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白黒兵器、南極に立つ!
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『いい? 耳の穴広げて良く聞きなさいっ。密猟は許しません』
数秒遅れて、私の耳には『ガオオオオオオッ』と獣の呻き声が聞こえた。
先ほど私が宣言した言葉は、残念な事に日本語ではなく、このように獣語として変換され彼らに届く。
振り向くと、私の背後にはペンギン達が不思議そうな顔で私を見つめている。
何て愛らしい。
そして私の目の前にはペンギンを密猟しようとするハンター達がいる。
彼らは好奇の眼で見つめていた。
ここで私は、今の格好を改めて確認する。
着物にスカートという何時もの給仕のような服ではなく、ある動物をもした『きぐるみ』を着ている。
内部に搭載されている集音マイクがハンター達の声を拾ってくる。
日本語ではない言葉、そう外国語、私の見ているモニターに瞬時に翻訳されて字幕が出た。
「パンダだよな……?」
「ああ、やっぱりパンダだ」
「眼の所に黒い模様があるぞ」
「ところで何で南極にパンダがいるんだ」
「ビューティフォー」
内部スピーカーから老人男性の声が聞こえてきた。
『おーい、鷹華くん。やはり南極にパンダはおかしい』
私は不機嫌になり、指先にあるスイッチを切り替える。これで私は基地にいる教授と会話が出来るようになった。
『教授が、このきぐるみを着なさいと命令してくれた、訳なんですけどねっ!』
『ごほん。ここでは司令官と呼びたまえ鷹華君』
『ようか。ですっ! 鷹に華と書きまして、鷹華ですっ!』
『おお、すまんな。最近物忘れが酷くての』
平気で嘘を付く、この好々爺め、あの事が無ければ、春休みに南極なんて着いてこなかったのにっ!
はいはい、これも問題解決の為、呼べばいいんでしょ、呼べばっ。
『司令官が、このパンダのきぐるみを着ろと命令したんですけどねっ』
大事な事なので二回言う。
『いやー、白熊の対人パワードスーツが手配つかなくてね、何、パンダも白熊も同じ熊科だ。悪い悪い』
絶対に悪いと思っていない、そもそも教授が着ればいいじゃないですかと、質問した所、身長が合わないからと押し切られた。
なぜか、私の体と同じサイズのパンダスーツ。絶対に計画的。
うん、そう、断言できる。
ドンッ!
『な、なにっ!』
『こちらで監視した所、銃のようだね。大丈夫』
『大丈夫って教授っ!」
『司令官と呼びたまえ、鷹華君。なにTOZ194をベースにした銃だね。ポンプ式散弾銃、寒冷でも使えて整備も楽なんだ。これが自動式になると、この寒さだから――』
『教授っ! 今は説明を聞いている場合ではなくっ、それに私ときょう――、司令官の二人しか基地にはいないんですけど』
私が叫んでる間にも、二発、三発と撃たれている。
銃声に驚いたペンギンが逃げはじめ、手の空いた密猟者達が、その後を追っている。
『物事は形から入るものだよ鷹華君。右腕か左腕のボタンを押しなさい』
『鷹華です。司令官』
私は左腕をまさぐる。小さな突起物があるのがわかった。
言われたとおりに押してみる。
左右の腕がある部分から機械音が聞こえる。
物理的に不可能なはずなのに、数秒もしないで近代兵器が顔を覗かせた。
密猟者の銃より何倍も大きな砲身が取ってつけたような形で両腕についている。
それと同時に指先に引いてはいけない様なレバーの感触が伝わる。
『えーっと、教――。ごほん、司令官これって』
『良くぞ聞いてくれた鷹華君』
『鷹華です』
私の話を聞いてない司令は、興奮した様子で説明する。
『四十五口径の対戦車用の局地タイプだ。さぁ、遠慮なくぶちかませ』
『あの……。あてたら死にますよね』
『ああ、勿論だ、密猟者相手に遠慮はいらん』
『私が、嫌なんですけどっ! 司令官、南極条約って知ってます?』
