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#11 右肩
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キスケの生家である財前屋はいわゆる幕府の御用商人である。その他商談相手としては素封家や上流貴族といった面々なのでアバルたちのような平民には本来縁遠い存在なのだが、その三男坊顕典ことキスケは好んで六波羅に居を構え、多くの不動産と骨董と人脈を所有している。北辰寺にしてもそうだし、いろいろと世話になっているわりにアバルはキスケについてあまり多くを知らない。
「なんです、人の顔をじろじろと」
「いいえ、なんでも」
アバルは正座のまま首を横に振る。改めて壺の中を見、キスケが感想を述べた。中に入っているのは大小の黒い石くず、もとは「一郎さん」だった残骸である。
「これは、見事にこなごなですねえ」
「頼むから細かいことは聞かないでくれ。俺にもよくわからないんだから」
ここへきてアザゼルをかばう必要も義理もないのだが、馬鹿正直に説明をして損をするのはおそらくアバルの方である。ゆえにアバルは、一郎さんの破壊について「朝お堂に入ったらこうなっていた」と乱暴に説明をつけざるをえなかった。
「なるほど」
キスケがうなずいた。水仕事などしたことのないような指が、アバルの頬に触れるかふれないかのところで止まり、目の下の隈を指摘する。
「理解しました。それでアバルくんの元気がなかったわけですね。僕もきみがこの地蔵を大切にしていることは知っていましたから、それはつらかったでしょう」
しかし、とキスケが思案するようなようすで言葉を続けた。
「ここまで見事に粉砕されては、元通りにすることはほぼ不可能でしょう。絵図は巻物にありましたから、腕のいい職人ならば再現することはできそうですが」
「新生一郎さんかあ。いつまでもこんな狭い壺に納めておくのもかわいそうだし、その方がいいのかも。壺に話しかけるなんて、子どもたちの教育に普通によくないよな」
「まあ、客観的に見て気がおかしくなったと思うでしょうね」
キスケのコメントは辛らつだ。アバルは子どもたちの前ではしない大きなため息をついた。目端ににじんだ涙をあわててぬぐう。
「忙しいのに引き留めて悪かったな。聞いてくれてありがとう、キスケ。前から思ってたけど、キスケってちょっと一郎さんに似てる」
「罰当たりですねえ。人々の耳目をふさぎ惑わせ、物欲を煽ることで富を得る我々商人がどうして、人々の迷いを払わんとし、衆生救済を目指す地蔵菩薩と似ているのです。人々にはせいぜい欲深く、愚かでいていただなくては。智慧を与えられては困ります」
「悪ぶるなよ。俺のこと、助けてくれただろ。……俺みたいな無一文の行き倒れの命を助けたところで、キスケに得るものなんか何もなかっただろ」
北辰寺を借りるときに一度だけキスケにたずねたことがあった。命を助けてくれただけでも十分なのに、どうして見ず知らずの自分にこんなによくしてくれるのか、と。
貧者救済を説き奉仕として喜捨を数える宗教は少なくない。正教もそのひとつだが、キスケはとくに信仰者というわけではない。
人間はまったき慈善のみで他人に施しを行うことはないと、アバルは知っている。なぜなら人間の性は混沌、そんなのは気持ちが悪いだけだ。ゆえにアバルはあれこれと世話を焼いてくれるキスケを警戒し、いったいどんな見返りを求められるのかとおっかなびっくり構えていたわけだが、それから六年、現在に至るまでキスケがそれらしい言葉を発する様子はない。
キスケがくすっと笑った。
「言ったでしょう、『僕くらいになると金も暇も持て余してますので』。まあ、しいて言えば、きみの容姿が好みだったからですかね」
「えっ!?」
初耳だ。アバルは正座を解いて小動物のようにその場をとびのく。自分の容姿のことはよくわかっているが、まさか。
「キスケ、俺のこと、ずっとそういう目で……?」
「そうですよ、アバルくん。僕は初めて会ったときから、きみに恋をしていたのです。今日まできみに尽くしてきたのは、ひとえにきみの心を得んがため……」
ぱらりとキスケが口元に扇をひろげる。芝居めいた口調だが、目がともなっていない。アバルはダメ出しをした。
「セリフはいいけど、目が俺に恋してない。あと扇は、俺の好みの話になるけど、広げるよりこう、先端で俺の顎をもちあげた方がそれっぽいかも」
「なるほど。参考にしましょう」
うなずいて、キスケが扇の先でアバルのあごを持ち上げる。見上げ、アバルの役者魂ががときめきに跳ねた。
(なんか、……いい……!)
