33 / 42
第13-1話 夢はどこまでも自由っ!
しおりを挟む
「い、いけませんクエリ! 家の中に戻りなさい!!」
「クエリちゃんっ、ダメ! ここは危ないから、おうちの中に入ってっ!!」
可愛らしいパジャマの上にふかふかの外套を纏ったクエリちゃんが見えた途端、マドラさんと私は揃ってクエリちゃんに向かって叫んだ。
しかしクエリちゃんは後ろ手で入り口のドアを閉め、月夜の丘の上に歩み出てきてしまった。
ど、どうしたんだろう!?
起きたときに家の外で物音がして、一人でいるのが怖くなっちゃったのかなぁ!?
「フフフフ……やはりそこに居たのか、クエリ。さあ、こっちに来い! 私と共に王城へ帰るのだ!」
クエリちゃんの姿を見た王様は、口元を歪めながら喜びの声を上げた。
そのいびつな笑みは、到底娘を呼ぶ父親には見えない。
私は奥歯を噛み締め俯いた。
お父さんとお母さんが対立しているこんな場面なんて、クエリちゃんに見せたくなかった。
それはマドラさんも同じだったようで、唇を固く結び眉を顰めてしまっている。
凶悪な笑みを浮かべた王様。
うずくまる私とマドラさん。
その周囲には、操られ生気を無くしたゾンビのような騎士さんたち。
幻想的だった美しい花畑は踏み荒らされ、ところどころネムちゃんの炎が立ち上っている。
そんな悲しい風景の広がる夜の丘へと一歩踏み出したクエリちゃんの顔を、私は見た。
きっと怖がってるだろうな。
怯えてるだろうな。
そう、思っていたけれど…………
「ク、クエリちゃん…………?」
私はクエリちゃんを見て、思わず驚きの声をあげた。
自らの足で家から出てきたクエリちゃんの大きな美しい青い瞳は、今もまだ眠そうにとろんとしている。
でもその口元は、まるで怒っているかのように尖ってたんだ。
手袋をはめていない両手で、外套の裾のあたりをぎゅっと握りしめている。
その足取りは、今この場所にいる誰よりもしっかりとしたものだった。
「おとうさま、どうしてここにいるの……?」
クエリちゃんは小さな、でもハッキリとした声で王様に向けて問いかけた。
ノルトアイルの夜空に吹く風に乗ったかのようによく響く。
その声を聞いた私は、人知れずますます混乱していた。
ク、クエリちゃんって、こんなに大人びた印象だったっけ……?
背筋をピンと伸ばして立つその姿に、私は思わず魅入ってしまった。
「拐われてしまったお前を助けに来たんだよ、クエリ。さあ、私と一緒に ────────」
「イヤ。私は、おとうさまとは帰りません。おかあさんと一緒に、ここにいます。おかあさんやおねえちゃんに酷いことしないで。お城に帰ってください」
もしかしたら、クエリちゃんは少し前から起きていて、窓の外を見ていたのかも知れない。
異常でしかないこの光景を見ても、ちっとも動じている様子が無いんだ。
それどころか、私やマドラさんを守るために王様に『お城に帰って』なんて言ってくれてる。
「ク、クエリ…………」
確固たる意志を王様に向けて伝えるクエリちゃんを見て、マドラさんまでもが驚いたような表情をしていた。
小さく可愛らしいクエリちゃんが、こんな顔をしてハッキリと意思を伝えるなんて。
母親として、強い意志を宿した娘を初めて目の当たりにしたのかもね。
明確な拒絶の意思を突き付けられた王様は、口元の笑みを消し、鋭い視線をクエリちゃんに投げかけた。
「それはならぬ。私の治めるこのレアリーダがこれからも未来永劫栄えていくためには……クエリ、お前は私のもとに居なければならんのだ」
「イヤ! わたし帰らない! おかあさんとずっと一緒じゃなきゃイヤっ!」
「……ぬ、ぐっ…………」
懐柔しようという意図が隠し切れていない王様に対し、クエリちゃんは今度は子どもらしい口調で主張してみせる。
年相応に声を上げるクエリちゃんって、何だかすごく新鮮な印象に見えちゃう。
だってお城で初めて見たときは、王様の指示になにひとつ逆らえずにしょんぼりしちゃってる印象だったから。
クエリちゃんに大声で反抗されるなんて思っても見なかったのか、王様も言葉を詰まらせた。
「クエリよ、聞きなさい。お前は母親と一緒にはいられないのだ。何故なら ────────」
「イヤ!! そんな事ないもんっ! わたしがおかあさんと一緒にいて、何がわるいの!?」
「き、聞きなさいクエリ……! これは私が夢の中で聞き得た神の……」
「わたし、知ってるんだよ!? 私が産まれる前……おとうさまとおかあさんは、すごく仲が良かったんだって! お城にいるとき騎士さんたちも、侍従長さんも、わたしに教えてくれたんだからっ!! いつも笑ってて、楽しそうだったって言ってたんだから!!」
王様の主張も、クエリちゃんにはまるで通用しない。
利己的ながらも説得を試みる王様と、感情を直球で伝えるクエリちゃんの対比が激しすぎて、こんな状況だと言うのにちょっと笑っちゃった。
だって王様が口を開くたびに『イヤ!』って言うんだもん!
