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第3話(1)
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速やかに課題に道筋を付けなければならないと決心したアレクサンドラは、翌日さっそくやるべきことを順序立てた。
今回の事件の温床になった台帳の取り扱いについては、照合作業を経る手続が多いため、まず台帳の管理部門に問題点の洗い出しと課題共有を行わせる計画にし、それを公証内での最優先事項とした。
その内容をもとに、必要に応じてルール変更も行った上で、照合作業を経る手続に関わる全部署に周知・徹底を図る。
また、以前から進めている見直しについては、まだ終わっていないものはできるだけ早めに着地点を見い出させることとした。
それから、肝心の窓口新設については、アレクサンドラが上役達からの意見を加えて整理した項目について、各部署から手続に長けた者を集めて特別作業班を設けることを考えた。
打ち合わせを週に1回設け、項目はあるもののゼロからの検討を、どうすれば実現可能かという視点で組み立てていく場にする。
上役達の反応は後ろ向きだったが、だからといって断念するわけにはいかない、何もする前から諦めるのは主義に反するとアレクサンドラは決心したが、かつて最も心を重くした職員からの抵抗感の表明がまた訪れると思うと、同じことを繰り返しているという嘆きが胸に押し寄せるのだった。
アレクサンドラの指示は、継続中の見直し作業については粛々と受け入れられたが、窓口新設についてはまず、そもそも特別作業班の人選が難航した。
各部署で優秀な人材をというオーダーに対し、そのような者は各部署の主力であり、週1回とはいえ長時間抜けられるのは影響が大きい、という声が上役達から上がった。
打ち合わせの外でも、そのための準備を求められて拘束時間が増え、部署の業務が疎かになり、その者にも負担がかかるという主張だった。
主力とはいえ、1人が1週間に1度数時間抜けただけで影響が出るのは、元々業務が偏りすぎてはいるせいではないか、とアレクサンドラは訝った。
それのその者達が休暇を取るなどして不在の場合はどう対応しているのか、支援体制はどうなっているのかと疑問がさまざまに浮かんだが、その点で争うのは無益だと諦め、打ち合わせ時間を2時間以内に限り、かつ事前準備は一切不要と条件を付けて、やっと人選の段階に移行した。
アレクサンドラは頭を痛めながら、打ち合わせの進め方を再考し、アレクサンドラが各項目について作成した案について、各人からその場で意見をもらう方法に変更した。
議論の質は下がってしまうだろうが、検討の場を設置しないことには、そもそも議論を始められない。
人が何とか集まり、打ち合わせの体裁は整ったが、予想通り進行は遅々とした。
最初に諮ったのは窓口に持たせる機能の範囲であり、認証作業以外を除く全てとしたアレクサンドラの案には、「どうすれば実現可能か」という角度ではない問題点の提起が口々になされた。
上役達から既に得ていた内容と同じであり、アレクサンドラはそれらがどうすれば解決に向かうかについてアイディアを得たかったのだが、聞いているととにかくできない理由の羅列であり、検討とは言えない非建設的なものだった。
このままでは埒が明かないと、
「一番の問題を敢えて挙げるなら何になるかしら」
と場に問いかけてみると、数人が「全部では」と顔を見合わせ呟く中で、あまり発言をしていなかった中堅が、「やはり職員の問題でしょうなあ」と唸るように応じた。
「職員。数かしら」
「ええ。もし、今の体制からその窓口に職員を何人も割いて派遣するのであれば、交渉の仕事は正直なところ停滞します。残された職員数では回らなくなるでしょう。
かといって、新たに職員を採用してとなると教育するのに非常に時間がかかります。数年、あるいは10年単位で考えなければなりますまい。そして育つ間、既存の者を派遣するとなると同じ結果になります。
窓口が帝都から遠いのであれば、もし疑義があってもその場で答えられる者がいない、そうなるとやはり手続を熟知している者が赴かなければなりませんが、現状を前提に考えた場合、これでもまた同じ結果になります」
中堅は状況を指折り数えながら答え、「将来的にはともかく、すぐの実現は非常に難しいと言わざるを得ません」と締め括った。
「では、まずは採用を増やすところから、ということね」
「その点が何と申しますか、難航が予想されるところと申しますか、現状でも難航しております」
と、人事部門から来ている中堅が控えめに手を挙げた。
「というと?」
「そうでございますね、非常に申し上げにくいのですが、その、先般の事件が響いておりまして……」
「いいのよ、遠慮しないで言って頂戴」
「はい、では……先般の事件を機に辞職した者が、ここ数十年では最大規模になる人数となりまして。当然その補充を試み、ておりますが、実のところ応募数が芳しくないのです。
公証は元々、職員の募集はあまり行わないのと、募集しても待遇が良いため応募者の確保では苦労したことがなかったのですが、その、恐らく公証の人間だというレッテルを気にして、申し込んで来ないのかも、と部署内では話しております」
「待遇を引き上げて募集すれば状況は変わるかしら」
「金銭面については、そうでございますね、応募は増えるかと思われます。ただ、その場合は既に在籍している職員とのバランスを図る必要があるかと……」
「皆の分も引き上げるということね?」
「はい、恐れながら」
検討の場も、窓口設置自体についても、悩みの種は人に結実するのかという失望を、アレクサンドラは顔に出さないようにしながら、「待遇の引き上げについては実施する方向で次回までに私が検討します。皆は、新しく人を雇い入れることが前提で、次回の話し合いが始まるものだと思っていて頂戴」と宣言し、予定の2時間を30分以上残して散会させた。