黒漆と金で装飾された扇とアバルを見下ろす上品な香のたきしめられた袍、それから普段は髪油で几帳面にまとめられている髪が少し乱れて、額に垂れているのがいい。倒錯的で大変たぎるシチュエーションだ。
顎をとられたまま、アバルはうっとりと言う。
「キスケ、……楽一で芝居しない? 悪徳商人とか悪の帝とかめっちゃハマりそう」
「アバルくんが普段僕をどう認識しているか、よくわかる評価をありがとうございます」
やりません。キスケがにっこりと笑んだ。扇を下げようとして、止まる。
「キスケ?」
「な、なにしてるんだよ!」
キスケに視線で教えられて見ると、須王が入口にいた。顔を赤くし、ぷるぷると震えている。
「おまえには失望したぞ、顕典! いや、いつかこういう日がくることは、俺にはわかってたんだ!」
叫ぶや否や、須王がキスケに突進する。アバルはあわててキスケの前に体をとびこませ、須王をキャッチした。
「こらこら、須王! 落ち着きなさい!」
「離せ、アバル! 顕典に泣かされたんだろ! オレがかたきを取ってやる!」
「ええっ!?」
あわてて目元をぬぐうも、キスケに話をしているうちに一人で一郎さんの残骸を片づけていたときのことを思い出してしんみりしてしまっただけなので、そこはとうに乾いている。が、逆上している須王はアバルのそれを肯定ととったらしい。
「『貴様、よくも!』」
「!?」
須王の瞳が確かに氷色に輝くのを、アバルは見た。キスケの方を向こうとする須王の頭部をとっさにつかみ、自分の腹部へとおさえつける。
(アザゼル!?)
そんな馬鹿なと思うも、昼間にも似たようなことがあったばかりだ。須王の感情が高ぶると出てくるのだろうか。おそるおそる、アバルは「須王」と呼びかけてみる。
「アバルは顕典をひいきしすぎだっ。……顕典のことが好きなのか?」
「……もちろん」
須王、ともう一度呼ぶと、ふくれ面の須王が現れた。アバルはホッとする。
「何度も言ってるだろ。キスケが助けてくれなかったら、須王、俺たちも今頃は出会ってなかったんだぞ。それから、どうしてキスケだけ呼び捨てなんだ。最初の頃はちゃんと一郎太や慈安先生みたいにちゃんと呼んでただろ」
「……」
ぷい、と須王がむくれたままそっぽを向いた。小さな子どもたちがアバルに甘えていても平然としているくせに、なぜかキスケには嫉妬するらしい。
「日も傾いてきましたし、そろそろお暇しましょうか。本日は大変有意義な仕事ができました。それでは、またのご利用を」
腰をあげたキスケに、アバルに捕まったままの須王が「帰れ帰れ」と足を振る。さいわいキスケは須王の変化には気づかなかったようだ。あやすように須王の肩をはたいて、アバルはキスケを追った。
「待って、キスケ。そこまで送――ッ!?」
堂を出たところでにわかに右肩が重くなり、アバルは歯を食いしばった。悠里にかまれた場所だ。心なしか熱をもっているような気がする。
(昨日のアレかな……くそ、あの野郎)
アザゼルに強く肩を押さえつけられたことを思い出して、アバルは舌打ちした。戻ってきたキスケと須王に問われるが「なんでもない」と首を横に振る。
ただでさえアバルが練習をしたいと言ったときにしぶい顔をしていたのに、菊花にバレたら練習禁止令を出されてしまう。
「僕も少し文献を調べたのですが……。『吸血鬼』という怪物はあちこちの国で伝えられているそうですね。たいていは吸血行為によって人間を殺すだけにとどめるそうですが、ものによっては特殊な毒をもち、吸血行為の際に毒を対象へ植えつけることもあるそうです。そうして毒を受けた人間は、やがて吸血鬼として変貌を遂げるとか――」
まなうらに変わり果てた悠里の姿が浮かんだ。とっさにアバルはキスケの腕を引く。