それがどうにもおかしくって。
ついには、見かねた王様が大声を張り上げた。
「……いい加減にしろ、クエリ! お前の我儘を聞いている時では無い!!」
「ふぇっ…………!」
突然怒声をあげた王様に、びくりと身体を揺らすクエリちゃん。
まったくもう、大人気ないったらありゃしない!
こんな小さな娘に、そんな大声で叱りつけるなんて……!
あ……あーあー、王様が急に大声を出したもんだから、クエリちゃんの目に涙が浮かんできちゃった。
尖らせていた口を、今度はへの字にして涙を堪えている。
王様めぇぇ……クエリちゃんを泣かせたなぁ……!
ほんとに許さないからね……!
「…………っく、ふ、ぐ…………ひっ……」
父親である王様に怒鳴られぽろぽろと涙を零すクエリちゃんを見ても、王様の表情は変わらない。
さも叱りつけて当然とでも言わんばかりの表情を崩さずにいる。
今もじりじりと迫り来る騎士さんたちの中央で、クエリちゃんは声を絞り出すようにして叫んだ。
「わ、わたしはっ……おかあさんと、一緒がいいんだもん。それに……それに、おとうさまも一緒に居てほしいんだもん……!」
「クエリちゃんっ、ダメ! ここは危ないから、おうちの中に入ってっ!!」
可愛らしいパジャマの上にふかふかの外套を纏ったクエリちゃんが見えた途端、マドラさんと私は揃ってクエリちゃんに向かって叫んだ。
しかしクエリちゃんは後ろ手で入り口のドアを閉め、月夜の丘の上に歩み出てきてしまった。
ど、どうしたんだろう!?
起きたときに家の外で物音がして、一人でいるのが怖くなっちゃったのかなぁ!?
「フフフフ……やはりそこに居たのか、クエリ。さあ、こっちに来い! 私と共に王城へ帰るのだ!」
クエリちゃんの姿を見た王様は、口元を歪めながら喜びの声を上げた。
そのいびつな笑みは、到底娘を呼ぶ父親には見えない。
私は奥歯を噛み締め俯いた。
お父さんとお母さんが対立しているこんな場面なんて、クエリちゃんに見せたくなかった。
それはマドラさんも同じだったようで、唇を固く結び眉を顰めてしまっている。
凶悪な笑みを浮かべた王様。
うずくまる私とマドラさん。
その周囲には、操られ生気を無くしたゾンビのような騎士さんたち。
幻想的だった美しい花畑は踏み荒らされ、ところどころネムちゃんの炎が立ち上っている。
そんな悲しい風景の広がる夜の丘へと一歩踏み出したクエリちゃんの顔を、私は見た。
きっと怖がってるだろうな。
怯えてるだろうな。
そう、思っていたけれど…………
「ク、クエリちゃん…………?」
私はクエリちゃんを見て、思わず驚きの声をあげた。
自らの足で家から出てきたクエリちゃんの大きな美しい青い瞳は、今もまだ眠そうにとろんとしている。
でもその口元は、まるで怒っているかのように尖ってたんだ。
手袋をはめていない両手で、外套の裾のあたりをぎゅっと握りしめている。
その足取りは、今この場所にいる誰よりもしっかりとしたものだった。
「おとうさま、どうしてここにいるの……?」
クエリちゃんは小さな、でもハッキリとした声で王様に向けて問いかけた。
ノルトアイルの夜空に吹く風に乗ったかのようによく響く。
その声を聞いた私は、人知れずますます混乱していた。
ク、クエリちゃんって、こんなに大人びた印象だったっけ……?
