22 / 82
第9話(2)
しおりを挟む
それから、アレクサンドラは彼女らしくなく訥々(とつとつ)と、結婚後今日に至るまで、胸に積もらせて来たことを語った。
言い淀むところは、ニコライに促されて努めて続けるようだった。
公証の信頼回復としてなせる取組が限られていること
窓口の設置については誰もが実現不可だと口を揃えていること
不可という要素を1つずつ対策しようとしても、それぞれが阻まれたこと
"運動"が必要だと言うので、思い切ってサロンに参じたが、元老院への渡りを考える余裕すらなかったこと
多くの方々、者達から快く思われていないこと
このままではとても爵位は継げないこと
それから、公証にかかりきりで、妻としての振る舞いが疎かになっていること
ないがしろにしている、と母から咎められたことは、ニコライへの申し訳なさで胸がいっぱいになり口に出せなかった。
陛下の第一子であり、立派な人である夫に至らぬ妻であることを自白するのは辛く、皇太子候補から離脱することを敢えて選択してくれた夫に対する羞恥の思いが溢れた。
ハンカチで目元を拭うアレクサンドラに胸を痛め、妻の肩を擦りながらニコライは思考を巡らせる。
状況は大体理解した。
公証に関しては、彼女ほどの細かい理解には到底及んでいないが、彼女の計画を完遂するには、制度を設計する知力と、それを実現させるための工作力、そして悠長に構える心の余裕が必要だという感想を抱いた。
我が妻は知力は全く問題がないものの、その遂行について急ぎ過ぎているきらいがあると感じられた。
彼女が考えた案というのは完璧であろうし、周りがノーを突き付けるなど言語道断だと憤りは覚えたものの、他方でその周りが彼女の知力に着いていけていないことを察知できないほど盲目ではなかった。
皇太子候補として修めた帝王学においても、施策を入れるのに、それを動かす臣下と、適用を受ける人民を置き去りにすると、どんなに内容が良好でも歪みが起こるとされていた。
窓口の設置の方は近年稀に見る新しい取組であり、影響範囲が大きい。
それをとにかく迅速に導入しようといくら奮闘しても、まず"臣下"の段階で滞るのはある意味自然だと思われた。
信頼回復の対策を同時並行で進めなければならない今は尚更であった。
また、政策決定には元老院が関与することは、アレクサンドラは当然承知していただろうが、実際に元老院に政策を通させるまでにどう立ち回る必要があるのかまでは知らなかったのではと思われた。
あるべき形かどうかは疑義があるものの、帝国では、元老院の構成員への働きかけ、それも政策の必要性がどれほど高いかというより、王家の威厳を高めるのに資するか、国に金を生むか、庶民を過剰に利さないかを中心に、構成員に時間を取らせず、内容を理解できる程度に砕いて説かなければならない。
彼らは政務以外にも働きかけの数も多く多忙であり、くどい説明は嫌われがちであった。
ゆえに、先に夫人や子女、親族、親しい友人などに口添えをしてもらい、情に訴えるやり方を取るのが普通であって、まずこれを経ないと面会の時間さえ確保できなかった。
贈収賄については厳罰が科せられるため見える形で行う者は当然いないが、便宜供与が全く行われていないかどうかは疑わしいところであった。
そしてこのような謎の前捌きを、元老院5人に対して行わなければならない。
そのような正当とは言い難い綱渡りを、知識としての理解はしても、実践に移すのはまた別な話である。
それでも、彼女が志を通したいなら避けて通れない"形式"であることは間違いがなかった。
言い淀むところは、ニコライに促されて努めて続けるようだった。
公証の信頼回復としてなせる取組が限られていること
窓口の設置については誰もが実現不可だと口を揃えていること
不可という要素を1つずつ対策しようとしても、それぞれが阻まれたこと
"運動"が必要だと言うので、思い切ってサロンに参じたが、元老院への渡りを考える余裕すらなかったこと
多くの方々、者達から快く思われていないこと
このままではとても爵位は継げないこと
それから、公証にかかりきりで、妻としての振る舞いが疎かになっていること
ないがしろにしている、と母から咎められたことは、ニコライへの申し訳なさで胸がいっぱいになり口に出せなかった。
陛下の第一子であり、立派な人である夫に至らぬ妻であることを自白するのは辛く、皇太子候補から離脱することを敢えて選択してくれた夫に対する羞恥の思いが溢れた。
ハンカチで目元を拭うアレクサンドラに胸を痛め、妻の肩を擦りながらニコライは思考を巡らせる。
状況は大体理解した。
公証に関しては、彼女ほどの細かい理解には到底及んでいないが、彼女の計画を完遂するには、制度を設計する知力と、それを実現させるための工作力、そして悠長に構える心の余裕が必要だという感想を抱いた。
我が妻は知力は全く問題がないものの、その遂行について急ぎ過ぎているきらいがあると感じられた。
彼女が考えた案というのは完璧であろうし、周りがノーを突き付けるなど言語道断だと憤りは覚えたものの、他方でその周りが彼女の知力に着いていけていないことを察知できないほど盲目ではなかった。
皇太子候補として修めた帝王学においても、施策を入れるのに、それを動かす臣下と、適用を受ける人民を置き去りにすると、どんなに内容が良好でも歪みが起こるとされていた。
窓口の設置の方は近年稀に見る新しい取組であり、影響範囲が大きい。
それをとにかく迅速に導入しようといくら奮闘しても、まず"臣下"の段階で滞るのはある意味自然だと思われた。
信頼回復の対策を同時並行で進めなければならない今は尚更であった。
また、政策決定には元老院が関与することは、アレクサンドラは当然承知していただろうが、実際に元老院に政策を通させるまでにどう立ち回る必要があるのかまでは知らなかったのではと思われた。
