続・公証長サーシャの通過点―巻き戻れなくとも自分に負けずに生きる

蜂須賀漆

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第10話(1)

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久しぶりに涙したのが祟ったのか、アレクサンドラは発熱し、終日枕に頭を付ける羽目になった。
公証での予定があり起き上がろうとしたが、目が笑っていないニコライに押し留められて、メイド長からは絶対安静を告げられた。
仕方なく横たわりながら考えを巡らせるが、どうしても断片的になり、書き留めてもおけずに脳内をただ過ぎていく。

ニコライの前で取り乱したのは初めてかと思ったが、記憶が、王宮での婚約申し出の景色を連れ出して来た。
同じ申し出は、巻き戻った直後のごく幼い頃にもそういえばあったと、羽根の上掛けの中に鼻まで埋める。
前2回は王子に対しての不敬が伴っていたが、それがなくなった今でも、貴族の子女としての無作法への羞恥は変わらない。
ニコライは公証の人ではないのに、内情を聞かせて耳を煩わせてしまった。
もっと早く傾聴すれば良かったと謝られ、アレクサンドラは逆に惨めになった。

しかし、ニコライとの話からはいろいろと得られることがあった。
アレクサンドラは生まれた時から公証長と伯爵位が暫定ではあるが予定されていた子であり、組織経営や家名の維持に関わる知識は習得させられていたが、経済的に問題を抱えうるということは事実上の想定にはなく、父伯爵に財政上の指摘をされた時は、詐欺事件でそれほどの損失が発生したのかと、数字は尋ねなかったが少なからずショックを受けた。
王族のニコライから財源確保の定石を諭されるのは意外でもあり、一方で帝王学で第一に考えるべきこととされているのだろうか、と夫の俯瞰力に感心した。
いや、気が逸って視野が狭くなっていたのだろう、と反省の念が押し寄せる。
農夫婦との約束を早く履行したい、口だけの領主家と思われたくないという焦りで急いでしまったが、何のための窓口なのかを取り落としていた。
約束のためにではなく、認証を受けたい者の利便性を図るのが目的であって、そうならば早急さは抑えて然るべきだった。
己の未熟さに頭が痛いが、手遅れになる前に押し留められて幸いだったと、夫に感謝するとともに、父の苦言にも今更ながら感謝を覚えた。

財源については、一旦採用の件は保留にするしかないか、とぼんやり考える。
元々は人材確保ための副次的な案であり、今の職員達には申し訳ないが待ってもらうしかない。
そういえば、まだ渦中であり気が回らなかったが、ろくな労(ねぎら)いもしていないことに気が付く。
それに、人件費の面での支出増をなくしても、窓口を設置することの費用をどう捻出するかという問いはまだ想定された。
他の取組で、とニコライは言っていた。
既存の手続の手数料引き上げは今は考えられない、そうすると新しいものということになるが、そこまで思い浮かんだところで頭痛がして、アレクサンドラは寝返りを打った。
寝付いているのに深い思考をしようとしても中途半端になる。
快復したら公証の創設時からの記録を浚(さら)ってみようか、これも夫が気づかせてくれたことだと深く息を吐くと、控えていたメイドが、「お水を召し上がりますか」と寄って来た。
上体を起こしてもらうと頭痛が増し、喉を滑る水は酷く冷たく、自分の熱の高さが浮き立つようだった。
再び横になり、眠りが身を包み切るまでの間、ニコライもあの農夫婦と同じことを言ってくれたが、と緩慢に驚きを再現した。
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