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22:セドリック(義兄)side①
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俺が目を覚ましたのは、なぜかいつもより二時間も遅い時間だった。
それも自ら起きたのではない。専属侍従のリックが何度も何度も声をかけ、しまいには体を強く揺さぶったことで、ようやく目を覚ましたのだ。
しかも、まだ眠い。体が怠い。頭がなかなか上手く働いてくれない。
普段は寝汚いなどということはないのに、どうしたんだ? 体調が悪いのか?
ボンヤリしながら首の後に手を当てていると、リックが見たことのないほど焦った様子で報告してきたその内容に、俺の頭が一気に覚醒した。
「クリスが……行方不明、だと?!」
慌ててにベッドから跳ね起きた時、シーツに少量の血の跡があることに気付いた。
なんだろう、寝ている間に肌を掻きむしりでもしただろうか。
一瞬だけ気になったものの、今はそれどころではないと急いで着替えをすませると、義父上の元へと足早に向った。
執務室の義父上は青い顔をして憔悴していた。
「義父上、クリスがいなくなったというのは本当ですか!」
「ああ、机の上にこの手紙があった」
受け取った手紙にすぐに目を通す。
そこにこのようなことが、クリスの美しい字で書かれてあった。
ティルマン有責と言えど婚約破棄して傷物となった自分には、今後まともな縁談がこないだろうこと。
政略結婚の駒にもなれない自分は、ギレンセン侯爵家にとってお荷物でしかないこと。
このまま家に留まっていては家門の恥となること。
優しい父と義兄なら、気にせずずっと家にいていいと言ってくれるだろうこと。
それがとても心苦しいこと。
だから黙って出て行くことにしたこと。
修道院に入るから今後の生活の心配はいらないこと、探さないで欲しいこと。
どこにいてもなにをしていても、愛する父と義兄の幸せを願っていること。
「くそっ、わたしは父親失格だ! あの子がそんなに悩み苦しんでいたなんて、気付きもしなかった!」
悔し気に机を殴る義父上と俺も同じ気持ちだ。
クリス、君がお荷物だなんて、そんなことはあり得ない。
まともな縁談がこないだなんて、そんなはずがない。
なぜなら俺は、ほとぼりが冷めた頃に時期をみて、クリスに求婚するつもりだったらだ。
この侯爵家の養子になって、初めて会った時からクリスが好きだった。見た目のかわいさ、美しさだけでなく、心根の清廉さ優しさに強く惹かれた。
婚約者がいることを知っていたから、諦めようと思った。けれど、何年経ってもクリスへの想いは深まるばかりで、消えてくれようとはしなかった。
気持ちを伝えるつもりはなかった。
クリスはティルマンに好意を持っているように見えたし、告白することで義兄として慕ってくれる気持ちがクリスから失われることが恐かったからだ。
クリスの婚約が破棄された時、ティルマンへの怒りもあったが、なによりクリスが一人身になったことで、俺にもクリスを手に入れるチャンスが訪れたことに歓喜した。
すぐに義父上に自分の気持ちを告げて、クリスにプロポーズする許可を請うた。
義父上は肩を竦めながら苦笑した。
「求婚は許そう。クリスを大切に想うセドリックの気持ちは以前から知っていたからね。しかし、今はまだ破婚直後でクリスの心は傷ついている。今すぐ求婚して良い返事がもらえても、それは弱っているところに付け込むようなものだ。もう少し時間が経って、あの子の気持ちが落ち着いてから求婚するといい」
「はい、ありがとうございます!」
俺はこれまで以上にクリスとの時間を作った。俺を一人の男としてクリスが好きになってくれるよう、プロポーズした時に良い返事をもらえるよう、できる限りの努力をし続けた。
そして、そろそろ求婚しようと思っていた矢先の出来事だった。
クリスが失踪し、行方をくらませたのは。
*************************************
クリスは完全には自分の痕跡(破瓜の証)を消せていなかったようです。
慌ててたし、ベッドにはセドリックが寝ている状態だったし、仕方ないですね。
それも自ら起きたのではない。専属侍従のリックが何度も何度も声をかけ、しまいには体を強く揺さぶったことで、ようやく目を覚ましたのだ。
しかも、まだ眠い。体が怠い。頭がなかなか上手く働いてくれない。
普段は寝汚いなどということはないのに、どうしたんだ? 体調が悪いのか?
