続・公証長サーシャの通過点―巻き戻れなくとも自分に負けずに生きる

蜂須賀漆

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第9話(2)

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それから、アレクサンドラは彼女らしくなく訥々(とつとつ)と、結婚後今日に至るまで、胸に積もらせて来たことを語った。
言い淀むところは、ニコライに促されて努めて続けるようだった。

公証の信頼回復としてなせる取組が限られていること
窓口の設置については誰もが実現不可だと口を揃えていること
不可という要素を1つずつ対策しようとしても、それぞれが阻まれたこと
"運動"が必要だと言うので、思い切ってサロンに参じたが、元老院への渡りを考える余裕すらなかったこと
多くの方々、者達から快く思われていないこと
このままではとても爵位は継げないこと
それから、公証にかかりきりで、妻としての振る舞いが疎かになっていること

ないがしろにしている、と母から咎められたことは、ニコライへの申し訳なさで胸がいっぱいになり口に出せなかった。
陛下の第一子であり、立派な人である夫に至らぬ妻であることを自白するのは辛く、皇太子候補から離脱することを敢えて選択してくれた夫に対する羞恥の思いが溢れた。

ハンカチで目元を拭うアレクサンドラに胸を痛め、妻の肩を擦りながらニコライは思考を巡らせる。
状況は大体理解した。
公証に関しては、彼女ほどの細かい理解には到底及んでいないが、彼女の計画を完遂するには、制度を設計する知力と、それを実現させるための工作力、そして悠長に構える心の余裕が必要だという感想を抱いた。
我が妻は知力は全く問題がないものの、その遂行について急ぎ過ぎているきらいがあると感じられた。
彼女が考えた案というのは完璧であろうし、周りがノーを突き付けるなど言語道断だと憤りは覚えたものの、他方でその周りが彼女の知力に着いていけていないことを察知できないほど盲目ではなかった。
皇太子候補として修めた帝王学においても、施策を入れるのに、それを動かす臣下と、適用を受ける人民を置き去りにすると、どんなに内容が良好でも歪みが起こるとされていた。
窓口の設置の方は近年稀に見る新しい取組であり、影響範囲が大きい。
それをとにかく迅速に導入しようといくら奮闘しても、まず"臣下"の段階で滞るのはある意味自然だと思われた。
信頼回復の対策を同時並行で進めなければならない今は尚更であった。
また、政策決定には元老院が関与することは、アレクサンドラは当然承知していただろうが、実際に元老院に政策を通させるまでにどう立ち回る必要があるのかまでは知らなかったのではと思われた。

あるべき形かどうかは疑義があるものの、帝国では、元老院の構成員への働きかけ、それも政策の必要性がどれほど高いかというより、王家の威厳を高めるのに資するか、国に金を生むか、庶民を過剰に利さないかを中心に、構成員に時間を取らせず、内容を理解できる程度に砕いて説かなければならない。
彼らは政務以外にも働きかけの数も多く多忙であり、くどい説明は嫌われがちであった。
ゆえに、先に夫人や子女、親族、親しい友人などに口添えをしてもらい、情に訴えるやり方を取るのが普通であって、まずこれを経ないと面会の時間さえ確保できなかった。
贈収賄については厳罰が科せられるため見える形で行う者は当然いないが、便宜供与が全く行われていないかどうかは疑わしいところであった。

そしてこのような謎の前捌きを、元老院5人に対して行わなければならない。
そのような正当とは言い難い綱渡りを、知識としての理解はしても、実践に移すのはまた別な話である。
それでも、彼女が志を通したいなら避けて通れない"形式"であることは間違いがなかった。
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