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第Ⅰ章

第20話 恋愛ゲームの進展

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あれから、ルクレツィアは突然メルファの腕を掴むと部屋を飛び出して国王の元へと連れて行った。
当然騎士達は行く手を阻もうとしたが、そこは悪役令嬢で磨かれた威圧感で誰にも止めさせなかった。
会議中にいきなり訪れたルクレツィアとメルファを見た国王は驚いていたが、ルクレツィアは周囲の人々の静止も憚らず怒った様にメルファの境遇について訴えた。

彼女は人形ではないと。
彼女は何も分からない訳ではない。
今の境遇はまるで監禁だと。
彼女の意見を尊重すべきだと。
国の規則は何の為にあるのかと。
彼女の人権を守る為にあるのではないかと。

そして最後に、ルクレツィアはメルファから直接自分の気持ちを伝えさせた。
恐る恐るではあったが、メルファは真っ直ぐに国王を見て意見を述べた。
だがその後、彼女達は大臣達に叱責を受けて騎士達に連れて行かれようとしたが、国王はそれを静止させて、声高く宣言した。
「何度話し合っても意味はない。私の権限において、メルファ・フランツェルを学園に復学させる事をここに宣言しよう。責任は全て私が持つ。いいな。」
国王が威厳たっぷりに周囲に睨みをきかせた。
そしてそれに同意したのが、その場にいた宰相やルクレツィアの父親であるモンタール公爵であったため、他の者達も異論を述べる事はなかった。
そうしてルクレツィアの乱によりメルファは無事に学園へと復学出来る事になった。

だが、変わりにルクレツィアはその後、自宅謹慎処分となった。
そのまま父親に叱責されて退場させられ、自宅に連れ帰らされた。
会議中に突然乱入し、国王を大臣達の前で怒ったのだから当然の処分である。
その間誰に会う事も許されず、屋敷からも一歩も出して貰えなかったルクレツィアが、ようやく学園に戻る事が許されたのは2週間後だった。






 ◈·・·・·・·◈·・·・·・·◈






ルクレツィアが学園に久しぶりに出席するとすっかり噂は広まっていて、人々は奇妙な眼差しで遠巻きにしていたが、メルファが嬉しそうに近づいて来て言った。
「おかえりなさい。ルクレツィア。」
久しぶりに見る彼女はすっかり元通りの姿になっていて、ルクレツィアは安心した。
そしてアルシウスも側に来ると、声を掛けてきた。
「本当にルクレツィアは何をしでかすか分からないな……。謹慎処分だけで済んで、むしろ良かったんだからな。」
ルクレツィアは2人に優しく微笑むと言った。
「自分でも驚いているわ。でも後悔なんてしてない。メルファの役に立って嬉しい。そういえば、謹慎中にお手紙ありがとうメルファ。」
メルファは首を横に振って答えた。
「いいえ。こちらこそ。本当に……ありがとう。」
メルファの目に少し涙が滲んでいた。
そしてお互いに笑い合う。
アルシウスは呆れた様に溜め息を吐くと、ルクレツィアの頭を軽く小突いて言った。
「あまり父親に心配掛けるなよ。あと、今日の放課後は生徒会室に来てくれ。話がしたい。」
ルクレツィアはアルシウスを見て頷くと、アルシウスはそのまま背を向けてその場から立ち去っていった。
そしてすぐに先生が教室に入って来たので、ルクレツィア達は着席した。






 ◈·・·・·・·◈·・·・·・·◈






放課後、ルクレツィアは生徒会室の扉の前で立ち止まると、ノックをした。
中から声が聞こえてルクレツィアは扉を開いて生徒会室へと足を踏み入れた。
「失礼致します。」
中に入ると、そこには生徒会長であるアルシウスと役員のクレイの2人がいた。
ルクレツィアはその光景を見て既視感を感じ、しばし放心してしまった。

こ、これが生徒会室。
何度もこの生徒会室はゲームで見ていた。
今、改めてゲームの世界にいる事を認識したわ……。

するとアルシウスが声を掛けてきた。
「よく来てくれた。」
ルクレツィアは淑女の礼をすると言った。
「い、いえ。こちらこそ。」
アルシウスに見詰められて、ルクレツィアは急に顔が赤くなっていくのを感じた。
今日はアルシウスと目が合う事が多くて、ルクレツィアはその度にこの間のキスの事を思い出してしまう。
クレイは特に何も言わないで、ただ黙って様子を見ている。