簡単に言えば、南極は誰の物でもないから平和にいきますよ。武器の使用などは禁止しますよという、ありがたい国際条約である。
『では、あてない様に足元にでも威嚇射撃しなさい』
駄目だ話に成らない。
私だって、この歳で殺人犯なんかにはなりたくない。
私の姿をみて、驚き固まっている密猟者達。
足元に狙いをつけ構える。
視界のモニターに着弾予想地が赤で点滅された。
私は、それよりも離れた場所目掛けて球を発射した。
数分あと、私の周りには誰も存在しなかった。
あるのは人が十人ほど入れそうな大きな穴。守るべきペンギンも、狩人たる密猟者も周りには居なかった。
耳元に基地からの回線通話が流れてくる。
『いやー傑作だったな、鷹華君』
『鷹華です』
『逃げ惑う密猟者、笑えると思わないか、この映像を、後でネットに上げよう。彼らはもう恥ずかしくて活動出来まい』
『司令官、何か私にいう事はありませんか?』
『特にないぞ? 道はマップがあるから迷わないだろうが、気をつけて、とにかく気をつけて帰って来なさい』
『はぁ……。了解しました』
私は溜息をつくと歩き出す。幸いにきぐるみは重さの感じないし、逆に足が軽い。
高性能アシスト機能が付いているらしい。
基地に帰ってきた。
二重扉を抜け、お腹にあるヘソボタンを五回ほど押す。きぐるみスーツが左右に割れると、私が外に出る仕様になっている。
「お疲れ様、鷹華君」
「鷹華です」
「ふむ、名前なんて些細な事に拘ると出世しないぞ」
「教授の自論ですよね」
「馬鹿者、ここでは司令官と呼びなさい」
数秒前の言葉は一体……。
殴りたい。取りあえず深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「どうした? 対決戦パワードスーツ。パンダー三号を着ている分には疲れないはずだが」
「ええ、着ている間は疲れませんでしたね」
本気でわかってない顔をしている。
「ご飯の支度はできている、本日はご苦労さんだ。後はゆっくりしてくれたまえ」
「そうさせて貰います」
私は司令官と共に食堂へと歩く。
南極秘密基地。
偽造された出入り口から地下に降りると、二重扉があり、その奥に格納施設、食堂、スポーツ室に娯楽室、貯蔵庫が二ヶ所にあとは寝室が四つほどある。
私が何故こんな場所で、先ほどのような危険な事をしているかというと、単に学校卒業の為だ。
私の通っている学校は、校則が厳しい。
スカートの長さから、下着の色、髪染めすら禁止である。
そんな厳しい学校での出来事。
我が学校では生徒が校内を掃除する。
その中で校長室の掃除当番だったあるグループが居た。
ある女性徒が、お皿を落としてしまった。
校長が大切にしていたお皿、女生徒は泣き出し、このままでは退学になると錯乱している。
騒ぎが大きくなるまえに何とかしないといけない。
私は班長権限でその子を黙らすと破片を持って庭に出た。そして埋めようとした所で、この定年も過ぎているのに名誉教授と呼ばれている校長よりも偉い先生もとい、司令官に見つかったのだ。
結局、交換条件として教授が全罪を被り、代わりに私が春休みの十日間、教授の手伝いをするという事で話はまとまったのだ。
南極で簡単な見回りと聞いていた私であったが、パンダのきぐるみを着て南極で戦うまでは想像してなかったけど。
結局その日はそのまま倒れるように寝た。
暗い室内が突然明るくなる。地下にいるせいか朝になると自動的に付くらしい。
私はパジャマから上は着物、下はスカートという服に着替えると食堂へと向かった。
司令官は既に起きていて鼻歌を歌いながら何かを作っている。
「お早うございます、司令官」
「おお、鷹華君おはよう」
「……」
訂正する気も起きなくなってくる。
「所で、司令官。司令官は何でこんな活動をしているんですか? 学校の先生と思っていたんですけど。ここに来るのにもチャーター便ですし、さらに会う人会う人が皆腰が引くそうでし、この基地だって不明すぎます」
