トロンボーン吹きの夏物語

物語の危機

綻び

甲斐田くんとわたしは、それから毎週のように竜の谷で会うようになった。
学校であったこと、部活のこと、家族のこと。リュウに優しく見守られながら、クロとシロと騒ぎながら、たくさん話すようになった。
今までになかった、楽しい休日って感じ。

そんな風に順調に仲良くなっていったわたしたちだったけど、少し、ぎくしゃくすることになった。
原因はわかってる。わたしの部活だ。

わたしが所属している吹奏楽部は、土日のどちらかが休み。ただ、夏のコンクール前になると、土日の両方に練習が入る。しかも練習は午前九時から午後四時。練習が終わるともうくたくた。
竜の谷からは、必然的に足が遠のいた。

甲斐田くんとはクラスで顔を合わせてるけど、学校では喋らないままだから、前よりぎくしゃくしてしまってる。
もしかしたらわたしの気のせいなのかもしれないけど。

竜の谷から足が遠のいて、なんとなく甲斐田くんとも疎遠になって、1ヶ月ほどしただろうか。
もうすぐ夏休み。コンクールに向けた練習は佳境。そんな日のことだった。

「土田さん、ちょっといいかな。」
初めて、教室で甲斐田くんに話しかけられた。
「え、うん、どうしたの？」
久々に甲斐田くんの声を聞いてちょっぴり安心したものの、深刻な表情に心がざわめいた。
人気の少ない廊下に移動して、やっと続きを聞くことができた。

「リュウが、リュウが危ないんだ。土田さん、竜の谷に、来てくれないかな？」