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第13-1話 夢はどこまでも自由っ!
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「い、いけませんクエリ! 家の中に戻りなさい!!」
「クエリちゃんっ、ダメ! ここは危ないから、おうちの中に入ってっ!!」
可愛らしいパジャマの上にふかふかの外套を纏ったクエリちゃんが見えた途端、マドラさんと私は揃ってクエリちゃんに向かって叫んだ。
しかしクエリちゃんは後ろ手で入り口のドアを閉め、月夜の丘の上に歩み出てきてしまった。
ど、どうしたんだろう!?
起きたときに家の外で物音がして、一人でいるのが怖くなっちゃったのかなぁ!?
「フフフフ……やはりそこに居たのか、クエリ。さあ、こっちに来い! 私と共に王城へ帰るのだ!」
クエリちゃんの姿を見た王様は、口元を歪めながら喜びの声を上げた。
そのいびつな笑みは、到底娘を呼ぶ父親には見えない。
私は奥歯を噛み締め俯いた。
お父さんとお母さんが対立しているこんな場面なんて、クエリちゃんに見せたくなかった。
それはマドラさんも同じだったようで、唇を固く結び眉を顰めてしまっている。
凶悪な笑みを浮かべた王様。
うずくまる私とマドラさん。
その周囲には、操られ生気を無くしたゾンビのような騎士さんたち。
幻想的だった美しい花畑は踏み荒らされ、ところどころネムちゃんの炎が立ち上っている。
そんな悲しい風景の広がる夜の丘へと一歩踏み出したクエリちゃんの顔を、私は見た。
きっと怖がってるだろうな。
怯えてるだろうな。
そう、思っていたけれど…………
「ク、クエリちゃん…………?」
私はクエリちゃんを見て、思わず驚きの声をあげた。
自らの足で家から出てきたクエリちゃんの大きな美しい青い瞳は、今もまだ眠そうにとろんとしている。
でもその口元は、まるで怒っているかのように尖ってたんだ。
手袋をはめていない両手で、外套の裾のあたりをぎゅっと握りしめている。
その足取りは、今この場所にいる誰よりもしっかりとしたものだった。
「おとうさま、どうしてここにいるの……?」
クエリちゃんは小さな、でもハッキリとした声で王様に向けて問いかけた。
ノルトアイルの夜空に吹く風に乗ったかのようによく響く。
その声を聞いた私は、人知れずますます混乱していた。
ク、クエリちゃんって、こんなに大人びた印象だったっけ……?
背筋をピンと伸ばして立つその姿に、私は思わず魅入ってしまった。
「拐われてしまったお前を助けに来たんだよ、クエリ。さあ、私と一緒に ────────」
「イヤ。私は、おとうさまとは帰りません。おかあさんと一緒に、ここにいます。おかあさんやおねえちゃんに酷いことしないで。お城に帰ってください」
もしかしたら、クエリちゃんは少し前から起きていて、窓の外を見ていたのかも知れない。
異常でしかないこの光景を見ても、ちっとも動じている様子が無いんだ。
それどころか、私やマドラさんを守るために王様に『お城に帰って』なんて言ってくれてる。
「ク、クエリ…………」
確固たる意志を王様に向けて伝えるクエリちゃんを見て、マドラさんまでもが驚いたような表情をしていた。
小さく可愛らしいクエリちゃんが、こんな顔をしてハッキリと意思を伝えるなんて。
母親として、強い意志を宿した娘を初めて目の当たりにしたのかもね。
明確な拒絶の意思を突き付けられた王様は、口元の笑みを消し、鋭い視線をクエリちゃんに投げかけた。
「それはならぬ。私の治めるこのレアリーダがこれからも未来永劫栄えていくためには……クエリ、お前は私のもとに居なければならんのだ」
「イヤ! わたし帰らない! おかあさんとずっと一緒じゃなきゃイヤっ!」
「……ぬ、ぐっ…………」
懐柔しようという意図が隠し切れていない王様に対し、クエリちゃんは今度は子どもらしい口調で主張してみせる。
年相応に声を上げるクエリちゃんって、何だかすごく新鮮な印象に見えちゃう。
だってお城で初めて見たときは、王様の指示になにひとつ逆らえずにしょんぼりしちゃってる印象だったから。
クエリちゃんに大声で反抗されるなんて思っても見なかったのか、王様も言葉を詰まらせた。
「クエリよ、聞きなさい。お前は母親と一緒にはいられないのだ。何故なら ────────」
「イヤ!! そんな事ないもんっ! わたしがおかあさんと一緒にいて、何がわるいの!?」
「き、聞きなさいクエリ……! これは私が夢の中で聞き得た神の……」
「わたし、知ってるんだよ!? 私が産まれる前……おとうさまとおかあさんは、すごく仲が良かったんだって! お城にいるとき騎士さんたちも、侍従長さんも、わたしに教えてくれたんだからっ!! いつも笑ってて、楽しそうだったって言ってたんだから!!」
王様の主張も、クエリちゃんにはまるで通用しない。
利己的ながらも説得を試みる王様と、感情を直球で伝えるクエリちゃんの対比が激しすぎて、こんな状況だと言うのにちょっと笑っちゃった。
だって王様が口を開くたびに『イヤ!』って言うんだもん!
それがどうにもおかしくって。
ついには、見かねた王様が大声を張り上げた。
「……いい加減にしろ、クエリ! お前の我儘を聞いている時では無い!!」
「ふぇっ…………!」
突然怒声をあげた王様に、びくりと身体を揺らすクエリちゃん。
まったくもう、大人気ないったらありゃしない!
こんな小さな娘に、そんな大声で叱りつけるなんて……!
あ……あーあー、王様が急に大声を出したもんだから、クエリちゃんの目に涙が浮かんできちゃった。
尖らせていた口を、今度はへの字にして涙を堪えている。
王様めぇぇ……クエリちゃんを泣かせたなぁ……!
ほんとに許さないからね……!
「…………っく、ふ、ぐ…………ひっ……」
父親である王様に怒鳴られぽろぽろと涙を零すクエリちゃんを見ても、王様の表情は変わらない。
さも叱りつけて当然とでも言わんばかりの表情を崩さずにいる。
今もじりじりと迫り来る騎士さんたちの中央で、クエリちゃんは声を絞り出すようにして叫んだ。
「わ、わたしはっ……おかあさんと、一緒がいいんだもん。それに……それに、おとうさまも一緒に居てほしいんだもん……!」
「クエリちゃんっ、ダメ! ここは危ないから、おうちの中に入ってっ!!」
可愛らしいパジャマの上にふかふかの外套を纏ったクエリちゃんが見えた途端、マドラさんと私は揃ってクエリちゃんに向かって叫んだ。
しかしクエリちゃんは後ろ手で入り口のドアを閉め、月夜の丘の上に歩み出てきてしまった。
ど、どうしたんだろう!?
起きたときに家の外で物音がして、一人でいるのが怖くなっちゃったのかなぁ!?
「フフフフ……やはりそこに居たのか、クエリ。さあ、こっちに来い! 私と共に王城へ帰るのだ!」
クエリちゃんの姿を見た王様は、口元を歪めながら喜びの声を上げた。
そのいびつな笑みは、到底娘を呼ぶ父親には見えない。
私は奥歯を噛み締め俯いた。
お父さんとお母さんが対立しているこんな場面なんて、クエリちゃんに見せたくなかった。
それはマドラさんも同じだったようで、唇を固く結び眉を顰めてしまっている。
凶悪な笑みを浮かべた王様。
うずくまる私とマドラさん。
その周囲には、操られ生気を無くしたゾンビのような騎士さんたち。
幻想的だった美しい花畑は踏み荒らされ、ところどころネムちゃんの炎が立ち上っている。
そんな悲しい風景の広がる夜の丘へと一歩踏み出したクエリちゃんの顔を、私は見た。
きっと怖がってるだろうな。
怯えてるだろうな。
そう、思っていたけれど…………
「ク、クエリちゃん…………?」
私はクエリちゃんを見て、思わず驚きの声をあげた。
自らの足で家から出てきたクエリちゃんの大きな美しい青い瞳は、今もまだ眠そうにとろんとしている。
でもその口元は、まるで怒っているかのように尖ってたんだ。
手袋をはめていない両手で、外套の裾のあたりをぎゅっと握りしめている。
その足取りは、今この場所にいる誰よりもしっかりとしたものだった。
「おとうさま、どうしてここにいるの……?」
クエリちゃんは小さな、でもハッキリとした声で王様に向けて問いかけた。
ノルトアイルの夜空に吹く風に乗ったかのようによく響く。
その声を聞いた私は、人知れずますます混乱していた。
ク、クエリちゃんって、こんなに大人びた印象だったっけ……?