「君、英語は出来るかい?」
日常会話程度なら出来なくもないけど、ここに来るまでの間に教授が他人と喋っている内容までは良くわからなかった。
「残念ながら、少ししか」
「なら、そういう物と思って入ればいい。ワシは趣味で南極を守っている者だ」
そんなわけあるかっー! と叫びたい所であるが、黙っておく。
食卓には、司令官が料理したレトルトの食事が並んでいる。
その日は何事も無く、司令官はレーダーを見ながら、私は娯楽室で映画を見て過ごした。
夜は司令官に頼まれて料理を作ったのに、余りいい顔はされなかった。ちゃんと食べれるのに……。
アレから二日後、南極に来てから六日目である。
司令官が部屋にいる私を突然呼ぶと、レーダー室から密猟者が乗っている乗り物だとモニターを指差し教えてくれる。
カメラには黒く塗られた小型の飛行機が映し出されている。
「飛行機ですね」
「ああ、そうだ。君にはアレを撃ち落としてほしい」
真顔で何言ってるんだ、この人は。
「あの、だから私は殺人者に成りたくないんですけど……」
「ふむ。パンダー三号には自動ロックオン機能が付いているから、綺麗な花火になると思ったのだが、仕方が無い、密猟団が飛行機から降りたらこっそりと破壊してくれ。密猟者のほうは国連に連絡しておくから数時間もしないで直ぐに逮捕されるだろう」
「本当に何者なんですか……」
私は呆れると、司令官に背中を押されて格納庫へ向かう。
更衣室で素早く着替えると、パンダー三号を身にまとった。
作戦通りに、こっそりと飛行機に近付く。
両腕の銃からの二連撃、さらに足にもつけた三連ロケット砲をぶちかます。
司令官には内緒であるが、撃った後ちょっと気持ちいい。
遠くにいる密猟者は口を開けて惨劇をみている。
そりゃそうだろう、乗ってきた飛行機がパンダによって破壊されるんだ。
そして私が担いできた、救難セットテント入りを、彼らのほうに放り投げた。
恐ろしく狙い通りに、彼らの数メートル手前に落ちた、これで国連から助けが来るまで平気だろう。
『任務完了しました』
『了解、ではくれぐれも気をつけて帰ってくれたまえ』
『了解』
秘密基地まで、七キロ、直進では帰れない為に二時間は歩く。
私は前回が楽勝であった事もあり油断をしていた。
気付いたら、空を見ていた。
私がクレパスに落ちたと認識するまで数分以上かかった。
周りは氷の壁、空が青く見え、天からの光が周りを青く魅せる。
『綺麗……』
思わず呟くと、現実なのを認識する。
『な、事言ってる場合じゃないわね、司令官、司令官っ! 聞こえますか? 鷹華です。鷹華じゃなくて鷹華です』
私はマイクを通して基地に連絡を入れるも、耳に帰って来るのは、『ザー』という異音だけである。
まじですか……。
地図を確認しようにも地図も出てこない。
壁を登ろうとすると、パンダスーツじゃ壁が登れない。
いっその事脱ぐか? そう考えもしたけど一瞬で凍死する。幸いに体の痛い所は無く思考は冴えている。
あれほど、クレパスが多い場所だからレーダーを確認しながら進めと注意された事を思い出す。
『参ったわね……』
人間どうしようもないと、焦る事も無くなる。
司令官を恨む気持ちさえも沸いて来なかった。
『幸い、寒くは無い。レーダーで私の消えた場所が判っているはず。待つ、私に出来る事は待つ事だけ』
足をくの字に曲げると私は顔を膝に付ける。
何時の間にか寝ていたらしい、耳元で聞こえる声が騒がしい。
ハイハイ、今起きますよ……。
『……華君! 鷹……、鷹華君』
『何、うるさい……。だから私の名前は鷹華ですってってアレ、ちゃんと言ってる……』
『よかった、眼が覚めたか』
『あれ……司令官』
『あれっ! じゃない。だから気をつけろと――』
『あのー姿が見えないんですけど、それになんで声が、壊れていたはずなのに』
私は辺りを見回す。特に変わった物は……。あった。一本の灰色のロープが浮いている。
