トロンボーン吹きの夏物語

樫和 蓮

文字の大きさ
8 / 17
花咲く物語

リュウの谷で

しおりを挟む
「友だち!」
「友だち友だち!」
さっきまでしゅんとしていたクロシロがまた飛び回り始めた。
「クロもシロもはしゃぎすぎ。」
甲斐田くんが苦笑する。

甲斐田くん、こんな風に笑うんだなあ。
わたしはその横顔をそっと見る。
今年に入ってクラスが一緒になったんだけど、わたしが彼について知ってることがあまりにも少ないことに気づく。
図書委員をしていることと、放送部に入ってることくらいしか知らない。
教室でこんな風に笑うところなんて見たことがない。
もしかしたら、わたしが気にしてなかっただけなのかもしれないけど。

「夏さん、すっかりお願いを忘れてたんだけど。」
リュウが、ぼーっとしていたわたしに話しかける。
「何?」
「龍平とも友だちになってほしいんだけどさ、僕らとも友だちになってほしいんだ。」
少し照れたようにリュウが言う。
わたしの2倍以上もの大きさがある生き物が照れているのは正直かわいい。
そしてここで断る理由は、わたしには何もない。
「もちろん!これから、よろしくね!」
リュウはほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう、夏さん。こちらこそ、よろしくね。」
「夏さんが!」
「リュウと!」
「友だち!!」
「友だち!!」
すかさずクロシロが大騒ぎする。
「僕たちは!?」
「僕たちは友だち!?」
「僕たちも友だち!?!?」
わたしはその勢いに思わず笑ってしまった。
「うん、君たちとも友だち!」
わたしの返事に、クロシロの大騒ぎは止まらない。
「やったやった!」
「僕たちも!」
「夏さんの!」
「お友だち!!」
「みんなみんな!」
「お友だち!!」

竜と豆つぶと中学生。
変な取り合わせだし、変な光景だと思う。
でも、こんなに心があったかくなったのは、久し振りかもしれない。

「土田さん、よくこんなとこ来たね。」
クロシロたちには聞こえないくらいの声で甲斐田くんが言う。
「なんか、気になっちゃって。でも、気まぐれで来てよかった。」
「え?」
意外そうな顔で甲斐田くんがわたしを見る。
「だって、こんなに楽しそうなとこに来れると思ってなかったし。甲斐田くんと喋ることもなかったかもなって思ったら、さ。」
「なんか、ありがとう。」
甲斐田くんとわたしはふふっと笑った。

夏の音が、聞こえる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...