アルシウスが席に着く様に促すと、ルクレツィアは気を取り直して黙って従った。
既にテーブルにはお茶が用意されている。
そしてルクレツィアと向かい合う様にクレイと共に座るとアルシウスが口を開いた。
「全く……。ルクレツィアが動かなくてもゲームではフランツェル嬢は戻って来たんだろう?なんでわざわざ……」
深い溜め息を吐く。
それに対してルクレツィアも恐縮して言った。
「そ、そうなのよね。でも……彼女、今にも倒れてしまいそうな程に衰弱していたわ。きっとゲームでは体調を崩して渋々復学を認めたんだと思うの。それに……彼女の気持ちを知ったら我慢出来なくなって。」
「確かにな……。まぁ、もう過ぎた事だから話しても仕方ないか。それより攻略対象者についてと、聖女誘拐の件について話し合おう。」
アルシウスが言うと、ルクレツィアも黙って頷いた。
「まずは攻略対象者の件だが、手紙でも報告したが俺がカークとレオナードに星夜祭の日にフランツェル嬢と会ったかどうか確認した所、カークは会った事が確認出来た。だから、攻略対象者の候補としては、今のところ俺とカークなのはハッキリしている。そしてレオナードではないという事は3人目は隠しキャラで間違いないだろうな。」
「そうね……。そして隠しキャラはイアスの可能性がある。」
ルクレツィアが呟く様に言った。
「そうだな。所で……レオナードの事なんだが……」
アルシウスが言い淀みながらルクレツィアを見た。
ルクレツィアは首を傾げながら尋ねた。
「どうかした?」
「レオナードの情報は恋愛ゲームでは何か言っていたか?」
その問いにルクレツィアは少し考えたが、アルシウスの意図に気が付いて口を開いた。
「ああ、影って事?知ってるわよ。」
「やはりそうか……。全く、恋愛ゲームには参ったな。」
アルシウスが頭を掻きながらボヤいた。だがすぐに気を取り直すと言った。
「まぁ、そのレオナードがフランツェル嬢の護衛につく事になったんだ。気配や不意打ちの対応であいつの右に出る者はいないからな。」
「そうね。ゲームでもそうなっていた気がする。クレイが3人に選ばれた場合は、クレイが護衛についてたと思うけど。」
「そうなのか?」
アルシウスが意外な声で尋ね返した。
「ええ。確か。」
ルクレツィアが肯定すると、アルシウスが言った。
「そうだ、これは一応内密だからな。影の存在も本当は国の機密事項なんだぞ。」
「もちろん分かってるわ。誰にも言ったりしないから。そういえば……ちょっと疑問に思ったんだけど、私の身辺調査の時にクレイにしたのはどうして?」
「ああ……それか。それはモンタール公爵直々の指示だったからだ。」
アルシウスの言葉にルクレツィアは驚いた顔をした。
「お父様が?」
「まぁ、レオナードはその時他の件で無理だったのもあるが、元々モンタール公爵は影の存在を認めていないんだ。」
「え、そうだったの?なぜ?」
ルクレツィアにとってそれは初めて耳にする事だった。
「それは……深くは知らない。父親から聞くべきだ。」
そのアルシウスの言葉の詰まり具合に少し引っ掛かったが、深くは追求しなかった。
「そうね。分かったわ。話が逸れてごめんなさい。それで、聖女誘拐の件は何か進展してるの?」
「ああ。それはルクレツィアの情報のお陰で進展している。だが、もう少しという所で捕らえられそうだったんだが逃げられてしまった。」
「そう……。報告書にも書いてるけど、各国の大使を招いて聖女をお披露目する式典の直前に起きるから、あと1ヶ月半くらいの間しか猶予がないわ。各国の王族も来るらしいし、警備が分散される時期を狙ってるんだわ。私なら顔を知ってる。何かお手伝い出来ないかしら。」
その言葉にアルシウスは驚いて言った。
「なぜ顔を知ってる?」
「えっ、それは恋愛ゲームで映像を見てるから……」
「えいぞう……?」
そこでルクレツィアは映像という概念がこの世界にない事を思い出した。
「ええ……と。簡単に言うと、魔法みたいなもので、ゲームをしながらまるでそこに本当に起きているかの様にゲームの物語が目で見れるのよ。頭の中で想像した時も、人や物が動いているのを見ている感じでしょう?それと似ていて実際にこう、この目の前で物語が進行していくの。あ、鏡の様なものと言えば分かりやすいかも。ただ映っているのは現実ではなくて、ゲームの物語が鏡の中で実際に動いている様に見えているのだけれど。」
ルクレツィアが何とか伝えようと身振り手振りをして見せた。
アルシウスは興味深そうにそれを聞いていた。
「お前の前世は別の世界だと言っていたが……。この世界とはかなり違う文化の様だな。」
「ええ。全く違うわ。面白いわよ。魔法はないのに、魔法では出来ない事がその世界ではたくさん出来てる。とても人々は便利に生活しているわ。」
ルクレツィアは思い出しながら面白そうに笑った。
それにアルシウスは感心して言った。
「なるほど……面白い。それはまた別の機会に聞いてみたい。」
「いいわよ。いくらでも。」
ルクレツィアが喜んで答えると、アルシウスから意外な言葉が飛び出した。
「なら今度、2人で遠乗りに行かないか?」
「え……」
「だめか?」
「だめ……ではないけど……」
ルクレツィアがしどろもどろ答えながら、ついクレイに視線を向ける。
クレイはこちらを見ていない。目線は下を向いて、無表情だ。
「なら決まりだな。詳細はまた後で連絡する。」
アルシウスは笑顔でルクレツィアに言った。
「脱線したな。話を戻そう。」
そしてアルシウスは再び聖女誘拐の進展についての報告を始めた。

その後のルクレツィアは、アルシウスのお誘いが頭から離れず上の空になってしまい、全然頭に入ってこなかった。




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