『君からの連絡が無くなり、探しに来た。スピーカーは僕と君が近くに居るからだろう、いいから、そこの鼻に捕まりたまえ』
『鼻? ロープじゃなくて?』
私は灰色のロープに捕まると、ロープが体に巻きついていく。
直ぐに体が上に持ち上がって行き、そのわけを知る事となる。
マンモスだ。
全長5メートルはある巨大なマンモス、二本の牙が鋭く見え、私は収縮された鼻でマンモスの背中に乗せられた。
私はマンモスの鼻にしがみ付き助けられたのだ。
『えーっと、司令官コレは?』
『かっこいいだろう、試作型マンモス十一号だ、残念な事に、これで出動すると敵のほうが先に発見して逃げていくし、守るべき動物達も逃げていく、勿論犯人達への制裁にならない』
『でしょうね』
自信満々に答える司令官。
こんなものが十一号という事は、コレ以前に試作機が十体も作られたのか……。
『さて、鷹華君。帰るとしよう、君はもう少し考えて行動したほうがいいな』
『あの、鷹華ですけど……。先ほどきちんとお呼ばれになった気がしたんですけど』
『ふむ、そうかい? なーに名前なんて気にする事ではない、それに考えても見たまえ。君は名前を説明する時に、鷹と華を別々に言うじゃないか、だからもう鷹華で良いと思わないか?』
『思いませんっ!』
結局。後の三日間はさほど問題も起きなく終わった。
司令官、っと、基地を離れたので今は教授と呼ぼう。
何故、あんな活動をしているのか、あっちこっちと太いラインで繋がっているのかはこの時は教えてくれなかった。
それを知るのは夏休みに再びこのバイトを受けた時だった。
なお後日談として、もう一つ。
私達が日本に帰ると、ネット動画サイトであの時の救出劇が空から撮影されており、マンモスの上にパンダがしがみ付いている映像として、新しい、世界の都市伝説に追加され話題になっていた。
数秒遅れて、私の耳には『ガオオオオオオッ』と獣の呻き声が聞こえた。
先ほど私が宣言した言葉は、残念な事に日本語ではなく、このように獣語として変換され彼らに届く。
振り向くと、私の背後にはペンギン達が不思議そうな顔で私を見つめている。
何て愛らしい。
そして私の目の前にはペンギンを密猟しようとするハンター達がいる。
彼らは好奇の眼で見つめていた。
ここで私は、今の格好を改めて確認する。
着物にスカートという何時もの給仕のような服ではなく、ある動物をもした『きぐるみ』を着ている。
内部に搭載されている集音マイクがハンター達の声を拾ってくる。
日本語ではない言葉、そう外国語、私の見ているモニターに瞬時に翻訳されて字幕が出た。
「パンダだよな……?」
「ああ、やっぱりパンダだ」
「眼の所に黒い模様があるぞ」
「ところで何で南極にパンダがいるんだ」
「ビューティフォー」
内部スピーカーから老人男性の声が聞こえてきた。
『おーい、鷹華くん。やはり南極にパンダはおかしい』
私は不機嫌になり、指先にあるスイッチを切り替える。これで私は基地にいる教授と会話が出来るようになった。
『教授が、このきぐるみを着なさいと命令してくれた、訳なんですけどねっ!』
『ごほん。ここでは司令官と呼びたまえ鷹華君』
『ようか。ですっ! 鷹に華と書きまして、鷹華ですっ!』
『おお、すまんな。最近物忘れが酷くての』
平気で嘘を付く、この好々爺め、あの事が無ければ、春休みに南極なんて着いてこなかったのにっ!
はいはい、これも問題解決の為、呼べばいいんでしょ、呼べばっ。
『司令官が、このパンダのきぐるみを着ろと命令したんですけどねっ』
大事な事なので二回言う。
『いやー、白熊の対人パワードスーツが手配つかなくてね、何、パンダも白熊も同じ熊科だ。悪い悪い』
絶対に悪いと思っていない、そもそも教授が着ればいいじゃないですかと、質問した所、身長が合わないからと押し切られた。
なぜか、私の体と同じサイズのパンダスーツ。絶対に計画的。
うん、そう、断言できる。
ドンッ!