今回の事件の温床になった台帳の取り扱いについては、照合作業を経る手続が多いため、まず台帳の管理部門に問題点の洗い出しと課題共有を行わせる計画にし、それを公証内での最優先事項とした。
その内容をもとに、必要に応じてルール変更も行った上で、照合作業を経る手続に関わる全部署に周知・徹底を図る。
また、以前から進めている見直しについては、まだ終わっていないものはできるだけ早めに着地点を見い出させることとした。
それから、肝心の窓口新設については、アレクサンドラが上役達からの意見を加えて整理した項目について、各部署から手続に長けた者を集めて特別作業班を設けることを考えた。
打ち合わせを週に1回設け、項目はあるもののゼロからの検討を、どうすれば実現可能かという視点で組み立てていく場にする。
上役達の反応は後ろ向きだったが、だからといって断念するわけにはいかない、何もする前から諦めるのは主義に反するとアレクサンドラは決心したが、かつて最も心を重くした職員からの抵抗感の表明がまた訪れると思うと、同じことを繰り返しているという嘆きが胸に押し寄せるのだった。
アレクサンドラの指示は、継続中の見直し作業については粛々と受け入れられたが、窓口新設についてはまず、そもそも特別作業班の人選が難航した。
各部署で優秀な人材をというオーダーに対し、そのような者は各部署の主力であり、週1回とはいえ長時間抜けられるのは影響が大きい、という声が上役達から上がった。
打ち合わせの外でも、そのための準備を求められて拘束時間が増え、部署の業務が疎かになり、その者にも負担がかかるという主張だった。
主力とはいえ、1人が1週間に1度数時間抜けただけで影響が出るのは、元々業務が偏りすぎてはいるせいではないか、とアレクサンドラは訝った。
それのその者達が休暇を取るなどして不在の場合はどう対応しているのか、支援体制はどうなっているのかと疑問がさまざまに浮かんだが、その点で争うのは無益だと諦め、打ち合わせ時間を2時間以内に限り、かつ事前準備は一切不要と条件を付けて、やっと人選の段階に移行した。
アレクサンドラは頭を痛めながら、打ち合わせの進め方を再考し、アレクサンドラが各項目について作成した案について、各人からその場で意見をもらう方法に変更した。
議論の質は下がってしまうだろうが、検討の場を設置しないことには、そもそも議論を始められない。
人が何とか集まり、打ち合わせの体裁は整ったが、予想通り進行は遅々とした。
最初に諮ったのは窓口に持たせる機能の範囲であり、認証作業以外を除く全てとしたアレクサンドラの案には、「どうすれば実現可能か」という角度ではない問題点の提起が口々になされた。
上役達から既に得ていた内容と同じであり、アレクサンドラはそれらがどうすれば解決に向かうかについてアイディアを得たかったのだが、聞いているととにかくできない理由の羅列であり、検討とは言えない非建設的なものだった。
このままでは埒が明かないと、
「一番の問題を敢えて挙げるなら何になるかしら」
と場に問いかけてみると、数人が「全部では」と顔を見合わせ呟く中で、あまり発言をしていなかった中堅が、「やはり職員の問題でしょうなあ」と唸るように応じた。
「職員。数かしら」
「ええ。もし、今の体制からその窓口に職員を何人も割いて派遣するのであれば、交渉の仕事は正直なところ停滞します。残された職員数では回らなくなるでしょう。
かといって、新たに職員を採用してとなると教育するのに非常に時間がかかります。数年、あるいは10年単位で考えなければなりますまい。そして育つ間、既存の者を派遣するとなると同じ結果になります。
窓口が帝都から遠いのであれば、もし疑義があってもその場で答えられる者がいない、そうなるとやはり手続を熟知している者が赴かなければなりませんが、現状を前提に考えた場合、これでもまた同じ結果になります」
中堅は状況を指折り数えながら答え、「将来的にはともかく、すぐの実現は非常に難しいと言わざるを得ません」と締め括った。
「では、まずは採用を増やすところから、ということね」
「その点が何と申しますか、難航が予想されるところと申しますか、現状でも難航しております」
と、人事部門から来ている中堅が控えめに手を挙げた。
「というと?」
「そうでございますね、非常に申し上げにくいのですが、その、先般の事件が響いておりまして……」
「いいのよ、遠慮しないで言って頂戴」
「はい、では……先般の事件を機に辞職した者が、ここ数十年では最大規模になる人数となりまして。当然その補充を試み、ておりますが、実のところ応募数が芳しくないのです。
公証は元々、職員の募集はあまり行わないのと、募集しても待遇が良いため応募者の確保では苦労したことがなかったのですが、その、恐らく公証の人間だというレッテルを気にして、申し込んで来ないのかも、と部署内では話しております」
「待遇を引き上げて募集すれば状況は変わるかしら」
「金銭面については、そうでございますね、応募は増えるかと思われます。ただ、その場合は既に在籍している職員とのバランスを図る必要があるかと……」
「皆の分も引き上げるということね?」
「はい、恐れながら」
検討の場も、窓口設置自体についても、悩みの種は人に結実するのかという失望を、アレクサンドラは顔に出さないようにしながら、「待遇の引き上げについては実施する方向で次回までに私が検討します。皆は、新しく人を雇い入れることが前提で、次回の話し合いが始まるものだと思っていて頂戴」と宣言し、予定の2時間を30分以上残して散会させた。
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