背筋をピンと伸ばして立つその姿に、私は思わず魅入ってしまった。
「拐われてしまったお前を助けに来たんだよ、クエリ。さあ、私と一緒に ────────」
「イヤ。私は、おとうさまとは帰りません。おかあさんと一緒に、ここにいます。おかあさんやおねえちゃんに酷いことしないで。お城に帰ってください」
もしかしたら、クエリちゃんは少し前から起きていて、窓の外を見ていたのかも知れない。
異常でしかないこの光景を見ても、ちっとも動じている様子が無いんだ。
それどころか、私やマドラさんを守るために王様に『お城に帰って』なんて言ってくれてる。
「ク、クエリ…………」
確固たる意志を王様に向けて伝えるクエリちゃんを見て、マドラさんまでもが驚いたような表情をしていた。
小さく可愛らしいクエリちゃんが、こんな顔をしてハッキリと意思を伝えるなんて。
母親として、強い意志を宿した娘を初めて目の当たりにしたのかもね。
明確な拒絶の意思を突き付けられた王様は、口元の笑みを消し、鋭い視線をクエリちゃんに投げかけた。
「それはならぬ。私の治めるこのレアリーダがこれからも未来永劫栄えていくためには……クエリ、お前は私のもとに居なければならんのだ」
「イヤ! わたし帰らない! おかあさんとずっと一緒じゃなきゃイヤっ!」
「……ぬ、ぐっ…………」
懐柔しようという意図が隠し切れていない王様に対し、クエリちゃんは今度は子どもらしい口調で主張してみせる。
年相応に声を上げるクエリちゃんって、何だかすごく新鮮な印象に見えちゃう。
だってお城で初めて見たときは、王様の指示になにひとつ逆らえずにしょんぼりしちゃってる印象だったから。
クエリちゃんに大声で反抗されるなんて思っても見なかったのか、王様も言葉を詰まらせた。
「クエリよ、聞きなさい。お前は母親と一緒にはいられないのだ。何故なら ────────」
「イヤ!! そんな事ないもんっ! わたしがおかあさんと一緒にいて、何がわるいの!?」
「き、聞きなさいクエリ……! これは私が夢の中で聞き得た神の……」
「わたし、知ってるんだよ!? 私が産まれる前……おとうさまとおかあさんは、すごく仲が良かったんだって! お城にいるとき騎士さんたちも、侍従長さんも、わたしに教えてくれたんだからっ!! いつも笑ってて、楽しそうだったって言ってたんだから!!」
王様の主張も、クエリちゃんにはまるで通用しない。
利己的ながらも説得を試みる王様と、感情を直球で伝えるクエリちゃんの対比が激しすぎて、こんな状況だと言うのにちょっと笑っちゃった。
だって王様が口を開くたびに『イヤ!』って言うんだもん!
それがどうにもおかしくって。
ついには、見かねた王様が大声を張り上げた。
「……いい加減にしろ、クエリ! お前の我儘を聞いている時では無い!!」
「ふぇっ…………!」
突然怒声をあげた王様に、びくりと身体を揺らすクエリちゃん。
まったくもう、大人気ないったらありゃしない!
こんな小さな娘に、そんな大声で叱りつけるなんて……!
あ……あーあー、王様が急に大声を出したもんだから、クエリちゃんの目に涙が浮かんできちゃった。
尖らせていた口を、今度はへの字にして涙を堪えている。
王様めぇぇ……クエリちゃんを泣かせたなぁ……!
ほんとに許さないからね……!
「…………っく、ふ、ぐ…………ひっ……」
父親である王様に怒鳴られぽろぽろと涙を零すクエリちゃんを見ても、王様の表情は変わらない。
さも叱りつけて当然とでも言わんばかりの表情を崩さずにいる。
今もじりじりと迫り来る騎士さんたちの中央で、クエリちゃんは声を絞り出すようにして叫んだ。
「わ、わたしはっ……おかあさんと、一緒がいいんだもん。それに……それに、おとうさまも一緒に居てほしいんだもん……!」
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