『な、なにっ!』
『こちらで監視した所、銃のようだね。大丈夫』
『大丈夫って教授っ!」
『司令官と呼びたまえ、鷹華君。なにTOZ194をベースにした銃だね。ポンプ式散弾銃、寒冷でも使えて整備も楽なんだ。これが自動式になると、この寒さだから――』
『教授っ! 今は説明を聞いている場合ではなくっ、それに私ときょう――、司令官の二人しか基地にはいないんですけど』
私が叫んでる間にも、二発、三発と撃たれている。
銃声に驚いたペンギンが逃げはじめ、手の空いた密猟者達が、その後を追っている。
『物事は形から入るものだよ鷹華君。右腕か左腕のボタンを押しなさい』
『鷹華です。司令官』
私は左腕をまさぐる。小さな突起物があるのがわかった。
言われたとおりに押してみる。
左右の腕がある部分から機械音が聞こえる。
物理的に不可能なはずなのに、数秒もしないで近代兵器が顔を覗かせた。
密猟者の銃より何倍も大きな砲身が取ってつけたような形で両腕についている。
それと同時に指先に引いてはいけない様なレバーの感触が伝わる。
『えーっと、教――。ごほん、司令官これって』
『良くぞ聞いてくれた鷹華君』
『鷹華です』
私の話を聞いてない司令は、興奮した様子で説明する。
『四十五口径の対戦車用の局地タイプだ。さぁ、遠慮なくぶちかませ』
『あの……。あてたら死にますよね』
『ああ、勿論だ、密猟者相手に遠慮はいらん』
『私が、嫌なんですけどっ! 司令官、南極条約って知ってます?』
簡単に言えば、南極は誰の物でもないから平和にいきますよ。武器の使用などは禁止しますよという、ありがたい国際条約である。
『では、あてない様に足元にでも威嚇射撃しなさい』
駄目だ話に成らない。
私だって、この歳で殺人犯なんかにはなりたくない。
私の姿をみて、驚き固まっている密猟者達。
足元に狙いをつけ構える。
視界のモニターに着弾予想地が赤で点滅された。
私は、それよりも離れた場所目掛けて球を発射した。
数分あと、私の周りには誰も存在しなかった。
あるのは人が十人ほど入れそうな大きな穴。守るべきペンギンも、狩人たる密猟者も周りには居なかった。
耳元に基地からの回線通話が流れてくる。
『いやー傑作だったな、鷹華君』
『鷹華です』
『逃げ惑う密猟者、笑えると思わないか、この映像を、後でネットに上げよう。彼らはもう恥ずかしくて活動出来まい』
『司令官、何か私にいう事はありませんか?』
『特にないぞ? 道はマップがあるから迷わないだろうが、気をつけて、とにかく気をつけて帰って来なさい』
『はぁ……。了解しました』
私は溜息をつくと歩き出す。幸いにきぐるみは重さの感じないし、逆に足が軽い。
高性能アシスト機能が付いているらしい。
基地に帰ってきた。
二重扉を抜け、お腹にあるヘソボタンを五回ほど押す。きぐるみスーツが左右に割れると、私が外に出る仕様になっている。
「お疲れ様、鷹華君」
「鷹華です」
「ふむ、名前なんて些細な事に拘ると出世しないぞ」
「教授の自論ですよね」
「馬鹿者、ここでは司令官と呼びなさい」
数秒前の言葉は一体……。
殴りたい。取りあえず深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「どうした? 対決戦パワードスーツ。パンダー三号を着ている分には疲れないはずだが」
「ええ、着ている間は疲れませんでしたね」
本気でわかってない顔をしている。
「ご飯の支度はできている、本日はご苦労さんだ。後はゆっくりしてくれたまえ」
「そうさせて貰います」
私は司令官と共に食堂へと歩く。
南極秘密基地。
偽造された出入り口から地下に降りると、二重扉があり、その奥に格納施設、食堂、スポーツ室に娯楽室、貯蔵庫が二ヶ所にあとは寝室が四つほどある。
私が何故こんな場所で、先ほどのような危険な事をしているかというと、単に学校卒業の為だ。
私の通っている学校は、校則が厳しい。
スカートの長さから、下着の色、髪染めすら禁止である。
そんな厳しい学校での出来事。
我が学校では生徒が校内を掃除する。
その中で校長室の掃除当番だったあるグループが居た。
ある女性徒が、お皿を落としてしまった。
校長が大切にしていたお皿、女生徒は泣き出し、このままでは退学になると錯乱している。
騒ぎが大きくなるまえに何とかしないといけない。
私は班長権限でその子を黙らすと破片を持って庭に出た。そして埋めようとした所で、この定年も過ぎているのに名誉教授と呼ばれている校長よりも偉い先生もとい、司令官に見つかったのだ。
結局、交換条件として教授が全罪を被り、代わりに私が春休みの十日間、教授の手伝いをするという事で話はまとまったのだ。
南極で簡単な見回りと聞いていた私であったが、パンダのきぐるみを着て南極で戦うまでは想像してなかったけど。
結局その日はそのまま倒れるように寝た。
暗い室内が突然明るくなる。地下にいるせいか朝になると自動的に付くらしい。
私はパジャマから上は着物、下はスカートという服に着替えると食堂へと向かった。
司令官は既に起きていて鼻歌を歌いながら何かを作っている。
「お早うございます、司令官」
「おお、鷹華君おはよう」
「……」
訂正する気も起きなくなってくる。
「所で、司令官。司令官は何でこんな活動をしているんですか? 学校の先生と思っていたんですけど。ここに来るのにもチャーター便ですし、さらに会う人会う人が皆腰が引くそうでし、この基地だって不明すぎます」
「君、英語は出来るかい?」
日常会話程度なら出来なくもないけど、ここに来るまでの間に教授が他人と喋っている内容までは良くわからなかった。
「残念ながら、少ししか」
「なら、そういう物と思って入ればいい。ワシは趣味で南極を守っている者だ」
そんなわけあるかっー! と叫びたい所であるが、黙っておく。
食卓には、司令官が料理したレトルトの食事が並んでいる。
その日は何事も無く、司令官はレーダーを見ながら、私は娯楽室で映画を見て過ごした。
夜は司令官に頼まれて料理を作ったのに、余りいい顔はされなかった。ちゃんと食べれるのに……。
アレから二日後、南極に来てから六日目である。
司令官が部屋にいる私を突然呼ぶと、レーダー室から密猟者が乗っている乗り物だとモニターを指差し教えてくれる。
カメラには黒く塗られた小型の飛行機が映し出されている。
「飛行機ですね」
「ああ、そうだ。君にはアレを撃ち落としてほしい」
真顔で何言ってるんだ、この人は。
「あの、だから私は殺人者に成りたくないんですけど……」
「ふむ。パンダー三号には自動ロックオン機能が付いているから、綺麗な花火になると思ったのだが、仕方が無い、密猟団が飛行機から降りたらこっそりと破壊してくれ。密猟者のほうは国連に連絡しておくから数時間もしないで直ぐに逮捕されるだろう」
「本当に何者なんですか……」
私は呆れると、司令官に背中を押されて格納庫へ向かう。
更衣室で素早く着替えると、パンダー三号を身にまとった。
作戦通りに、こっそりと飛行機に近付く。
両腕の銃からの二連撃、さらに足にもつけた三連ロケット砲をぶちかます。
司令官には内緒であるが、撃った後ちょっと気持ちいい。
遠くにいる密猟者は口を開けて惨劇をみている。
そりゃそうだろう、乗ってきた飛行機がパンダによって破壊されるんだ。
そして私が担いできた、救難セットテント入りを、彼らのほうに放り投げた。
恐ろしく狙い通りに、彼らの数メートル手前に落ちた、これで国連から助けが来るまで平気だろう。
『任務完了しました』
『了解、ではくれぐれも気をつけて帰ってくれたまえ』
『了解』
秘密基地まで、七キロ、直進では帰れない為に二時間は歩く。
私は前回が楽勝であった事もあり油断をしていた。
気付いたら、空を見ていた。
私がクレパスに落ちたと認識するまで数分以上かかった。
周りは氷の壁、空が青く見え、天からの光が周りを青く魅せる。
『綺麗……』
思わず呟くと、現実なのを認識する。
『な、事言ってる場合じゃないわね、司令官、司令官っ! 聞こえますか? 鷹華です。鷹華じゃなくて鷹華です』
私はマイクを通して基地に連絡を入れるも、耳に帰って来るのは、『ザー』という異音だけである。
まじですか……。
地図を確認しようにも地図も出てこない。
壁を登ろうとすると、パンダスーツじゃ壁が登れない。
いっその事脱ぐか? そう考えもしたけど一瞬で凍死する。幸いに体の痛い所は無く思考は冴えている。
あれほど、クレパスが多い場所だからレーダーを確認しながら進めと注意された事を思い出す。
『参ったわね……』
人間どうしようもないと、焦る事も無くなる。
司令官を恨む気持ちさえも沸いて来なかった。
『幸い、寒くは無い。レーダーで私の消えた場所が判っているはず。待つ、私に出来る事は待つ事だけ』
足をくの字に曲げると私は顔を膝に付ける。
何時の間にか寝ていたらしい、耳元で聞こえる声が騒がしい。
ハイハイ、今起きますよ……。
『……華君! 鷹……、鷹華君』
『何、うるさい……。だから私の名前は鷹華ですってってアレ、ちゃんと言ってる……』
『よかった、眼が覚めたか』
『あれ……司令官』
『あれっ! じゃない。だから気をつけろと――』
『あのー姿が見えないんですけど、それになんで声が、壊れていたはずなのに』
私は辺りを見回す。特に変わった物は……。あった。一本の灰色のロープが浮いている。
『君からの連絡が無くなり、探しに来た。スピーカーは僕と君が近くに居るからだろう、いいから、そこの鼻に捕まりたまえ』
『鼻? ロープじゃなくて?』
私は灰色のロープに捕まると、ロープが体に巻きついていく。
直ぐに体が上に持ち上がって行き、そのわけを知る事となる。
マンモスだ。
全長5メートルはある巨大なマンモス、二本の牙が鋭く見え、私は収縮された鼻でマンモスの背中に乗せられた。
私はマンモスの鼻にしがみ付き助けられたのだ。
『えーっと、司令官コレは?』
『かっこいいだろう、試作型マンモス十一号だ、残念な事に、これで出動すると敵のほうが先に発見して逃げていくし、守るべき動物達も逃げていく、勿論犯人達への制裁にならない』
『でしょうね』
自信満々に答える司令官。
こんなものが十一号という事は、コレ以前に試作機が十体も作られたのか……。
『さて、鷹華君。帰るとしよう、君はもう少し考えて行動したほうがいいな』
『あの、鷹華ですけど……。先ほどきちんとお呼ばれになった気がしたんですけど』
『ふむ、そうかい? なーに名前なんて気にする事ではない、それに考えても見たまえ。君は名前を説明する時に、鷹と華を別々に言うじゃないか、だからもう鷹華で良いと思わないか?』
『思いませんっ!』
結局。後の三日間はさほど問題も起きなく終わった。
司令官、っと、基地を離れたので今は教授と呼ぼう。
何故、あんな活動をしているのか、あっちこっちと太いラインで繋がっているのかはこの時は教えてくれなかった。
それを知るのは夏休みに再びこのバイトを受けた時だった。
なお後日談として、もう一つ。
私達が日本に帰ると、ネット動画サイトであの時の救出劇が空から撮影されており、マンモスの上にパンダがしがみ付いている映像として、新しい、世界の都市伝説に追加され話題になっていた。
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手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
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