口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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第一章 支配者

第26話 お迎えし騎士

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 ここ喫茶リーベルはアタシこと藤宮香音のバイト先で、レトロな雰囲気が楽しめる温かみのある喫茶店だ。
 ブラウンを基調とした店内は落ち着きがあり、普段なら常連客が足繁く通っているところだが、井幡の件もあってか今日は珍しく閑古鳥が鳴いていた。

「あれから全然お客さん来なかったね~、香音?」

 話を振ってきたのはバイト先の同僚、芳田よしだエミリ。
 アタシと同い年で別の学校に通ってはいるが、今は同じコックシャツに袖を通す気の合うバイト仲間。赤髪ロングを片耳掛けし、アタシに負けず劣らずのばっちりメイクだが、人当たりの良さがその面持ちから滲み出ている。

「うん……そうだね……」

 そんなエミリにアタシは力なく答え、モップの手を止めては寄りかかるように身体を預ける。

「どったの、さっきから? 元気ないじゃん?」
「アタシにも分かんない……。なーんかモヤモヤしててさぁ……」
「もしかして……知り合い?」

 エミリも空気を読んでか、カウンターを拭いていた手を止める。

「まあ、一応……。でも、仲良かったわけじゃないよ? 寧ろ嫌われてたっていうか……」
「複雑な心境ってわけね……。ま、そういう時はさ……男の肩が一番よ?」
「……は?」

 エミリからの鋭角な提案に、アタシは思わず目をパチクリさせてしまう。

「だから男の肩よ。頭をこうやってコツンと乗せると向こうがギュって! ギュってしてくれるの! それで悩みは立ちどころに解決するわ!」

 エミリは頭を傾けたり、自分の身体を抱きしめるジェスチャーをして見せるが……全くもって意味が分からない。

「なんでそんな話になるのよ……。その前にもっとこう、友人として励ましの言葉とかないわけ?」
「『いいんじゃない? 情を捨てきれないところが香音のいいところなんだからさ?』……って言おうと思ったんだけど被ったらヤでしょ? 愛しの慧くんとさ?」
「はぁ⁉ な、なんでここで慧が出てくるわけ⁉ 意味わかんないんだけど⁉」

 その時、アタシの顔は酷く熱を帯びていた。きっとあらぬ疑いをかけられたことによる怒りの所為だろう。

「だっていつも嬉しそうに話してるじゃな~い? 『今日、慧が助けてくれた~』とか、『慧が部活入るとか言ってて、アタシも入ろうかなぁ~』とか」
「はははぁッ⁉ そんなにいつも話してないし‼ ただの友達だし‼ はぁあぁぁああぁあッ⁉」

 アタシは何故か、ぐるぐる目で声を荒げていた。きっとカルシウムが足りてない所為だろう。

「自覚なしか……。こりゃ重症だね。お薬出しておきまーす」
「お薬って何よ⁉ 人を病気扱いしないで!」

 アタシはエミリが差し出してきた布巾をピシャリと弾いた。

「それは立派な病気よ、香音? 治すには愛しの慧くんに来てもらわないと~」
「だから違うって言ってるでしょ! それに慧はアタシのバイト先なんて知らないし、そんな都合よく来るわけ――」

「藤宮……もうバイト終わりか?」

 ドアベルと共に聞こえてきたのは、馴染みのある機械のように冷たい声音。
 まさかと思い振り返ると、そこには鞄を持って佇む慧の姿がががっ……

「なっ⁉ ななっ……! なんでここに……慧がっ⁉」

 あまりの突然な登場に、アタシの口は上手く回らない。

「たまたま通りかかっただけだ。で、終わったの?」
「あと掃除だけだけど……。え? っていうかバイト先、教えてないよね……?」
「……牧瀬から聞いた(大嘘)」
「あ、そうなんだ……。ふ~ん……」

 また顔が熱い……。目線も合わせられないし、制服だって直し始めてる。もう! これも全部、カルシウムの所為だ!

「ほほう? あれが噂の慧くんね。確かにアレに助けられたら揺らいじゃうかも。磨けば光りそうだしね~?」

 肩を組み、耳元でそう囁いてくるエミリ。
 そんなニヤニヤ顔をアタシは涙目で睨みつける。

「そんな顔しないの。掃除は私がやっておくから、アンタは慧くんと帰りなさい。ね?」

 が、エミリからのまたとない提案に表情が緩んでしまう。

「……いいの?」
「よかてよかて。香音、最近楽しそうだし、ここで送り出してやるのが友の務め。ほら! 行ってきな!」

 背を押されたアタシは慧の前で急停止。途方もなく大きく感じる彼を見上げる。

「もう終わったから……別に待ってにゃくていいから!」
「ん? あぁ……」

 アタシは慧に強がってみせるも、敢え無く甘嚙み。顔を真っ赤にしながら逃げるように更衣室へと駆けていった。



 十分後――

「け、慧っ! お待たせ……!」

 アタシは急ぎ制服に着替え、髪やら何やらを整えていざ出陣! したのだが……

「ごめ~ん、香音! 引き止めたんだけど『ただ見に来ただけだから』って言って帰っちゃった……」

 店内には両手を合わせて謝るエミリの姿しかなかった。

「は……はぁああぁぁああ⁉ も~う……‼ 何なのよアイツはッ‼」

 アタシはあの馬鹿を追う為、整えたあれやこれやを乱れさせながら、鬼の形相でリーベルを飛び出していった。
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