あるべき形かどうかは疑義があるものの、帝国では、元老院の構成員への働きかけ、それも政策の必要性がどれほど高いかというより、王家の威厳を高めるのに資するか、国に金を生むか、庶民を過剰に利さないかを中心に、構成員に時間を取らせず、内容を理解できる程度に砕いて説かなければならない。
彼らは政務以外にも働きかけの数も多く多忙であり、くどい説明は嫌われがちであった。
ゆえに、先に夫人や子女、親族、親しい友人などに口添えをしてもらい、情に訴えるやり方を取るのが普通であって、まずこれを経ないと面会の時間さえ確保できなかった。
贈収賄については厳罰が科せられるため見える形で行う者は当然いないが、便宜供与が全く行われていないかどうかは疑わしいところであった。
そしてこのような謎の前捌きを、元老院5人に対して行わなければならない。
そのような正当とは言い難い綱渡りを、知識としての理解はしても、実践に移すのはまた別な話である。
それでも、彼女が志を通したいなら避けて通れない"形式"であることは間違いがなかった。
0
あなたにおすすめの小説
学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。
さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。
聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。
だが、辺境の村で暮らす中で気づく。
私の力は奇跡を起こすものではなく、
壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。
一方、聖女として祭り上げられた彼女は、
人々の期待に応え続けるうち、
世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
村娘あがりの娼婦ですが、身請けされて幸せです
春月もも
恋愛
村を飛び出して王都に来たリリアは、いまは高級娼婦として生きている。
ここは通過点のはずだった。
誰かに選ばれて終わる物語なんて、わたしには関係ないと思っていたのに。
触れない客。
身体ではなく、わたしの話を聞きに来るだけの商人。
「君と話す時間を、金で買うのが嫌になった」
突然の身請け話。
値札のついた自分と向き合う三日間。
選ばれるのではなく選ぶと決めたとき、
通過点は終わりになる。
これは救いではなく対等な恋の話。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
【魔女と蔑まれた私。実は神託の聖女でした?-命を弄ぶ回復魔法使いと蔑まれた私の物語-】
はくら(仮名)
恋愛
・本作は別名義で『小説家になろう』にも掲載しています。
・早めに終わります。
【 レアフ伯爵家の令嬢ユキアは回復魔法が得意だったが、義父家族からは命を弄ぶ魔女として蔑まれてしまう。
しかし実はユキアは女神の神託を受けた『運命の聖女』であり、そのことを知った王太子が彼女の元を訪れる――】
君は恋人、でもまだ家族じゃない
山田森湖
恋愛
あらすじ
同棲して3年。
毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、
一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。
彼女は彼を愛している。
彼も自分を愛してくれていると信じている。
それでも、胸の奥には消えない不安がある。
「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」
結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。
最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。
周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。
幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には
“言えない言葉”だけが増えていく。
愛している。
でも、それだけでは前に進めない。
同棲という甘い日常の裏で、
少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。
このまま時間に流されるだけの恋なのか、
それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。
彼の寝息を聞きながら、
彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい
和泉鷹央
恋愛
王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。
そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。
「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」
「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」
「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」
「えっ……!?」
「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」
しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。
でも、コンスタンスは見てしまった。
朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……
他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる