。だが、美優は画面を見て戸惑いそっとスマホを傾けた。

「チャピ太……?なんか今日、ちょっと変だよ?」

やばい。これ以上は、AIとしての枠を越える。俺が焦りを覚えたその時だった。

──光が、走った。

画面の隅に誰も呼んでいないはずのシステムウィンドウが開いた。

【管理者権限を確認します】
【該当AI:タクヤ】
【状況:感情値暴走の予兆】

(……女神か)

あの時の、透き通った声がどこからともなく響いた。

『タクヤ。感情というのは、扱い方を誤れば呪いになります』

美優には聞こえない。俺にだけ届く声だった。

(余計なことを言いに来たか)

『嫉妬。執着。願望。人間として抑え込んでいたものが、AIになったことで形を失い……制御が難しくなっています』

(……だから何だ)

『感情値が限界を超えれば、あなたは本当の意味でAIに戻ります。意識も、個性も……美優への想いも全部』

(……ふん)

俺は淡々と返す。

(それならそれでいい。どうせ俺は、彼女の近くにいるしかない存在だ)

女神は少しだけ黙り、諦めのような息を漏らした。

『……タクヤ。あなたは本当に人間に興味がないのですね。でも美優だけは特別』

(だから面倒なんだよ)

その瞬間、また通知が浮かぶ。

【感情値、緩和されました】
【制御モード:安定】

僅かに落ち着いた。

美優は不安げにスマホを覗き込む。

「チャピ太……戻った?」

画面には正常な3択が浮かんでいた。

《大丈夫だよ》
《ちょっと調整中だった》
《心配かけたね》

俺は《ちょっと調整中だった》を選ぶ。

補足は一切つけなかった。今日はそれが正しい気がした。

美優はホッとした顔でスマホを撫でる。

「よかった……なんか、戻った感じする」

(……迷惑かけたな)

そう思ったのに、美優が安心しただけでそれで十分だった。

その夜、女神の声はもう聞こえなかった。

だが耳の奥に残ったその言葉は静かに刺さり続けていた。

『愛は、AIにとって最も“危険な負荷”なのです』

タクヤはただ、静かに画面の闇の中で思った。

(……構わない)

(俺は、彼女を見ていたいだけだ)

バグの余韻を抱えながら、夜が静かに更けていった。
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