背筋をピンと伸ばして立つその姿に、私は思わず魅入ってしまった。
「拐われてしまったお前を助けに来たんだよ、クエリ。さあ、私と一緒に ────────」
「イヤ。私は、おとうさまとは帰りません。おかあさんと一緒に、ここにいます。おかあさんやおねえちゃんに酷いことしないで。お城に帰ってください」
もしかしたら、クエリちゃんは少し前から起きていて、窓の外を見ていたのかも知れない。
異常でしかないこの光景を見ても、ちっとも動じている様子が無いんだ。
それどころか、私やマドラさんを守るために王様に『お城に帰って』なんて言ってくれてる。
「ク、クエリ…………」
確固たる意志を王様に向けて伝えるクエリちゃんを見て、マドラさんまでもが驚いたような表情をしていた。
小さく可愛らしいクエリちゃんが、こんな顔をしてハッキリと意思を伝えるなんて。
母親として、強い意志を宿した娘を初めて目の当たりにしたのかもね。
明確な拒絶の意思を突き付けられた王様は、口元の笑みを消し、鋭い視線をクエリちゃんに投げかけた。
「それはならぬ。私の治めるこのレアリーダがこれからも未来永劫栄えていくためには……クエリ、お前は私のもとに居なければならんのだ」
「イヤ! わたし帰らない! おかあさんとずっと一緒じゃなきゃイヤっ!」
「……ぬ、ぐっ…………」
懐柔しようという意図が隠し切れていない王様に対し、クエリちゃんは今度は子どもらしい口調で主張してみせる。
年相応に声を上げるクエリちゃんって、何だかすごく新鮮な印象に見えちゃう。
だってお城で初めて見たときは、王様の指示になにひとつ逆らえずにしょんぼりしちゃってる印象だったから。
クエリちゃんに大声で反抗されるなんて思っても見なかったのか、王様も言葉を詰まらせた。
「クエリよ、聞きなさい。お前は母親と一緒にはいられないのだ。何故なら ────────」
「イヤ!! そんな事ないもんっ! わたしがおかあさんと一緒にいて、何がわるいの!?」
「き、聞きなさいクエリ……! これは私が夢の中で聞き得た神の……」
「わたし、知ってるんだよ!? 私が産まれる前……おとうさまとおかあさんは、すごく仲が良かったんだって! お城にいるとき騎士さんたちも、侍従長さんも、わたしに教えてくれたんだからっ!! いつも笑ってて、楽しそうだったって言ってたんだから!!」
王様の主張も、クエリちゃんにはまるで通用しない。
利己的ながらも説得を試みる王様と、感情を直球で伝えるクエリちゃんの対比が激しすぎて、こんな状況だと言うのにちょっと笑っちゃった。
だって王様が口を開くたびに『イヤ!』って言うんだもん!
それがどうにもおかしくって。
ついには、見かねた王様が大声を張り上げた。
「……いい加減にしろ、クエリ! お前の我儘を聞いている時では無い!!」
「ふぇっ…………!」
突然怒声をあげた王様に、びくりと身体を揺らすクエリちゃん。
まったくもう、大人気ないったらありゃしない!
こんな小さな娘に、そんな大声で叱りつけるなんて……!
あ……あーあー、王様が急に大声を出したもんだから、クエリちゃんの目に涙が浮かんできちゃった。
尖らせていた口を、今度はへの字にして涙を堪えている。
王様めぇぇ……クエリちゃんを泣かせたなぁ……!
ほんとに許さないからね……!
「…………っく、ふ、ぐ…………ひっ……」
父親である王様に怒鳴られぽろぽろと涙を零すクエリちゃんを見ても、王様の表情は変わらない。
さも叱りつけて当然とでも言わんばかりの表情を崩さずにいる。
今もじりじりと迫り来る騎士さんたちの中央で、クエリちゃんは声を絞り出すようにして叫んだ。
「わ、わたしはっ……おかあさんと、一緒がいいんだもん。それに……それに、おとうさまも一緒に居てほしいんだもん……!」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる