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1章
第4話:鍛冶屋ヴァルドと村の空気
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話を終えて帰ろうとしたゼインに、リオは声をかけた。
「そうだ、ゼインよ。少し我が家に寄っていけ。子どもたちのためにな、持たせたいものがある」
「……助かる」
ゼインが頷くと、リオはゆっくりと歩き出し、村の中心近くにある自宅へと案内してくれた。
小ぢんまりとした家だったが、中は清潔で暖かみがあった。台所には保存食や干した野菜、薬草などが整然と並び、リオは慣れた手つきで籠に食材を詰めていく。
「これは芋と根菜、それと干し肉。ミアが育てた豆も少し残っておる……持っていけ」
「本当にいいのか?」
「あの子が託した命だ。お主に託されたのなら、わしも力を貸すだけよ。村人にも声をかけておいた。何か必要なら遠慮なく言え」
ゼインは一礼し、籠を受け取った。
「ありがとう、リオ……感謝する」
帰り道、ゼインの背に食材の詰まった籠はずしりと重かったが、それ以上に心の中に温もりが広がっていた。
小屋の扉を開けると、リリィとテオが顔を上げた。
「おかえりなさい!」
「今日のごはん、ある?」
「あるさ。今日はちょっとだけ豪華にするぞ」
ゼインは食材を広げると、手際よく調理を始めた。干し肉と根菜をスープにし、パンを温め、豆を和えた簡単なサラダを添える。
子どもたちは興奮気味にテーブルに並び、手を合わせる。
「いただきます!」
「おいしい!」
二人の笑顔があふれ、ゼインもふと頬を緩めた。
「明日から本格的に働くことになりそうだ。村の鍛冶屋で薪割りの仕事をする」
「がんばってね!」
テオが小さな拳を突き出し、ゼインはそれを軽く拳で返す。
こうして、ささやかな食卓と温かな時間の中で、ゼインの“家族”としての一日目は静かに暮れていった。
*
翌朝、ゼインはまだ眠るリリィとテオをそっと残し、小屋を出た。
リオから紹介された鍛冶屋――ヴァルドの元を訪ねるため、村の北側にある作業場へ向かう。村の中心から少し外れた場所にあるそれは、鉄と煙の匂いに満ち、静かな村の中では異質なほどに力強い気配を放っていた。
「ここか……」
近づくと、金属を打つ乾いた音が鳴り響いてくる。そのリズムには技術と集中が宿っており、ゼインは思わず一歩足を止めた。
「誰だ」
不意に響いた低く太い声。扉が開き、現れたのは屈強な男だった。鍛え抜かれた腕と、煤で黒くなった顔。それでも眼光は鋭く、ゼインを一瞥するだけで何者かを見極めようとする眼だった。
「ゼインだ。リオに紹介されて来た。薪割りの仕事を頼まれてる」
「……ふん、リオの口利きなら断れねぇな。だが、手を抜くようなやつは要らねえぞ」
「安心しろ。そういう性分じゃない」
短いやりとりの中にも、互いの視線には探るような気配があった。
だが、それも束の間。
ヴァルドは無言で斧をゼインに手渡すと、薪の山を顎で示した。
「割って、積め。それだけだ」
ゼインは無言で頷くと、斧を肩に担ぎ、作業に取りかかる。
乾いた音が何度も響く。斧の扱いは初めてではない。
元スパイとして、サバイバルに必要な技術は一通り叩き込まれていた。
リズムを掴み、無駄のない動きで薪を割っていく。
ふと、背後で唸るような声が聞こえた。
「……お前、本当に素人か?」
「昔、似たようなことはしたことがある」
ヴァルドはそれ以上何も言わず、だがどこか満足げに腕を組んで見守っていた。
昼頃、作業を終えたゼインは、ヴァルドから銅貨を3枚受け取る。
「礼はこれだけだ。だが、悪くねぇ働きだった」
「十分だ。助かる」
パンをかじりながら作業場を後にしようとしたその時、
ヴァルドが背中越しに声をかけた。
「ガキども、笑ってやがるか?」
ゼインは一瞬立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「……少しずつ、な」
ヴァルドは鼻で笑い、何も言わずに再び鉄を打ち始めた。
*
小屋に戻ると、リリィとテオが迎えてくれた。
テオは小さな手で作った粘土の動物を見せ、リリィは庭で摘んだ花を胸に飾っている。
「おかえりなさい!」
「今日はパン、焼いたよ!」
ゼインは彼らの笑顔に、疲れが少しずつ和らいでいくのを感じた。
「そうか……ありがとう。今日はいい日だったな」
小さな平穏の中に、確かな絆が育ちつつあった。
異世界での生活は、決して楽ではない。
だが、少しずつ、“ここにいる意味”が形になり始めていた。
「そうだ、ゼインよ。少し我が家に寄っていけ。子どもたちのためにな、持たせたいものがある」
「……助かる」
ゼインが頷くと、リオはゆっくりと歩き出し、村の中心近くにある自宅へと案内してくれた。
小ぢんまりとした家だったが、中は清潔で暖かみがあった。台所には保存食や干した野菜、薬草などが整然と並び、リオは慣れた手つきで籠に食材を詰めていく。
「これは芋と根菜、それと干し肉。ミアが育てた豆も少し残っておる……持っていけ」
「本当にいいのか?」
「あの子が託した命だ。お主に託されたのなら、わしも力を貸すだけよ。村人にも声をかけておいた。何か必要なら遠慮なく言え」
ゼインは一礼し、籠を受け取った。
「ありがとう、リオ……感謝する」
帰り道、ゼインの背に食材の詰まった籠はずしりと重かったが、それ以上に心の中に温もりが広がっていた。
小屋の扉を開けると、リリィとテオが顔を上げた。
「おかえりなさい!」
「今日のごはん、ある?」
「あるさ。今日はちょっとだけ豪華にするぞ」
ゼインは食材を広げると、手際よく調理を始めた。干し肉と根菜をスープにし、パンを温め、豆を和えた簡単なサラダを添える。
子どもたちは興奮気味にテーブルに並び、手を合わせる。
「いただきます!」
「おいしい!」
二人の笑顔があふれ、ゼインもふと頬を緩めた。
「明日から本格的に働くことになりそうだ。村の鍛冶屋で薪割りの仕事をする」
「がんばってね!」
テオが小さな拳を突き出し、ゼインはそれを軽く拳で返す。
こうして、ささやかな食卓と温かな時間の中で、ゼインの“家族”としての一日目は静かに暮れていった。
*
翌朝、ゼインはまだ眠るリリィとテオをそっと残し、小屋を出た。
リオから紹介された鍛冶屋――ヴァルドの元を訪ねるため、村の北側にある作業場へ向かう。村の中心から少し外れた場所にあるそれは、鉄と煙の匂いに満ち、静かな村の中では異質なほどに力強い気配を放っていた。
「ここか……」
近づくと、金属を打つ乾いた音が鳴り響いてくる。そのリズムには技術と集中が宿っており、ゼインは思わず一歩足を止めた。
「誰だ」
不意に響いた低く太い声。扉が開き、現れたのは屈強な男だった。鍛え抜かれた腕と、煤で黒くなった顔。それでも眼光は鋭く、ゼインを一瞥するだけで何者かを見極めようとする眼だった。
「ゼインだ。リオに紹介されて来た。薪割りの仕事を頼まれてる」
「……ふん、リオの口利きなら断れねぇな。だが、手を抜くようなやつは要らねえぞ」
「安心しろ。そういう性分じゃない」
短いやりとりの中にも、互いの視線には探るような気配があった。
だが、それも束の間。
ヴァルドは無言で斧をゼインに手渡すと、薪の山を顎で示した。
「割って、積め。それだけだ」
ゼインは無言で頷くと、斧を肩に担ぎ、作業に取りかかる。
乾いた音が何度も響く。斧の扱いは初めてではない。
元スパイとして、サバイバルに必要な技術は一通り叩き込まれていた。
リズムを掴み、無駄のない動きで薪を割っていく。
ふと、背後で唸るような声が聞こえた。
「……お前、本当に素人か?」
「昔、似たようなことはしたことがある」
ヴァルドはそれ以上何も言わず、だがどこか満足げに腕を組んで見守っていた。
昼頃、作業を終えたゼインは、ヴァルドから銅貨を3枚受け取る。
「礼はこれだけだ。だが、悪くねぇ働きだった」
「十分だ。助かる」
パンをかじりながら作業場を後にしようとしたその時、
ヴァルドが背中越しに声をかけた。
「ガキども、笑ってやがるか?」
ゼインは一瞬立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「……少しずつ、な」
ヴァルドは鼻で笑い、何も言わずに再び鉄を打ち始めた。
*
小屋に戻ると、リリィとテオが迎えてくれた。
テオは小さな手で作った粘土の動物を見せ、リリィは庭で摘んだ花を胸に飾っている。
「おかえりなさい!」
「今日はパン、焼いたよ!」
ゼインは彼らの笑顔に、疲れが少しずつ和らいでいくのを感じた。
「そうか……ありがとう。今日はいい日だったな」
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だが、少しずつ、“ここにいる意味”が形になり始めていた。
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