ボンヤリしながら首の後に手を当てていると、リックが見たことのないほど焦った様子で報告してきたその内容に、俺の頭が一気に覚醒した。
「クリスが……行方不明、だと?!」
慌ててにベッドから跳ね起きた時、シーツに少量の血の跡があることに気付いた。
なんだろう、寝ている間に肌を掻きむしりでもしただろうか。
一瞬だけ気になったものの、今はそれどころではないと急いで着替えをすませると、義父上の元へと足早に向った。
執務室の義父上は青い顔をして憔悴していた。
「義父上、クリスがいなくなったというのは本当ですか!」
「ああ、机の上にこの手紙があった」
受け取った手紙にすぐに目を通す。
そこにこのようなことが、クリスの美しい字で書かれてあった。
ティルマン有責と言えど婚約破棄して傷物となった自分には、今後まともな縁談がこないだろうこと。
政略結婚の駒にもなれない自分は、ギレンセン侯爵家にとってお荷物でしかないこと。
このまま家に留まっていては家門の恥となること。
優しい父と義兄なら、気にせずずっと家にいていいと言ってくれるだろうこと。
それがとても心苦しいこと。
だから黙って出て行くことにしたこと。
修道院に入るから今後の生活の心配はいらないこと、探さないで欲しいこと。
どこにいてもなにをしていても、愛する父と義兄の幸せを願っていること。
「くそっ、わたしは父親失格だ! あの子がそんなに悩み苦しんでいたなんて、気付きもしなかった!」
悔し気に机を殴る義父上と俺も同じ気持ちだ。
クリス、君がお荷物だなんて、そんなことはあり得ない。
まともな縁談がこないだなんて、そんなはずがない。
なぜなら俺は、ほとぼりが冷めた頃に時期をみて、クリスに求婚するつもりだったらだ。
この侯爵家の養子になって、初めて会った時からクリスが好きだった。見た目のかわいさ、美しさだけでなく、心根の清廉さ優しさに強く惹かれた。
婚約者がいることを知っていたから、諦めようと思った。けれど、何年経ってもクリスへの想いは深まるばかりで、消えてくれようとはしなかった。
気持ちを伝えるつもりはなかった。
クリスはティルマンに好意を持っているように見えたし、告白することで義兄として慕ってくれる気持ちがクリスから失われることが恐かったからだ。
クリスの婚約が破棄された時、ティルマンへの怒りもあったが、なによりクリスが一人身になったことで、俺にもクリスを手に入れるチャンスが訪れたことに歓喜した。
すぐに義父上に自分の気持ちを告げて、クリスにプロポーズする許可を請うた。
義父上は肩を竦めながら苦笑した。
「求婚は許そう。クリスを大切に想うセドリックの気持ちは以前から知っていたからね。しかし、今はまだ破婚直後でクリスの心は傷ついている。今すぐ求婚して良い返事がもらえても、それは弱っているところに付け込むようなものだ。もう少し時間が経って、あの子の気持ちが落ち着いてから求婚するといい」
「はい、ありがとうございます!」
俺はこれまで以上にクリスとの時間を作った。俺を一人の男としてクリスが好きになってくれるよう、プロポーズした時に良い返事をもらえるよう、できる限りの努力をし続けた。
そして、そろそろ求婚しようと思っていた矢先の出来事だった。
クリスが失踪し、行方をくらませたのは。
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クリスは完全には自分の痕跡(破瓜の証)を消せていなかったようです。
慌ててたし、ベッドにはセドリックが寝ている状態だったし、仕方ないですね。
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