続・公証長サーシャの通過点―巻き戻れなくとも自分に負けずに生きる

蜂須賀漆

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第10話(2)

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次の日は寛解したが、大事を取るよう宥めすかされて、致し方なくベッドで過ごしたが、代わりにオルロフの邸宅と公証の庁舎から歴史書を何冊か取り寄せて目を通した。
どれも1度読んだことのある本で、王命による設置であったものの、当初は困難があったことは既知であったため、当時の公証の者達がどのような苦労を感じ、難局を乗り切ったのかという視点で読み進めていった。
とはいえ、歴史書に登場人物の主観が綴られることなどほぼないため、自分の身に当てはめるようにして探っていく。
やはり、黎明期は王の名と貴族の力技で捻じ込むように臣民を従わせていたようで、とはいえ制度の仕組みそのものは難しくて市井に手は出せず、手続が煩雑だとか、金を取るのは横暴だとか、専ら直接影響が出る点に抗議は集中していた。
手続の方が次第に整理されて行ったが、手数料の方は税金の性質を持っているとして引き下げられたことはなく、逆に上がったり、強硬に改定したが革命的時流により元に戻さざるを得なかった例ばかりであった。
また、設置後しばらくしてから、求めに応じて新しい手続を設けた歴史も記載されていた。
発案から稼働までには最短で数年、長いと数十年という年月を要しており、公証ではどう行動を取ったのかは詳しくは読み取れず、複数を見比べ推理も交えて慮るしかなかった。

ベッドの上を開いた書物だらけにして、アレクサンドラは、窓口設置以外で新しい認証を設けるのはどうかと考えた。
今の庁舎で実施可能で、認証の必要性が高く、求められてもいるものが何かないだろうか。
もしそれを手続化してうまく軌道に乗せられれば、その後で窓口設置という本体を持ち出した時に説得力が出る。
ニーズを誰か拾っていないか、アレクサンドラの耳に届いていないことがないか、職員に聞いてみたいと気持ちが逸る。
もちろん、"新規"になるため、支出増にはならないようにし、制度の枠組みを慎重に組まなければならない。
やらねばならぬことを指折り数えていると、入室して来たメイド長が、室内で控えていながら忠言できないでいたメイドを叱り付け、安静ということの意味を女主人に懇々と諭しながら書を全て撤収し、仰臥の体制へと追いやった。


翌々日にやっと登庁できたアレクサンドラは、溜まっていた決裁を処理し終えると、要望関係の記録の綴りを借り出した。
公証への要望については、といっても大抵は苦情も兼ねられていたが、要望者、要望日、内容、対応、記録者が1枚に1件ずつ書き留められてあり、日付順で特に整理はされていなかった。
要望を受けた者が業務に感(かま)けて記録を怠り、取り零しはあるものの、ただの揚げ足取りに留まらない理由のある要望は残されており、当面は十分であった。
捲っていくうち、認証内容の拡大を求めるものを見つけて、紙に書き出してみると、目を引いたのは遺言に関するものであった。
貴族・市井を問わず、相続は大きな財産が動くことが多く、誰がどのくらいの金を手にできるかで争いが絶えなかった。
帝国で定めているのは爵位に関する制度のみで、財産については遺言状があればそれに、なければ慣行に従うこととなっている。
長子がほとんどを受け継ぐのが通常だが、地域によっては、配偶者が大部分を取ったり、親と折半だったり、兄弟姉妹も含めて均等割りをしたりと慣行が微妙に異なり、とかくトラブルが発生した。
このため、遺言状があるかどうかが相続の肝であったが、その遺言状についても、それが本当に真筆か、最新のものかなどが揉める種になった。
遺族が発見した遺言状が、故人の遺志を示す有効な書面かどうかが容易に分かればどんなに楽か、という希望は、相続で不快な思いをした者や、周囲でそれを見聞きした者ほど大きく持っていた。
もちろん遺言により家族外の者、使用人や愛人、友人に財産を分与することも往々にして起こるため、遺言状の存在を邪魔に思う者も少なくなく、万能の書面とは言えないところではあったが、遺言状が有効かどうかを誰かが保証可能ならば、非常に有用であると思われた。
その保証について、公証でできないのかという要望が寄せられたということは、ある程度信頼はされている表れと見ていいのだろうか、とアレクサンドラは思案しながら、遺言状認証の可能性を考えてみた。
彼女の記憶が正しければ、他国で同様の例はまだ見られなかったはずであり、先例を参考にすることはできなさそうだ。
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