「今言うなよ、そういうことを! 帰せなくなるだろ!」
毎朝掃いているのに、境内にはところどころ紅葉やイチョウが山を作っている。風に連れ出されるように山のひとつが崩れてカラカラと境内を駆けた。どんなに暑い日でも上品な香だけをまとうキスケの表情はやわらかく笑んで、その感情をアバルに読ませない。
「やれやれ。ここでするのが僕の心配とは、やっぱりアバルくんはおもしろいですね」
「ばか、当たり前だろ! 泊まってけ!」
まだ明るい部分の方が多いが、油断していると帳をするするとおろしていくように暗くなってしまう。が、キスケは「まだ仕事がありますので」と帰ってしまった。
「三郎さん、どこに置こうかな……」
ふられたような気持ちでつぶやき、アバルは須王をともなって本堂に戻る。「三郎さん」は今日受け取ってきた地蔵のことだ。小さいので一時的にアバルの部屋で保管している。
(はあ、疲れた……)
明日は市に野菜を売りに行く日だ。子どもたちにいつもより早い就寝をうながし、アバルも床に就いた。本音を言えば稽古に時間をあてたいところだが、今無理をして怪我を悪化させては元も子もない。
何の連絡もないということはキスケは無事に家に着いたのだろう。目を閉じ、アバルは深く呼吸をする。なんだかまた肩がじくじくと熱をもちはじめた気がする。
(一郎太は、今日も仕事なんだろうなあ)
吸血鬼による被害者の話は今日の行き帰りの道中でも耳に入った。一郎太によれば危険ドラッグ類を扱う部署が侍所内で独立したのは、幕府が鎖国政策を一部解禁したあとからなのだそうだ。それまでにも闇ルート等で流通はしていたが、開国によっておおっぴらになった、というのが一郎太の言である。また外国製はタチが悪いものが多く、『パライソ』はその中でも三本指に入るだろうと一郎太は言った。攘夷派が害交滅すべしと声高に叫ぶのもまったくの見当違いではないのだ。
(ごめんな、一郎太……)
風の音が聞こえる。その晩はアザゼルはやってこなかった。
「なんです、人の顔をじろじろと」
「いいえ、なんでも」
アバルは正座のまま首を横に振る。改めて壺の中を見、キスケが感想を述べた。中に入っているのは大小の黒い石くず、もとは「一郎さん」だった残骸である。
「これは、見事にこなごなですねえ」
「頼むから細かいことは聞かないでくれ。俺にもよくわからないんだから」
ここへきてアザゼルをかばう必要も義理もないのだが、馬鹿正直に説明をして損をするのはおそらくアバルの方である。ゆえにアバルは、一郎さんの破壊について「朝お堂に入ったらこうなっていた」と乱暴に説明をつけざるをえなかった。
「なるほど」
キスケがうなずいた。水仕事などしたことのないような指が、アバルの頬に触れるかふれないかのところで止まり、目の下の隈を指摘する。
「理解しました。それでアバルくんの元気がなかったわけですね。僕もきみがこの地蔵を大切にしていることは知っていましたから、それはつらかったでしょう」
しかし、とキスケが思案するようなようすで言葉を続けた。
「ここまで見事に粉砕されては、元通りにすることはほぼ不可能でしょう。絵図は巻物にありましたから、腕のいい職人ならば再現することはできそうですが」
「新生一郎さんかあ。いつまでもこんな狭い壺に納めておくのもかわいそうだし、その方がいいのかも。壺に話しかけるなんて、子どもたちの教育に普通によくないよな」
「まあ、客観的に見て気がおかしくなったと思うでしょうね」
キスケのコメントは辛らつだ。アバルは子どもたちの前ではしない大きなため息をついた。目端ににじんだ涙をあわててぬぐう。
「忙しいのに引き留めて悪かったな。聞いてくれてありがとう、キスケ。前から思ってたけど、キスケってちょっと一郎さんに似てる」
「罰当たりですねえ。人々の耳目をふさぎ惑わせ、物欲を煽ることで富を得る我々商人がどうして、人々の迷いを払わんとし、衆生救済を目指す地蔵菩薩と似ているのです。人々にはせいぜい欲深く、愚かでいていただなくては。智慧を与えられては困ります」
「悪ぶるなよ。俺のこと、助けてくれただろ。……俺みたいな無一文の行き倒れの命を助けたところで、キスケに得るものなんか何もなかっただろ」
北辰寺を借りるときに一度だけキスケにたずねたことがあった。命を助けてくれただけでも十分なのに、どうして見ず知らずの自分にこんなによくしてくれるのか、と。
貧者救済を説き奉仕として喜捨を数える宗教は少なくない。正教もそのひとつだが、キスケはとくに信仰者というわけではない。
人間はまったき慈善のみで他人に施しを行うことはないと、アバルは知っている。なぜなら人間の性は混沌、そんなのは気持ちが悪いだけだ。ゆえにアバルはあれこれと世話を焼いてくれるキスケを警戒し、いったいどんな見返りを求められるのかとおっかなびっくり構えていたわけだが、それから六年、現在に至るまでキスケがそれらしい言葉を発する様子はない。
キスケがくすっと笑った。
「言ったでしょう、『僕くらいになると金も暇も持て余してますので』。まあ、しいて言えば、きみの容姿が好みだったからですかね」
「えっ!?」
初耳だ。アバルは正座を解いて小動物のようにその場をとびのく。自分の容姿のことはよくわかっているが、まさか。
「キスケ、俺のこと、ずっとそういう目で……?」
「そうですよ、アバルくん。僕は初めて会ったときから、きみに恋をしていたのです。今日まできみに尽くしてきたのは、ひとえにきみの心を得んがため……」
ぱらりとキスケが口元に扇をひろげる。芝居めいた口調だが、目がともなっていない。アバルはダメ出しをした。
「セリフはいいけど、目が俺に恋してない。あと扇は、俺の好みの話になるけど、広げるよりこう、先端で俺の顎をもちあげた方がそれっぽいかも」
「なるほど。参考にしましょう」
うなずいて、キスケが扇の先でアバルのあごを持ち上げる。見上げ、アバルの役者魂ががときめきに跳ねた。
(なんか、……いい……!)
黒漆と金で装飾された扇とアバルを見下ろす上品な香のたきしめられた袍、それから普段は髪油で几帳面にまとめられている髪が少し乱れて、額に垂れているのがいい。倒錯的で大変たぎるシチュエーションだ。
顎をとられたまま、アバルはうっとりと言う。
「キスケ、……楽一で芝居しない? 悪徳商人とか悪の帝とかめっちゃハマりそう」
「アバルくんが普段僕をどう認識しているか、よくわかる評価をありがとうございます」
やりません。キスケがにっこりと笑んだ。扇を下げようとして、止まる。
「キスケ?」
「な、なにしてるんだよ!」
キスケに視線で教えられて見ると、須王が入口にいた。顔を赤くし、ぷるぷると震えている。
「おまえには失望したぞ、顕典! いや、いつかこういう日がくることは、俺にはわかってたんだ!」
叫ぶや否や、須王がキスケに突進する。アバルはあわててキスケの前に体をとびこませ、須王をキャッチした。
「こらこら、須王! 落ち着きなさい!」
「離せ、アバル! 顕典に泣かされたんだろ! オレがかたきを取ってやる!」
「ええっ!?」
あわてて目元をぬぐうも、キスケに話をしているうちに一人で一郎さんの残骸を片づけていたときのことを思い出してしんみりしてしまっただけなので、そこはとうに乾いている。が、逆上している須王はアバルのそれを肯定ととったらしい。
「『貴様、よくも!』」
「!?」
須王の瞳が確かに氷色に輝くのを、アバルは見た。キスケの方を向こうとする須王の頭部をとっさにつかみ、自分の腹部へとおさえつける。
(アザゼル!?)
そんな馬鹿なと思うも、昼間にも似たようなことがあったばかりだ。須王の感情が高ぶると出てくるのだろうか。おそるおそる、アバルは「須王」と呼びかけてみる。
「アバルは顕典をひいきしすぎだっ。……顕典のことが好きなのか?」
「……もちろん」
須王、ともう一度呼ぶと、ふくれ面の須王が現れた。アバルはホッとする。
「何度も言ってるだろ。キスケが助けてくれなかったら、須王、俺たちも今頃は出会ってなかったんだぞ。それから、どうしてキスケだけ呼び捨てなんだ。最初の頃はちゃんと一郎太や慈安先生みたいにちゃんと呼んでただろ」
「……」
ぷい、と須王がむくれたままそっぽを向いた。小さな子どもたちがアバルに甘えていても平然としているくせに、なぜかキスケには嫉妬するらしい。
「日も傾いてきましたし、そろそろお暇しましょうか。本日は大変有意義な仕事ができました。それでは、またのご利用を」
腰をあげたキスケに、アバルに捕まったままの須王が「帰れ帰れ」と足を振る。さいわいキスケは須王の変化には気づかなかったようだ。あやすように須王の肩をはたいて、アバルはキスケを追った。
「待って、キスケ。そこまで送――ッ!?」
堂を出たところでにわかに右肩が重くなり、アバルは歯を食いしばった。悠里にかまれた場所だ。心なしか熱をもっているような気がする。
(昨日のアレかな……くそ、あの野郎)
アザゼルに強く肩を押さえつけられたことを思い出して、アバルは舌打ちした。戻ってきたキスケと須王に問われるが「なんでもない」と首を横に振る。
ただでさえアバルが練習をしたいと言ったときにしぶい顔をしていたのに、菊花にバレたら練習禁止令を出されてしまう。
「僕も少し文献を調べたのですが……。『吸血鬼』という怪物はあちこちの国で伝えられているそうですね。たいていは吸血行為によって人間を殺すだけにとどめるそうですが、ものによっては特殊な毒をもち、吸血行為の際に毒を対象へ植えつけることもあるそうです。そうして毒を受けた人間は、やがて吸血鬼として変貌を遂げるとか――」
まなうらに変わり果てた悠里の姿が浮かんだ。とっさにアバルはキスケの腕を引く。
「今言うなよ、そういうことを! 帰せなくなるだろ!」
毎朝掃いているのに、境内にはところどころ紅葉やイチョウが山を作っている。風に連れ出されるように山のひとつが崩れてカラカラと境内を駆けた。どんなに暑い日でも上品な香だけをまとうキスケの表情はやわらかく笑んで、その感情をアバルに読ませない。
「やれやれ。ここでするのが僕の心配とは、やっぱりアバルくんはおもしろいですね」
「ばか、当たり前だろ! 泊まってけ!」
まだ明るい部分の方が多いが、油断していると帳をするするとおろしていくように暗くなってしまう。が、キスケは「まだ仕事がありますので」と帰ってしまった。
「三郎さん、どこに置こうかな……」
ふられたような気持ちでつぶやき、アバルは須王をともなって本堂に戻る。「三郎さん」は今日受け取ってきた地蔵のことだ。小さいので一時的にアバルの部屋で保管している。
(はあ、疲れた……)
明日は市に野菜を売りに行く日だ。子どもたちにいつもより早い就寝をうながし、アバルも床に就いた。本音を言えば稽古に時間をあてたいところだが、今無理をして怪我を悪化させては元も子もない。
何の連絡もないということはキスケは無事に家に着いたのだろう。目を閉じ、アバルは深く呼吸をする。なんだかまた肩がじくじくと熱をもちはじめた気がする。
(一郎太は、今日も仕事なんだろうなあ)
吸血鬼による被害者の話は今日の行き帰りの道中でも耳に入った。一郎太によれば危険ドラッグ類を扱う部署が侍所内で独立したのは、幕府が鎖国政策を一部解禁したあとからなのだそうだ。それまでにも闇ルート等で流通はしていたが、開国によっておおっぴらになった、というのが一郎太の言である。また外国製はタチが悪いものが多く、『パライソ』はその中でも三本指に入るだろうと一郎太は言った。攘夷派が害交滅すべしと声高に叫ぶのもまったくの見当違いではないのだ。
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